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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
10 ルークリース家の姉妹編!
159/720

159 身の上話

さて、エミー。

まずは改めて、自己紹介からさせてもらおうか。


私の名前は、ナレ。

ナレ・ルークリース。

ルークリース家当主。

16歳の、女だ。

......少なくとも、肉体的にはね。


ルークリース家と言えば、ここサリュナス国において、マカリンキス鉱石の坑道を代々所有、管理する豪族だ。

そんな家の一人娘であった私は、即ち、生まれながらに将来が約束されたエリートであったわけだ。

当然、前当主であった母から、それはそれは厳しく躾けられたものだよ。


母......トーレ・ルークリースは、仕事のできる人ではあったが、情というものが薄く人心の機微にも疎い人だった。

ドッジを始めとした部下たちにも随分とつらく当たっていたらしいし、父であるあの男、サーレッカに対してもそれは同じだった。

父は特に、仕事のできない人だったからね。

あの男も国内の豪商の四男で、それなりに教育は受けていたはずなんだけどね。

弱気なあの男の性格と、傲慢で冷酷な母の性格の相性が致命的に悪く、力を発揮できる環境になかった......それは事実かもしれないけど、それにしたってね。

母はサーレッカの顔を見るたびに罵りなじり、あの男は反論もできずに委縮して小さくなる。

私にとっては、それこそが夫婦の在り方だった。

もともと、かなり歪んだ家庭環境で育っていたわけだ。


しまいにはあの男、愛人であるファテウの家に入りびたり、このお屋敷には帰ってこなくなった。

母はそんな男のことを、ずっと放置していた。

母の中では、私が生まれた時点で、あの男の役割ももう終わっていたんだろうね。

私とほぼ同い年の異母姉妹が生まれていようが、お構いなしだった。




さて、そんな母であったが。

終わりの時は、それはそれはあっけないものだった。

ある時、坑道で落盤事故が起こってね。

視察に出ていた母はその事故に巻き込まれ、そのまま帰らぬ人となった。


驚いたし、悲しかったね。

どれだけ苛烈な人間であったとしても、トーレ・ルークリースは私にとっては、やはり母であった。

唯一の、家族でもあった。

父?

家に帰ってこない人間を、家族だなんて認めるわけないだろう?


まぁ、とにかく、あの頃の私はどうしようもなく、ただの小娘だった。

母の死を悼み悲しむ、ごく普通の小娘であったわけだ。




だから、心底驚いたし、憤慨もしたよ。

葬儀の手伝いもしなければ、式に一切顔も出さなかったあの男、サーレッカが突然私の所にやってきて、『家督を父である私に譲るように』なんて要求をしてきた、あの時にはね。


この国において、家督は嫡子に受け継がれるものだ。

入り婿である父がこの家を相続するには、嫡子である私の同意が必要なんだ。


もちろんそういうことは、あり得ない話ではないのさ。

何せ私は、母から厳しく躾けられていたとはいえ、16歳の小娘だ。

経験を積み成長するまで、父がその仕事を代行する。

普通なら、納得のいく話さ。


ただね、相手は仕事ができないうえに家にも帰ってこないダメ男だ。

当然、そんな要求は、のめるわけがなかった。

ふざけるなと、かなり口汚く罵ったね。


そうしたらあの男、どうしたと思う?

懐からナイフを取り出してさ、こう言ったわけだ。

『死にたくなければ、言う通りにしろ!』ってさ。

ははは、今思うと、あの臆病な男がそんなこと、良くやったものだよね。

ファテウに唆されていたらしいんだけど、まぁ、とにかくあの男らしくない行動だった。

臆病な父親が勇気を振り絞って刃を向けた相手が実の娘とか、本当におもしろくもないジョークだよね。


ん?

なんだエミー、君も父親に刃を向けられたことがあるのかい?

ははは、それはそれは!ご愁傷様だね!

