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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
2 故郷の村、滅亡編!
18/704

18 【赤髪勇者物語ダイジェスト】フェノベン村の滅亡と勇者の旅立ち

「今、この世界アーディストは、危機にさらされています......」


 どこまでも続く、白い空間。

 魂の状態でふわふわ浮かんでいるオレの前で、その美しい金髪の女神様は、そんなことを言った。


「今はまだ闇に潜み力を蓄えていますが、魔王が生まれたのです。彼の者は人間を滅ぼし、そして世界を我が物にしようと企んでいます......」


 女神様の美しい声が、なんだかぼんやりしているオレの頭の中に、しっかりと刻み込まれていく。


「お願いします。異世界の勇気ある魂よ。勇者となって、このアーディストを救ってください。

彼の者を打ち倒し、私の愛するこの美しい世界を、どうか守って......!」


 女神様は今にも泣きそうだった。

 女の子は泣かせちゃいけない。

 死んだオレのじいちゃんが、いつも言っていた言葉だ。

 ......困っている人がいるなら、力を貸してやらなきゃな!


 まかせてくれよ女神様!

 マオウだかハオウだか知らないが、悪い奴はオレが倒してやる!


 勇者......なってやるぜ!




◇ ◇ ◇




 そんな女神様とのやりとり、そして鈴堂 翔太という名前で過ごした前世の記憶を思い出したのは、オレが5歳の誕生日を迎えてからしばらくたってのことだった。


 今世におけるオレの名前は、トーチ・フェノベン。

 フェノベン村に住むごく普通の少年だった。


 そう、オレは昨日までは本当にただの少年に過ぎなかった。

 フェノベン村は、小さいけど村人たちが互いに助け合う、暖かい村だ。

 オレはそんな村をまとめあげる村長である親父を、子ども心ながら尊敬していたし、将来は親父みたいな立派な大人になって、この村を守っていくんだって考えていた。


 だけど今は、違う。

 オレには、果たすべき使命がある!

 いずれ姿を現すであろう災厄、魔王を打ち倒し、人々を、そして世界を救う。

 そんな使命が。

 体の奥底からあふれ出してくる力が、それを証明しているんだ!




 大人たちには黙って近くの森に行き、勇者として女神様に与えられた力を試してみて、驚いた。

 小さな火の魔法を使うつもりが、大爆発が起こりあたり一面を焼け野原にしてしまったのだから!


「......これは、制御に練習が必要だな。まったく、【聖神の加護】の力ってのは、とんでもないな......」


 思わず苦笑し、独り言をこぼしてしまう。

 【聖神の加護】とは、オレをこの世界に転生させてくれた女神様がオレに授けてくれた、戦うための力だ。

 今でもこんなに強力なのに、鍛えるともっともっと強くなる、と女神様は言っていた。

 本当にとんでもない力だ。

 そしてこんな力がなければ倒せない、魔王という存在に改めて戦慄する......!


 慣れない力を使いちょっとだけ疲れたオレは、すぐに村に帰ることにした。

 この力のことは村のみんなには内緒にしようと思っていたけど......早速、妹分のキャロにばれた。

 というか、こっそり村を抜け出したこと自体キャロには感づかれており、オレが力を行使する場面をばっちり見られてしまったのだ。

 怯えられるかと心配したけど、オレが勇者の力を使えることを知ったキャロは純粋に喜んでくれたんだ!

 はしゃいでぴょんぴょん飛び跳ねるキャロはとてもかわいい。

 この子の笑顔を守る......そのためにも、邪悪な魔王は必ず打ち倒さなければ!




◇ ◇ ◇




 幸いなことに、あれからオレの力はキャロ以外の村のみんなにばれることもなく、穏やかな日々がすぎていった。

 当然勝手に村を抜け出したオレとキャロは親父にこっぴどく怒られたけど......。

 キャロも黙ってくれていたし、あの大爆発の原因がオレだということは、気づかれなかった。


 「災いが......」とか「呪い子が......」とかわけのわからないことをつぶやきながら怯える村人たちには悪いけど、真相はまだ秘密にさせてもらう。

 力を制御できていない今のオレは、救世の旅にでるには幼すぎると思うんだ。

 だって今世のオレ、まだ5歳児だぜ?いくら【聖神の加護】があるとは言え、村を出て旅をするなんて無謀だと思うんだ。

 旅立つのはもっともっと成長して、訓練を重ねてからだ!


