13 とっても簡単!盗賊式暴力コミュニケーション!
茂みの中から私の拠点、カリヴァの大樹を覗き見る。
そこにいるのは3人の小汚い男たち。
私が石を組んで作ったかまどもどきには勝手に火がくべられ、肉があぶられている。
肉......肉だ!
私がいつも食べているネズミ肉とは違う!でかくて脂がしたたっていて良い香りがする、肉だ......!
香ばしい香りがこちらまで漂ってくる。
あぁ!強化されている嗅覚が今はうらめしい!
おいしそうだなぁ、食べたいなぁ......!
漂う煙も全部私が吸い込んでしまいたい......!
<エミー!その感情には激しく同意しますが、今はあの男たちです!>
はっ......そうだねオマケ様!あいつら一体何者だろう?
ボロボロの服と適当な皮鎧......っていうのかな?そんな感じの防具を着て、みんな人相が悪い。
あれならゴミクズ村の酔っ払いゴミクズ男のほうがよっぽどこぎれいだってくらいには汚い。
浮浪児の私が言えたことではないけど。
腰には物騒な大鉈を携えている。
あの太い腕で切り付けられたら、きっと私ではひとたまりもない。
......あの人たちが、いわゆる『冒険者』って職種の方々なのかな?頼めばお肉、分けてくれるかな(希望的観測)?
<いや、どうみても盗賊の類でしょう。のこのこ出ていけば、お肉を分けてくれるどころの話じゃありませんよ。あの大鉈で、あなたのお肉が分けられます(残酷な現実)>
......ですよねー!
でも、なんだって急に盗賊がこんなところに......。
<少し、様子をうかがってみましょう>
◇ ◇ ◇
「あぁ!クソ忌々しい!!」
3人の中で一番体の大きなひげもじゃの男、盗賊団のお頭であるメグザムは酒を煽り、盃を地面に叩きつけた。
「全くですぜ!なんなんすかね、あの赤髪の生意気なガキは!」
顔の細長い男、メグザムの舎弟その1、アンダーがもみ手でメグザムに追従する。
「本当だよな!あの村にあんなバケモノみたいに強いガキがいるなんて話、聞いてねぇ!」
顔の四角い男、メグザムの舎弟その2、タッパも、この会話の流れに乗ろうとする。
「あぁ!?」
しかし、それがメグザムの逆鱗にふれた。
メグザムはタッパの顔面を思い切り殴りつけ、叫ぶ。
「タッパ、てめぇ!それはオレの下調べが足りねぇって、そういってんのか!?あぁ!!?」
この盗賊団、3人とも頭がそれほどはたらく方ではないが、お頭のメグザムが一番賢い。
したがって、略奪の作戦を考え、指揮をとるのはメグザムだ。
今回の仕事......フェノベン村を襲撃して作物やら金目の物やらを奪うという略奪行為を計画したのも、メグザムだ。
「てめぇらは!バカでバカでどうしようもなくバカで!弱っちぃクセに!!文句ばっかはいっちょ前だよな?あぁ!!?殺すぞ!?殺されてぇのか!!?」
「ちっ違......すんません!お頭、すんません!ゆっ......許してッ!!」
メグザムは殴り飛ばされ地面に転がったタッパを執拗に踏みつけ、痛めつける。
タッパは鼻血をたらしながら謝るほかない。
「......ちっ。おいアンダー!そんなところで固まってないで、お前もこっちに来い......」
「はっはいぃ......」
いらだちのおさまらないメグザムは、近づいてきたアンダーの顔面も殴りつける。
酷い横暴である。
「あがっ......」
悶絶するアンダー。
......タッパとは違って彼はうまくやる男なので、ある程度衝撃を受け流してダメージを減らしてはいるが、痛いものは痛い。
「おい、アンダー、タッパ、オレたちは、なんだ?」
「「はいッ!オレたちは“ヤボーノーヴェの狂犬”!メグザム盗賊団です!!」」
舎弟二人が声を合わせ、叫ぶ。
「そうだッ!!その、“狂犬”がッ!!あんなガキにボコされて、逃げかえるッ!!ふがいねぇなぁッ!!?」
「「はいッ!ふがいないです!!!」」
「んだとゴラァァァァッ!!」
「「ギャアアァァァァァッ!!!」」
メグザムはまたも理不尽に舎弟二人に暴力をふるう。
彼らの中では力こそがすべてだ。
メグザムは彼らの中では一番強いので、つまり彼は何をしても許されるのだ。
許されてきたのだ。
メグザムは強かった。
そして自分よりも強い相手にケンカを売らないという賢さというか、強者を嗅ぎ分ける嗅覚も持ち合わせている。
少なくとも舎弟二人は、メグザムが戦って負けた姿を見たことがなかった。
だからこそ、遠く離れた“盗賊の国ヤボーノーヴェ”から、いくつもの山を越え、ここまでついてきたのだ。
そのメグザムが、負けた。
適当に村人を殺して略奪を行うはずだった。
水色の髪をした少女を人質にして、村人たちに金品を持ってこさせようとした。
しかし、それがいけなかった。
「......キャロに、乱暴をするなッ!!」
なんと、そう叫びながら突然現れた赤色の髪の少年が、少女を助けるためメグザムを蹴り飛ばしたではないか!
あまりの衝撃で3メートルほど吹き飛ばされたメグザムは激昂し、舎弟二人とともに赤色の髪の少年に襲いかかった。
......結果は、惨敗だった。
赤色の髪の少年は大鉈で武装したメグザムたちに、ただの木刀で立ち向かった。
ただの木刀で!!
それなのに、メグザムたちは勝てなかった。
一太刀すら少年にあびせることはかなわなかったのだ。
それどころか、少年は明らかに手加減していた。
五体満足な状態で、メグザムたちは村から追い返された。
そして村近くの森に身を隠し、都合よく何者かの野営後を見つけたので、そこを占領し体を休めていたのだ。
(このままでは、良くない)
そう、メグザムは思った。
メグザムは、暴力でしか人と接することのできない、粗暴な男である。
暴力は彼にとって人間関係の潤滑油であり、舎弟ふたりを支配するための手段である。
こんなバカどもでも、それなりに使い道はあるのだ。
弱い自分に幻滅されて、逃げられては、困る。
メグザムは、焦っていた。
故に、二人を自分の盗賊団につなぎとめるためメグザムが行ったことが、二人への理不尽な暴力である。
二人に、自分の強さを再びアピールしなくてはならない。
頭としての威厳を示さなくてはならない。
これが、メグザムがこれまでの盗賊人生で培ってきた、暴力コミュニケーションなのだった。
「......ともかく、だ」
ひとしきり暴力をふるい、少しは気持ちの落ち着いたメグザムが、地面で震える舎弟二人に語りかける。
「あんなガキにやられっぱなしは性に合わねぇ。そうだな?」
「「へ......へい......!」」
「あのガキ、絶対許さねぇぞ。ナメられたままでは終われねぇ。復讐だ。村の連中は皆殺しだ。あのガキは手足もいで転がして、目の前で水色髪のガキを犯してやらぁ」
「「へいッ!!!」」
メグザムたちの今後の悪魔的行動指針が決定した。
......その時だった!!
「「「ミョゴーッ!!ミョゴミョゴミョゴッ!!シュゴォーーーーーーーッ!!!!!」」」
大量のミョゴミョゴシュゴが、メグザムたちの背後の茂みで、一斉に叫び始めたのだッ!!!