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きっとそれは想像の付かない決意

「萌えの基本ってギャップだよね。物語に出てくる女の子ってさ、可愛い見た目の女の子が何も特別な事なしに可愛いってわけじゃないでしょ? 優しい女の子の強い部分だとかさ、意地っ張りな女の子の素直な部分とか。そういう何かしらの差が可愛いと思うんだ」

「……つまり、何が言いたいのかしら?」

「麻耶ちゃん超かわいい」


 場所は変わってエリスの部屋である。エリスも風呂から出てきて時刻はもう三時。そろそろ寝なければという時間だ。

 それにも関わらずこんな話をしているのには理由がある。


 僕が風呂を出てすぐにエリスに引っ張られるようにしてエリスの部屋に連れられると、エリスは「私もお風呂入ってくるから。適当に過ごしといて頂戴」とだけ言い残して風呂場に向かってしまった。


 部屋にはエリスの布団と僕の布団が二つ並ぶように敷いてあったが、エリスがまだ風呂に入っているのに寝るというのもためらわれた。というか、そもそも風呂に入って色々考えたり、エリスに話しかけられたりといろいろあって僕の眠気は吹き飛んでしまっていた。


 どうしようかと考えていたところ、本棚に見たことのないライトノベルがあるのを見つけた。エリスの部屋にある物だし当然エリスのだろう。


 物を勝手に使うのにためらいがあると言う、コミュ障特有のバッドステータスを持つところの僕ではあるが、普段からラノベの貸し借りはよくやっているからこれくらいなら問題ないだろうということで、エリスが風呂に入っている間にそれを読んだわけである。


 そして、ちょうど半分読み終わったくらいにエリスが戻ってきて、僕のキモオタ感丸出しの感想を聞かされている、とそういった状態である。


「麻耶ちゃん、かっこいいよね。普段はすっごいほわほわ笑顔を浮かべてるだけなのに、いざ喋り出すとあんな風にみんなに幸せになってもらいたいなんて言えるのは」

「まあ、それは私も思うわね。優しくて、そのくせ自分の欲望にも素直……少しうらやましいわ。」

「毎回思うけど、やっぱりエリスの買ってくるラノベは僕に合うなあ」

「二人とも馬鹿みたいに明るくて、いい加減な雰囲気の幸せな話が好きなだけでしょ」

「ひどい言い草だ……まあ実際そうだけどさ」

「現実が好きじゃないから他の世界での幸福が欲しいんでしょうね」

「まあ、ライトノベルってそういうもんだよね」


 そうやって僕が言うと、何がおかしいのかエリスがこちらを見て軽く笑う。

 僕が不思議に思っているとエリスが声を掛けてくる。


「というか、奈月君眠くないの? さっきまではだいぶ眠そうだったじゃない」

「いや、なんか本読んでたら目が覚めちゃってさ、あんまり眠くないんだよね。エリスの方こそ眠くないの?」

「私も別に。どうする、またゲームでもする?」

「眠れなくなるのが目に見えてるからいいよ。このまま、喋って眠くなったら寝ようよ」

「じゃあそうしましょうか。今度は何の話をしようかしら」


 エリスは天井を見ながら楽しそうにそうつぶやく。今日はいつもにも増してエリスが幸せそうにしている。無性にそれが嬉しくて僕も顔が綻んでしまう。


「なに笑ってるのよ」

「エリスだって」


 そうやって二人して良く分からないまま笑いあう。深夜だからどこか頭のネジが飛んでしまっているのかもしれない。

 ひとしきり二人で笑いあうと、どちらも笑うのをやめてしまう。

 そして、部屋に沈黙が訪れた。気まずい沈黙ではなく、この時間がずっと続けばいいと思えるような落ち着いた静けさだ。

 そんな静寂を打ち破るようにエリスが声を上げる。


「ねえ、キスしましょう」

「……え」


 突然、思いもよらない言葉が出てきたせいで、僕はなんて反応がしたらいいか分からなくて固まってしまう。そんな反応に対してエリスは口に手を当ててまた笑みを浮かべる。


「ふふ、思った通りの反応を返してくれるのね。本当に初心なんだから」


 エリスがからかうように言ってくるので、冗談だと思い笑いが込み上げてくる。


「なんだ……からかってるだけか。もう、心臓に悪いなあ」

「ひどいわね。私の一大決心をからかい扱いだなんて」


 エリスがいつものような適当と思わしき発言をしてくる。一大決心ならもっとためらって伝えて欲しいよ……。


「で、奈月君、キスするの? しないの?」

「また適当な事を……するって言ったらエリスはどうするのさ」

「……ねえ、私の事、好き?」


 彼女は、質問の回答とは関係ない、別の質問を飛ばしてくる。

 こちらに顔を向けて、笑っているとも緊張しているとも判別のつかない顔で聞いてくるエリス。不思議な表情で語ってくるため質問の意図が良く分からない。


「どうしてそんな事聞くのさ?」


 エリスが聞きたいことが分からないため、僕もまた質問に対し質問で返す形になってしまった。


「なんででしょうね。確認したからって私の気持ちが変わるわけではないはずなのに」


 エリスは僕に伝えるというよりは自分に言い聞かせるようにつぶやく。そしてしばらく黙り込むと何かを考えたのか、首を横に振って意を決したと言わんばかりに話し出す。


「私ね、臆病なの。あなたが私の事を好きだったら、自分の気持ちを伝えようって思ってた。でも、それって卑怯でしょ? だって、自分ができない事を相手に強要するんだから。だからね、隠さずに言おうって、今あなたに言われて思った」


