23 弟子に、してください
「弟子に、してください」
「............」
もう何度目になるかもわからない私の弟子入りのお願いを、じいちゃんは首を縦に振るでも横に振るでもなく、完全に無視。
私に背を向けて座り、なんかエレキディアの角をヤスリで削り、磨いている。
星空は雲に覆われ月明りすら届かない、暗くて静かな夜。
蝋燭と囲炉裏(的なもの)が発する暖かな光が、じいちゃんの輪郭を照らしている。
狩りについて行ってから、じいちゃんの技を教えてもらいたいという私の気持ちは、ますます強いものになっていた。
私が強くなるために間違いなく役に立つ技術だし、なにより鹿と戦っていたじいちゃんが、凄くかっこよかったから。
でも、そんな私のお願いを、じいちゃんは聞いてもくれない......。
<なぜ、認めてくれないのでしょうか?流派の掟みたいなものでも、あるのですかね?>
うーん、なんでだろうね......?
まぁ、理由については考えてもわかんない。
大事なのは、じいちゃんの首を縦に振らせることだよ!
正面からお願いしてだめなら、ここは少し、邪道な方法を使わせてもらうぜ!
「............」
無言で作業を進めるじいちゃんの前に回り込み、正座する。
そして、す......と、私が以前から愛用している小袋を差し出す。
小袋はソフトボール大に膨らんでいる。
「............」
作業の手を止め、これはなんだ、と目で問いかけるじいちゃん。
「............」
開けてみればわかります、と目で返答する私。
「............」
袋の口を開け、中身を取り出してみるじいちゃん。
そして袋の中から転がり出てくる、巨大ダンゴムシ!
これ、私が朝のうちにおやつにしようと思って捕っておいたやつなんだよね!
多分食いでがあって、おいしいと思う!
「............」
あっ!ちょっとじいちゃん捨てないで!無言でダンゴムシ投げ捨てないでよ!
そいつ炙ったら絶対においしいよ!?
エビとかカニの仲間みたいな味するんじゃないかな!?
ちくしょう!わいろ作戦は失敗か!
<せめて、料理してから出すべきでしたね......!>
うん、そうだねオマケ様......。
でもとりあえず、お願いはしておこう。
「弟子に、してください」
「............」
じいちゃんは無言のまま、ため息を一つついた。
「............なぜだ?」
そしてぼそりと、そうつぶやいた。
!!こ......これはダンゴムシ効果なのか!?
交渉が進展した!?
この機を逃してはならない!!
「強く、なりたいから」
「............」
「死にたくないの。強くなりたいの」
「............オレでなくとも、よいだろう」
「じいちゃんがいい」
「なぜ」
「じいちゃんは、優しくてかっこいいから」
「............」
「じいちゃんに、教えてほしい」
「「............」」
そして沈黙。
ゆらゆらゆれる蝋燭の炎に照らされるじいちゃんは、微動だにしない。
腕を組んで、目を閉じ、ずっとうつむいている。
無音の空間が続く。
時折ぱちりと、囲炉裏から薪のはじける音が聞こえる。
「............」
そこから一時間は経った頃だろうか。
じいちゃんは突然かっと目を見開き、じっと私を見つめたあと、おもむろに立ち上がった。
そのまま壁に向かい、歩いていく。
<......どうしたんでしょうか?>
何か、しようとしている。
それだけは感じ取ることができた私は、じいちゃんの一挙手一投足を見逃すまいと集中する。
【魔力視】発動。
壁際にたどり着いたじいちゃんは、そのまま足の裏を壁につけ、そして......。
え?
は?
じいちゃんはそのまま、まるで床を歩くかのような気軽さで、壁を垂直に歩き始めた。
そして今度は天井に足をつけると、上下さかさまになりながら天井を歩く。
え?なに?なにが起こってるの?私は何を見せられてんの?
そうやって前代未聞の方法で部屋を「一周」したじいちゃんは、固まって動けない私の前に戻ってきて、一言。
「............【紙魚】」
とだけつぶやき、再びエレキディアの角を磨き始めた。
オマケ様、今のは......。
<技を......みせてもらった、ということでしょうか......?>
シミ......【紙魚】、か。
技をみせてもらった。
なるほど。
......つまり私の弟子入りは、認めてもらえた、と。
<は?>
ただし、まずはこの【紙魚】、再現してみせろ、と。
<え?>
それくらいできないようでは、この先修行をつける価値もない、と。
<ちょっと、エミー?>
......わかりました、やってみせましょう。
<おーい、ちょっとー?>
この課題、必ずクリアします。
<何言ってんですかー?>
私があなたの弟子としてふさわしい存在であること、証明してみせましょう!
<............>
改めて、これからよろしくお願いします......師匠!!
<あの、これ本当に弟子入り認められたんですか?その認識で間違いないんですか?>
間違いないよ!私と師匠は心が通じ合ってるから、それがわかる!
<だから、言葉を使って会話してくださいって!!>