なんだか親近感が湧いちゃうなぁ。




さて、一方のこの私。

ナイフを向けられた娘、ナレ・ルークリースはその当時、どうしようもないほどに、ただの小娘であった。

いつもはおどおどしていた男の豹変ぶりに、すっかり怯えてしまってさ。

逃げたんだ。

当主執務室にね。


そして、扉に鍵をかけて籠城を開始したわけだ。

幸いなことに、屋敷の鍵は当主執務室にて保管していたからね、これであの男は私に手出しをできなくなった。


私はあの部屋の中で、とにかく恐怖に震えていたよ。

もともと母の苛烈な性格のせいで、娘である私さえも屋敷の中では嫌われていたからね。

味方は一人もいない。誰も信じられない。

混乱して何も考えられなくなって、ただただがたがたと、震えていたのさ。

大体この状態が、一週間ほど続いた。


食料?

執務室の棚の中に焼き菓子があったからね、それを食べて凌いだよ。

水は、窓の縁に積もった雪を食べて何とかした。




さて、その一週間で、サーレッカはかなり好き勝手をした。

まず、私を『母の後を追って死んだ』と周りに公表した。

これについてはね、あまりに考えなしの行動だよね。

私が外に出て行けば、すぐにこの嘘は露見するわけだし。


ただ、サーレッカはファテウに、『家督を奪えなければ、私を殺せ』と唆されていたわけだからね。

『逃げられて、籠城されてる』なんて、愛人に伝えられなくて、嘘をついちゃったらしいね。

この行き当たりばったりの行動、実にあの男らしいよ。


そしてサーレッカは、愛人家族をこの屋敷に呼び寄せ、生活を始める。

それに反対する使用人は、いなかったよ。

長年ルークリース家に仕えていた主だった人間は、既にサーレッカがやめさせていたからね。

使用人たちも使用人たちで、母の苛烈な性格についていけず、家に対する忠誠心なんかもすっかりなくなっていたらしくてね。

このあたりの人員整理は、驚くほどすんなり進んだらしいよ。




さて、翻って、私だ。

一週間も部屋に籠っていればさすがに頭の方も若干冷静になるし、戸棚の焼き菓子のストックもきれてしまう。

いよいよもって、部屋の外に出ていかなくては、ならなくなった。


驚いたよ?

こっそりお屋敷の様子を覗いてみれば、ファテウやケランコが我が物顔で好き勝手しているし、見知った使用人たちがほとんどいなくなってしまっているのだから。

これはまずいと、さすがにただの小娘も気づいたね。

でも慌てていたその時、ただ一人だけ、母の代から屋敷に仕えている使用人が未だ働いていることに気がついた。

だから、その男にこっそりと、助けを求めにいったんだ。

それが、ドッジだった。


私の姿を見て、ドッジは驚いていたよ。

死んだと聞かされていた人間が、夜中にこっそりと、自分の部屋を訪れたんだから、そりゃあ驚くね。

で、ドッジはどうしたか。

驚きつつも、私のことを自室に招き入れた。

で、とりあえず落ち着くように、椅子を勧めた。

頭の足りない小娘はすっかり油断して、勧められるがまま椅子に座る。

そうして私が油断したところを見計らって、ドッジは私を殺したんだ。


そう、私を初めて殺したのは、ドッジだった。

部屋にあった置物を使って、後頭部を一撃、殴られたんだね。

痛かったなぁ。




そもそもさ、いくら母が嫌われていたからって、お屋敷の人員整理、すんなりいきすぎだと思わないかい?