 そういうとエリスは一呼吸おいてから言ってくる。


「奈月君、あなたの事が、大好き……です。友達としてじゃなくて、異性として」


 それは、告白だった。


 普段の元気な姿とは一転して、可愛らしい女の子のように手をもじもじさせながらしおらしい姿で伝えてくる。


 僕は、どう答えたらいいか分からなくてどうしようかと頭を掻く。

 僕だって当然エリスの事は好きだ。

 だけど、何か良くわからない感情がどうしてもそれを僕に言わせる事を妨げている。


 人に思いを伝えるのって恥ずかしいとか、この気持ちはいつまでも続くのかという不安だとか。


 そうやって僕が頭の中だけでぐるぐる回って終わらない思考をしていると、エリスが僕の手を取って語りかけてくる。


「奈月君さ、私に触られるのって嫌?」

「そんなわけないよ。柔らかいしあったかいし」


 変な質問をしてくるなと思いつつ正直に答える。というか、急に触られたせいでドキドキしてしまう。


「じゃあ良かった。嫌われてないんだ」

「なんで僕がエリスを嫌う必要なんてあるんだよ」


 そうやって僕が答えるとエリスはニヤリと笑って言う。


「でも私の告白には答えてくれないじゃない。それじゃ気持ちなんて分かるわけがないでしょう。あー私、奈月君に嫌われてるかと思うとショックで学校に行けなくなっちゃうかも」


 すごくわざとらしく棒読みの言葉だったが、エリスは僕が告白の答えを言うのを待っているみたいだ。


 ……さっきまでのしおらしい態度はどこへ行ったとか、嫌いって答えてやろうかとか、いろいろ思う事はあったけど、でもこういう姿のエリスを見ていてもやっぱり可愛らしいと思ってしまって、やっぱり僕はこの子が好きなんだという事を改めて感じてしまう。

 だから、さっきまでの緊張もほぐれてやっとで言う事が出来る。

「僕だって、女の子としてエリスの事が好きだよ」

 言い切ると同時にエリスに思いっきり抱き着く。勢いが強くて布団に彼女を押し倒してしまう。

 上に覆いかぶさるようになったため彼女の顔が良く見える。


 しかし、見るとエリスの口元に力が入っているのが見て取れて、僕はハッとした。一応、非力とはいえ僕だって男だ。

 急に体を押し倒してしまってエリスを怯えさせてしまったのではないかと思ったのだ。


 なんでこんな事をしまったのかという事に熱くなってしまった頭の熱が急に冷めていく感覚がする。

 慌ててエリスから離れようと体を起こそうとした。

 すると、エリスに背中に手を回されてバランスを崩してしまって、そのまま横の布団に転がってしまう。


 そして、今度はエリスが僕の上にのしかかってくる。

 エリスはさっきまでの態度は何だったのか口に小悪魔じみた微笑みを浮かべている。……わざと怯えたふりしてたんだね。


「……ほんと、奈月君って分かりやすくていい人よね。だから……好きなんだけど」

「エリスは優しいはずなのに意地悪だよね。……そんなところも好きだけど」


 二人して同じような事を言って見つめあう。


 どちらともなく距離が近づいていく。


 自分の心臓の鼓動がはっきりと感じられる。


 そのことにさらに緊張が強くなる。


 エリスの顔がはっきりと目の前に見える。


 エリスの息が顔に吹きかかる。


 エリスの息遣いが感じられる。


 そして、僕の唇とエリスの唇が当たる。


 やわらかい。あたたかい。


 キスに何か綺麗な幻想を持っているわけではないけれど、僕はずっとこうしていたいなんていう、いつもなら恥ずかしくて思わないような感覚だった。


 緊張してしまったせいで直前に目を閉じてしまって、エリスがどんな状態なのか分からない。

 ただ、口元にある感触だけが目の前にエリスがいるんだという事を証明してくれる。


 どれくらい時間が経っただろうか。

 どちらからという事もなく、僕たちは唇を離す。同時に、顔から体温が離れていくのを感じる。

 僕はずっと閉じていた目を開ける。目の前にエリスが見える。

 そして、その見えた彼女は僕が目を合わせたのを見て不思議な表情を浮かべて言った。


「……さよなら」


 僕は、人の表情から感情を読み取ることができる、なんて大それたことは言えない。

 けれど、その時の彼女は微笑みを浮かべながらも、とても悲しそうにしているように思えて仕方なかった。


 どうにか思考を巡らせて急に吐かれた理解のできない、想像もしていない単語に何か言葉を返そうとする。

 でも、目がぐるぐる回って、言葉が出てこない。


「ごめ……、たの………か……」


 エリスが再度何事かつぶやくがもはや聞こえない。

 僕がその瞬間に意識を失ったのだと自覚したのは再び目を覚ました時だった。

長編小説を初めて投稿してみました。

導入で長くなってしまってすでに纏めきれてない感はありますが、ゆるして。

よければ感想・評価下さるとうれしいです。

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