 ......それまでは、この暖かくて居心地の良い村でもう少しのんびりさせてもらっても、良いだろ?


 ......そんな考え、今思うと甘えでしかなかったんだけど。


 そんな甘えを粉々に打ち砕き、オレが否応なしに村を旅立つことになるのは、オレの力と記憶が目覚めてから、おおよそ1か月後のことだった。




◇ ◇ ◇




 その日、村を3人の盗賊が襲った。

 メグザム盗賊団と名乗ったそいつらは、あろうことかキャロを人質にして村から金を奪い取ろうとしたんだ!

 さすがにこれは、力を隠している場合じゃない。

 【聖神の加護】から得られる力を体の制御にまわし、木刀で盗賊団を相手取り、戦う。


 結論から言うと、盗賊団は弱かった。

 加護のおかげで身体能力が向上したオレの目には、盗賊たちのふるう大鉈の動きはまるで止まっているように見えた。

 むしろ自分の力を制御するために余計な力を使ってしまい、奴らを村から追いだしたときにはもうへとへとだった。

 だって、いくら相手が盗賊団とはいえ、もしうっかり取り返しのつかないケガをさせたり、殺してしまったりしたら目覚めが悪いだろ?

 オレはこういう争いのない平和な国、日本からの転生者で、まだ5歳の幼児なんだから。


 ......だけど、この判断のせいで、オレは余計な力を使ってしまった。これがまずかったんだ。




 ぐさり。




 オレの腹を、氷の刃が貫く。


「え......?」


 突然のことで、思考が停止する。

 なにが?なんで?どうして?

 疑問で頭が埋め尽くされる。


 オレは魔法で作られた氷の刃で、突然腹を一刺しにされた。

 その氷の刃を握っているのは、オレの大切な妹分。

 水色髪の幼馴染であり、同居人。


 無事を確かめるために駆け寄った、キャロだった。


「まったく、手間をかけさせてくれたな。【聖神の加護】が弱まる瞬間を狙っていたが、余計な時間をくってしまった」


 キャロはいつもとは違う、驚くほど冷たい口調で独り言ちる。

 氷の刃がオレから引き抜かれ、オレはその場に倒れる。

 流れ出る血が、地面に吸い込まれていく......。


「な......んで、キャロ......?」


「......まだ生きているのか。さすがは勇者と言ったところだな」


 水色髪の少女はため息をつきながら答える。

 その肌色は、いつの間にか青白く変色していた。


「では、その虫のようにしぶとい生命力に敬意を表し、改めて自己紹介しようか。私の名前は“氷刃のキャロ”。魔王様に貴様の監視、そして殺害の命を賜った者だ。どうだ、疑問は氷解したか?」


 魔王?

 オレを監視?

 キャロが?

 つまり、キャロは、魔王の手下?

 混乱する。

 腹の痛みもあり、思考がまとまらない......。


「くくく......良い顔をしているな。やはり裏切られ、絶望に染まった人間の表情というのは実に素晴らしい!」


「裏、切り......なんで......」


「なんで?私は魔族、魔王様の忠実なるしもべ。となれば、魔王様から命がくだった以上、敵である貴様を生かしておく必要はあるまい?」


「じゃあなんで......キャロは、泣いているの......?」


「......!?」


 オレの指摘に驚き、頬をぬぐうキャロ。

 そう......キャロは確かに、泣いていた。

 言われて気づくあたり、無自覚だったらしいけど。




「......ふん、興がそがれた。貴様とのおしゃべりはもう終わりだ」


 しかしながら、涙をぬぐいさったキャロには、もはや先ほど感じたわずかな驚きすら残っていない。

 冷酷な表情を取り戻し、氷の刃を構えオレに近づく。


「せめてもの情けだ。これ以上苦しまないよう、一思いに首をはねてやろう」


 そういって小さな体に似合わないほど大きな氷の刃を掲げる。

 あれが振り下ろされたとき、オレの今世は終わるのだろう。

 何が勇者だ。

 力をろくに使いこなせず、何もなせないまま、何者にもなれないまま、オレはこのまま死んでいくのか。


「では、さらばだ」


 キャロは一言そういって、刃をオレの首めがけ振り下ろす。

 オレの首ははねられ、トーチ・フェノベンの人生は幕を閉じる。


 ......そのはずだった。







 ガキン!!