サーレッカはその辺、本当に仕事ができないからね。

あれ一人では、そんなことできやしないんだ。

それを手伝っていた人間がいて、それこそがドッジだった。


それどころじゃない。

サーレッカの愛人であるファテウとさらに愛人関係にあったドッジは、ファテウに対してこんなことを刷りこんでいた。

『ナレさえいなくなれば、サーレッカがルークリース家の当主になる。そうすれば、この家の金や権力は、ファテウの思うがままになる』ってね。

だからこそ、ファテウはサーレッカに、私から家督を奪うようけしかけていたというわけだ。


つまり黒幕は、ドッジだったというわけだね。


そんな男を信じて無防備を晒したのだから、本当に救いようのないほどバカな小娘だったよ、私は。




で、だ。

本来であれば、こうして愚かな小娘は殺され、ルークリース家は......愚か者たちの食い物にされ、滅びていく。

そのはずだった。


だけど、ここで奇跡が起きた。

......時間の、巻き戻りだよ。


驚いた、なんてもんじゃない。

呆然としたね。

私は確かに、ドッジに殺されたはずだ。

その痛みも、憶えている。

なのに、私は、気づけば当主執務室で震えながら、籠城しているんだもの。


事態を把握して、当然私は喜んだ。

そして神に感謝した。


ありがとうございます。

これで、私は私の人生をやり直せる。

奪われたものを、取り戻せるってね。


天にものぼる心地だった。

......実際には、地獄に突き落とされていたんだけどね。




早速私は、行動を開始した。

まずはじめに、私はサーレッカの元を訪れた。

こんなことは良くない。

不正な家の乗っ取りはやめろ、と訴えた。


今思い返してみれば、全くもって愚かな行為だと呆れるほかないよね。

そんな私の主張を、サーレッカが認めるわけがないじゃないか。

認めてしまえば、その後に待っているのはあの男の破滅なんだもの。


当然、サーレッカとは話し合いにすらならなかった。

私の顔を見るなり、あの男は『アグゼリアリ』を構えて斬りかかってきたよ。

で、ばっさりやられて、二度目の死亡というわけだ。

多分これが、時間が巻き戻ってから死ぬまでの時間の長さで言えば、最短記録だよ。




さて次だ。

頼りになりそうな使用人は、私を殺してくる。

頼りない父も、私を殺してくる。

屋敷の中に、味方は誰もいない。

では、どうするか?

再び時間が巻き戻りやり直しのチャンスを得た私は考えた。


そして、外部の力を借りることにした。

こっそり屋敷から抜け出してね、役所にルークリース家の現状を訴えたんだ。


うん?

屋敷の外に、出ることはできないはずだって?

靄に包まれて、どこにも行けなかった?


ははは、確かに、今はそうだね。

でも、かつてはそうではなかった。

時間が繰り返しても私は屋敷の外に出ることができたし、屋敷の外でも人々は変わりなく生活をしていたんだ。


とにかく、私は役所に訴えた。

それはもう、大騒ぎが起こったよ。

豪族の娘に対する殺人未遂に、家の乗っ取り。

サーレッカの行為は普通に重罪だった。

あの男はすぐさまお縄についた。

そしてあの男を唆したファテウ、それを裏から操っていたドッジも捕まった。

ルークリース家は無事、私の手元に帰ってきた。

良かった、良かった!


