12 夏の味覚、ミョゴミョゴシュゴ
「ミョゴー......ミョゴミョゴミョゴッ!......シュゴォーーーーーーーッ!」
こんにちは!夏真っ盛りのナソの森でご飯を探している女の子、エミーだよ!
「ミョゴー......ミョゴミョゴミョゴッ!......シュゴォーーーーーーーッ!」
そしてさっきから聞こえてくるこの不快な鳴き声の正体は、ミョゴミョゴシュゴの求愛の歌!
ミョゴミョゴシュゴって鳴き声まんまの名前だけど、前世におけるミンミンゼミみたいなポジションの昆虫だと思えば良いよ!
......フッ!!
「ミョゴー......ミョゴミョゴ......ミョゴッ!!??」
私がノールックで放った小石はミョゴミョゴシュゴがとまっていた木の幹にぶつかり、ミョゴミョゴシュゴは驚いて気絶。地面に落ちてきた。
こいつら声がでかいくせに臆病がすぎるよ。
野生生物として弱すぎない?どうなのその生態?
とりあえず私はミョゴミョゴシュゴが目を覚ます前に近づき、逃げないように羽をむしってから蔦で編んだカゴにいれる。
鮮度が悪くなるので、今は殺さない。
こいつらを後何匹か捕まえて串にさして焼いて食べる。
なかなかでかくて食い出がある、森を代表する夏の味覚だ。
ちなみに、オマケ様が言うにはミョゴミョゴシュゴはこの世界ではありふれた生物であり間違いなくただの昆虫なんだけど、鳴き声がうるさくて不快だから、人に害を与える存在、すなわち魔物として認定されている。
この世界の魔物認定緩すぎない?
さてさて閑話休題。
村長の息子、トーチくんが【聖神の加護】を持つ転生者であり、勇者であるという事実が判明してから1か月。
つまり、私がゴミクズ村から追放され、浮浪児となってから1か月がたった。
私の生活はこれと言って特に何も変わらず、ご飯を探して森を走り回る日々が続いている。
正直言うと、良い思い出がなく、勇者という爆弾を抱えていて、その上調味料も手に入らなくなったあの村からはとっとと離れてしまいたいという気持ちもあったんだけど、それはオマケ様に止められた。
もっと大きくなって、強くなってから森をでるべきだ、と。
<だってこの世界、エミーの前世とは全く違う世界なんですよ!危険にあふれてるんです!盗賊だっていっぱいいるし、人間を食べちゃうゴブリンやオークだって、たっくさんいるんです!いくら5歳児にしては強いエミーだって、まだまだそんな連中を相手にするのは危険です!>
へぇー、森で見たことなかったから知らなかったけど、この世界、ゴブリンだのオークだの、聞いたことあるような魔物も存在しているんだねぇ。
<はい!冒険神の異世界転生配信で視たので、間違いありません!>
......なんかオマケ様が配信の情報を鵜呑みにしすぎている気がしないでもないけど、ほかに情報源があるわけでもないし、とりあえずそれは信じておこう。
そんなわけで、私はいまだ安全なナソの森の拠点にて生活を続けているわけです。
何故この森、というか、あのゴミクズ村周辺と言うべきか?が安全なのかと言えば、それは地理的条件や気候的条件が複合的に絡み合い、簡単に説明できるものではない、とはオマケ様の弁。
しかし、安全だからこそ、あの村で勇者が生まれた。
あのゴミクズ村が『はじまりの村』に選ばれたらしい。
<勇者の生まれる村、序盤で冒険する地域に強い魔物はいない!これは聖神の配信におけるお約束の一つです>
まぁ、これから活躍すべき勇者が序盤で殺されちゃ、物語として面白くないもんね......。
推定魔族であるキャロちゃんがなんでとっとと勇者をぶっ殺さないのか疑問を持っていた私だけど、いろんな建前は用意されてるんだろうけど、きっとそれも神様の作ったシナリオを進めるための措置なんだろうね。
なんかほんと、こう考えているとあの勇者に対する哀れみがどんどん深まることだなぁ。良い気味だ。
せいぜい神様のおもちゃとして、精いっぱい頑張って世界を救うが良いさ!
◇ ◇ ◇
色々考えながら虫とりをしていたら、私のカゴはいつの間にかミョゴミョゴシュゴでパンパンになっていた。
「ミョゴッ......!!?」
カゴの中で目を覚ましたミョゴミョゴシュゴが叫びだそうとするけど、それはカゴごと地面に叩きつけ、気絶させて阻止。
<それにしても、いっぱいとれましたね、エミー!>
そうだね、オマケ様。
これだけいれば、十分お腹もいっぱいになるね!
もうすぐ暗くなるし、早めに火を起こして、鮮度が良いうちに食べちゃおっか?
<えぇ!......あっ!エミー、見てください!前方右手側......青っぽい粒つぶした実があるの、わかります?>
あ、うん、私も見つけた。背の低い木になっているやつでしょ。あれ何?
<あれはショーマの実です!地域によっては高級調味料として使われる、ピリッとした辛味のある珍しい木の実です!美食神の異世界転生配信で視ました!>
マジで?よっしゃ回収だ!ミョゴミョゴシュゴにかけて食べよう!
<握れば簡単に砕けますから、砕いて粉末状にしてから袋に入れてくださいね!それで苦みが飛ぶそうです>
私たちは予想外の収穫に浮かれていた。浮かれまくっていた。
でも、そんなふわふわした幸せな気分は、すぐに冷めることになる。
拠点......カリヴァの大樹が、占拠されていたのだ。