 金属同士をぶつけたような、硬質な音が響き渡る。

 オレの首を狙い振り下ろされた氷刃は、黄金に輝く美しい剣によって止められていた。


「何!?」


 驚き、距離をとるキャロ。


「......ハッ、ハァッ!なんとか間に合ったぜぇぇ......」


 荒い息を吐き、オレの命を救ってくれた黄金の剣をキャロに向けて構えなおしたのは、これまた黄金の鎧を身にまとった、金髪の男だった。

 見事に金色尽くしだ。


「貴様は......特級冒険者“黄金のアルクス”だな!?なぜこんなところに......!!」


「へっ......ちょいと、野暮用でなぁぁ。こっちも、こんなところに魔族がいるなんて、考えもしなかった......ぞッ!!」


 そういって、アルクスは一瞬で間合いを詰め、キャロに斬りかかる!

 速い!!

 オレの目でもその動きは、まったく捉えることができなかった!

 高速でぶつかりあう氷刃と黄金の剣。

 目にもとまらぬ打ち合い。

 ガ、ガ、ガ、キン!!と少し遅れて音が響く。


「くっ......!!さすがに貴様が相手では分が悪いか......!」


 後ろに跳び下がり間合いを取ったキャロは肩で息をしながら何やら呪文をつぶやく。

 そして。


「『門よ開け、彼の者共を呼び寄せろ!【サモン】!!』」


 そう叫んだ彼女の足元に紫色の魔法陣が出現し、そこから巨大な狼やドラゴンといった恐ろしい魔物達が、次々に飛び出してくる!


「ンなッ!?召喚魔法だとぉぉッ!?」


「覚えておけアルクス!この借りは必ず返す!我ら魔王軍に歯向かったこと、いつか後悔させてくれるぞ!『門よ開け、我が身をかの地へと運べ!【テレポート】ッ!!』」


 次の瞬間には、次々に魔物が湧き出す魔法陣を残して、キャロの姿は消えていた。


「ちぃぃっ!あいつ好き勝手言うだけ言って逃げやがったな!それにしてもッ......」


 周囲を見渡すアルクスの額を一筋の汗が流れ落ちる。


「う......うわぁっ!?なんだ!?」

「たっ助けてっ......!!」


 アルクスたちの戦いを混乱しながら眺めていた村人たちが、魔物に襲われている!


「最悪な置き土産を残していきやがったなぁぁッ!!」


 襲いかかる狼の魔物を切り捨てながら、アルクスは叫ぶ。

 彼にとっては一匹一匹の強さは大したことはなくても、手数が足りない。

 次々に襲撃され、それをさばくのに精いっぱいのアルクスはその場に縫い付けられ、動くことができない!




「う......ゲホッ......」


 こうしている間にも、村人たちは魔物に襲われ、次々にその命を落としている。


「まも......らなきゃ......!」


 ......オレは力を振り絞り、木刀を支えに何とか立ち上がる。


「村の......みんな、は......!オレが、守る!」


 そして、血反吐を吐きながら、魔物達に向け木刀を構える。


「ボ......坊主!お前さん、ケガしてんだろッ!!?無理せず寝とけぇぇ!!」


 金色のおっさんが何か言っているが、意識が朦朧としてよく聞き取れない。

 しかし、オレは戦わなくちゃいけない。

 守らなくちゃいけない!

 大切な人たちを守れずして、何が勇者か!

 少しだけ残ったなけなしの加護の力を集め、無理やり体を動かす。

 ボロボロになった体に、燃料をくべる!




「うおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーッ!!!」




 そして、魔物達に斬りかかろうとして......オレの意識は暗転した。




◇ ◇ ◇




「......はっ!!?」


 オレが再び目を覚ましたとき、あたりはもうすっかり夜だった。

 紫色の夜空には無数の星々がちりばめられ、きらきらと瞬いている。


「こ......ここは......?」


 あたりを見渡す。

 どうやらこの場所は、どこかの街道脇の広場らしい。


「ンなっ!?坊主、もう目が覚めたのかぁぁ!?」


 パチパチと音をたてながら燃える焚火に照らされた、金色のおっさんが慌てて近づいてくる。


「無理すんな!寝とけぇぇ!お前さん腹に大穴空いてたんだぞ!?」


 そう言われ、思い出したかのように刺された腹が痛み出す。

 しかし両手で覆ったその場所は、既に傷がふさがっていた。

 多少跡が残っているが、ここに穴が空いていたとは信じられないほどきれいに治っている。


「え......?なんで......?」


「......オレがあの後お前さんにポーションを使った。一瓶で家が建つ高級品だぞぉぉ?」


 ここでいうポーションとは、振りかけるだけで傷が癒える魔法薬のことだ。

 どうやらこのおっさん......アルクスさんによって、オレは命拾いしたらしい。


「あ、ありがとう、ございます」


「......気にすんなぁぁ。オレは特級冒険者、実は金持ちなんだ。わかるだろぉぉ?」


 そういっておどけながら、アルクスさんは着こんでいる金色の鎧をこんこんと叩く。


 オレの隣に腰を下ろしたアルクスさんは、カバンから取り出したタバコに焚火で火をつけ、吸い始めた。

 時折吹く冷たい夜風が、オレたち二人しかいない広場に吹き込んでは、焚火とタバコの煙をどこかに運んでいく。

 ......そう、この広場にはオレとアルクスさん、二人しか、いない......。


 薄々感づいては、いた。だけど、聞かずにはいられなかった。




「あの、アルクスさん」


「ンあぁぁ?」


「あの......村のみんなはどうなりましたか」


「............」


「フェノベン村のみんなは......?親父は......?おふくろは......?」


「............」




 アルクスさんはオレから目をそらし、ふぅーーー......と大きく息を吐く。

 煙が紐のように空へと延びていく。

 そして。




「オレが、助けられたのは、お前だけだ」




 端的に、そう言った。




「............ッ!!」




 思わず歯を食いしばる。

 視界がにじむ。




「守れ......なかった......!誰も!オレが......オレが、弱かった、からっ!」


 それ以上、言葉にすることはできなかった。

 オレは泣いた。

 ただただ泣いた。

 自分の弱さが情けなくて、ふがいなくて泣いた。

 アルクスさんは、黙ってオレの隣に座っていた。




◇ ◇ ◇




「お前さん、これからどうするよ」


 ようやく泣き止み少しだけ落ち着いたオレに、これで大体10本目になるタバコの吸い殻を焚火に投げ捨て燃やしながら、アルクスさんはそう尋ねてきた。


「どこか別の街に縁者はいるか?連れて行ってやるぞぉぉ?」


「............」


 オレは黙って首を横に振った。

 親父やおふくろの家族は、みんな流行り病で亡くなった、と以前に聞いたことがあった。


「......天涯孤独ってやつかねぇぇ......」


 深くため息をついて、アルクスさんは独り言ちる。


「オレと同じだなぁぁ......。オレも今回の件で、唯一の家族が死んだ」


「......え?」


「あの村にはなぁぁ、オレの弟家族が住んでいたんだよ。コーディっておっさん、知ってるかぁぁ?」


 コーディおじさん......村はずれに住んでいた酔っ払いのおじさんだ。


「あいつが足を怪我して冒険者を引退してから会ってなかったからなぁぁ.......。6、7年ぶりに顔でも拝みにいくかと思ってた矢先に、これだ。ガキもこさえたって噂を聞いてたのに、やるせねぇなぁぁ......」


「......コーディおじさんは、一人暮らしだった、けど?」


「ンあぁぁ?......そうか、あいつ嫁と娘に逃げられてやがったか......」


 は、は、は、と、アルクスさんは乾いた笑いをこぼす。

 コーディおじさんに妻子がいたなんて話、初耳だった。




「まぁ、オレのことなんてどうでも良い。話を戻すぞぉぉ。もし、お前さん、行く当てがないなら、オレが信頼できるヤツを紹介してやる。ドロッグという商人だ」


「......」


 ......商人?


「厳しいが、義理堅くて良いヤツだよ。それにいつだって人手を欲している。そいつのところでなら、お前さんも食うに困ることはないだろぉぉ」


「......」


 危険から身を遠ざけ、街中で平穏に暮らせと......?