......本当に、これで万事解決だったら良かったんだけどね。

でも残念ながら、そうはならなかった。

この結果を良しとせず、私に対して激しい恨みを抱いた人物がいたんだ。


それが、カラシアだった。

あれにしてみればさ、偶然転がり込んできたはずの名家の次期当主の座が、訳の分からないうちに私に奪われてしまった形だからね。

いや、奪われたというか、もともとの形に戻っただけなんだけどね。

とにかくあれは、私に対して恨みを抱いた。

あ、カラシアとケランコは、ファテウやドッジの計画には一切かかわりなかったからね、あの姉妹は屋敷から追放されただけで、捕まってはいなかったんだよ。


役所に助けを求める、私がこういう行動をするとね、確実に私はカラシアと敵対するんだ。

途中まではうまくいくから、私は何度かこの方法を試してみたんだけど、こうしてしまうとどうあがいても、私はカラシアに殺される。


ある時は、あれの“父の形見”である『アグゼリアリ』によって斬り殺された。

ある時は、食事に毒を盛られた。

ある時は、爆弾を使った自爆特攻により爆殺された。


とにかくね、あの女、凄まじい執念で私を殺しにくるんだ。

あいつやばいよ。

超怖い。


カラシア自身は私を殺すまで何も罪を犯していないものだから、事前に捕まえておくこともできない。

護衛を雇って防御力を高めても、その隙をついて私を殺していくんだ。

本当、始末におえない女だよ。




そんなこんなで、さ。

何度も何度も何度も何度も殺されているうちに、私は家のことなんて、正直どうでも良くなってきたんだ。

それまでは、代々続くこのルークリース家を引き継ぎ、次代へとつなげていかねばとか、そんなことを考えていた気がするんだけど......。

正直ね?

家のことなんかより、平穏無事な自分の人生を手に入れたい。

普通、そう思うよね?


だから私は、逃げた。

こっそり屋敷を抜け出して、どこか遠くに逃げ出そうとした。


だけどこれも、うまくいかなかったんだ。

そもそも季節は冬だ。

旅慣れていない小娘が遠出するには、厳しい季節。

そのうえ、このあたりには恐ろしい魔物が住んでいる。


ランラーシロトカゲっていうんだけど、知っているかい?

集団で行動する、冬でも動けるトカゲだ。


“氷雪に負けない逞しい生命力の象徴”ってことでさ、うちに代々引き継がれている家宝の指輪にもその姿が象られている魔物さ。


こいつらがさ、私の旅路を邪魔するんだ。

時間を変えようが、道を変えようが、私がこの小さな国を出ようとすると、必ずこいつらが襲いかかってくるんだ。

私には、残念ながら戦闘の心得はないからね。

襲われる都度、簡単に殺されてしまうんだよ。

いやはや、まいっちゃうよね。

生きたまま食われるってのはさ、割ときつい経験だったよ。




何をやってもうまくいかない。

逃げられもしない。

それなのに、時間は何度も繰り返す。


次第に私の心の中は、絶望に染まっていった。

何もかもが、どうでも良くなっていった。

時間が巻き戻り、当主執務室の中に帰ってきても、何もやる気が起きなくなった。


するとどうなるかと言うとね、私が餓死する前にサーレッカが扉の合鍵を作り、中に入ってくるんだ。

すっかり生きる意志を失い反抗するそぶりも見せない私を見て、あの男は私に危険性がないと判断し、屋敷の一室に監禁し始める。

生きていられても面倒だが、できることなら自分の手は汚したくない。

実に臆病なあの男らしい、消極的な害意の発露だね。


皮肉なことにね、こういう風に監禁されている人生が、実は一番長生きできるんだ。

でも残念ながら、長生きはできるけど、これが一番辛い人生でもある。


何せ、食糧は飢え死にしない程度のごく最低限の量しか与えられない。

そのうえ、しばらくするとね、私の存在がファテウたちに露見するんだ。


それからはね、酷いよ?

毎日毎日、いじめられるんだ。

酷い暴力を振るわれて、放置される。

特にケランコは、酷かった。

カラシアもやばいけど、ケランコもやばいね。

どうしてあんなにも、弱りきった人間に笑顔で暴力を振るえるんだろうね?

監禁生活の最後は、いつも楽しそうなケランコの笑顔で幕を閉じるんだ。




......本当に、ね。

私は疲れ切っていた。

何度も何度も何度も何度も繰り返される、地獄に。




だけどね。

ある時、おもしろいことに気づいたんだ。




とってもとっても愉快で爽快で痛快な、ショーを観覧する方法を、発見したのさ!

ループが生み出した地獄。

なお、今日、明日は一日一本の投稿となりますので、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この話面白くて好きです
[良い点] うっわ……(ー.ー;)(絶句) 無限の巻き戻りなんてしたら確かにこうもなるわな、しかも巻き戻りの起動点が地雷に囲まれた時点でのリスタートとか無理筋よ。 [気になる点] つまるところ(´Д…
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