「どうだ?悪い話ではないだろぉぉ?......助けたついでだ、遠慮する必要はないぞぉぉ?それくらいの面倒はみてやる」


「......あのっアルクスさん!オレ......!!」




 突然大声を出したオレに驚き、焚火を眺めながらしゃべっていたアルクスさんがオレを見つめる。


「オレは、強くならなきゃいけないんだ!あんな魔物達になんか負けないくらい、強く!だから......!!」


 そこまで一息で言い切り、アルクスさんのまなざしが睨みつけるような......鋭いものに変わっていることに気づく。

 ひるまず、その瞳をまっすぐに見つめ返しながら、続ける。


「オレを......オレを!あなたの、弟子にしてください!!」




 訪れる静寂。

 パチパチという焚火の音だけが響く。


 アルクスさんは再びタバコを吸い始める。

 深く吸って、吐く。

 焚火に照らされ赤く色づけされた煙が、細く、長く空に向かって伸びていく。







「......嫌だなぁぁ......」


 アルクスさんは、そうつぶやいた。




「お願いします!オレに戦い方を教えてください!オレ、このままじゃダメなんだ!このままじゃ、何も守れない!オレは、オレはもっと強くならなきゃいけないんだ!!」


「勇者......だから、かぁぁ?」


「!!?」


 アルクスさんの一言に、固まる。




「『なぜわかった?』ってかぁぁ?」


 くっくと含み笑いをしながら、アルクスさんは続ける。


「お前さんが村でぶっ倒れる前、気合い入れて叫んでたあの瞬間、お前さんからとんでもない神気を感じたぁぁ。それに、高級ポーションを使ったとはいえ、あまりに回復が早い。その時点で、神々から何らかの加護を授けられていることは確実だなぁぁ。あと、あの魔族の嬢ちゃんの狙いは、お前さんみたいだったし......魔族に狙われる加護持ちが何かと考えたら、そりゃあ勇者以外あるめぇよぉぉ?」


 大きくため息をつき、アルクスさんは肩を落とす。


「こういうのはよぉぉ、“剣聖”だの“大魔導”だのの仕事だろぉぉ......オレみてぇな三枚目には似合わねぇよぉぉ......。ドロッグに丸投げして、あとは知らんぷりのつもりだったんだがなぁぁ......」


 下を向いてぶつぶつと独り言を言った後、再びオレと目を合わせたアルクスさんは、さっきまでとは違う、真剣な表情だった。




「お前さん、名前は?」


「......トーチ......トーチ・フェノベン」


「そうか、トーチ、か......。つらいぞ?」


「え?」




「やるからには、オレも覚悟をきめて全力でやる。お前さん、何があっても逃げずに、オレについてこれるか?」


「はい!絶対にオレは逃げない!」


「......良かろう。勇者に弟子入りを志願される。ならばそれが、オレの運命なのだろう。お前さんの願いは承知した!」


「なら!」


「あぁ、トーチ。お前さんは、今日からオレの弟子だ。ビシバシ鍛えてやるから、泣き言なんか言うんじゃねぇぞ。いいな?」


 大きな手でオレの頭をなでくりまわしながら、アルクスさんはニヤリと笑った。


「はいッ!!」




 夜空を見上げると、満天の星々がきらめいている。

 人が亡くなると、その魂は天に上り、星になって地上に残った家族を見守ってくれる。

 フェノベン村の言い伝えだ。


 親父もおふくろも、優しかった村のみんなも、きっと空からオレのこと、見てくれているんだろう。

 ごめんな、守れなくて......。

 でもオレ、もっともっと強くなって、こんな不幸は無くしてみせるから。世界を、救ってみせるから!


 応援して、くれるよな......?




 夜空の星々は、何も返さない。ただきらきらと瞬くのみ。

 でもその光はとても優しく、暖かなものだった。







 これが勇者トーチ5歳、故郷から旅立った日の出来事。

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― 新着の感想 ―
すご……道程から結末まで全て読めてしかもめちゃくちゃつまらなそうなテンプレプロローグ。 これまで無数に異世界物語を紡いでいるはずの聖神様才能無さすぎる。
[良い点] しっかり踏んでるテンプレが素晴らしい
[一言] ここだけ見ると王道の英雄譚の導入部、裏を知る身としては「トーチはやはりエミーを認識していなかった=モブは目に入らない」「アルクス、お前は姪のエミーに冷た過ぎ=舞台装置としての役柄ゆえか?」な…
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