お泊り会(恒常)
図書室でエリスに捕まって学校の帰り。昼休みにはぼくおうちかえるとは言ったものの結局エリスがやたら張り切って、「ダメ。今日は一緒に私の家まで帰るからね」などと言ってくるものだから無視するわけにもいかず、結局そのまま一緒に買い物に連れて行かれた。
エリスの家に着くと「すぐにご飯作るから待ってて」と言われる。
言われるままに大人しく待っているのも暇だったため、食器やら食材やらの準備を手伝いながら時間を過ごす。エリスから「気にしなくてもいいのに」と言われるも、拒否する様子は無くて楽しそうに作業をしていた。
この様子だと昼の事はそんなに気にしてないのかなと思いほっとしながら、エリスと二人きりで夕飯を食べ、その後はぐだぐだと雑談をして時間が過ぎていった。
そして現在は草木も眠る丑三つ時。……実際にはそれが何時かは知らないけど。
僕とエリスはお菓子をつまみながらゲームをしている。
エリスの家に来たときの半分くらいはこうやって二人でゲームをして過ごす。残りの半分はエリスの家のラノベと漫画を二人で読み漁ったり、片方がホラーゲームやギャルゲーをするのを見て反応を楽しんだりと、まあどれにしても一晩中インドアな趣味を満喫することが多い。
エリスはメイドの如月さんと一緒に暮らしているわけだから、騒ぐと音は迷惑ではないかと思ったことがあるのだが、どうも如月さんいわく「その程度気にしていてはメイドなど勤まりません」との事らしい。
よく意味は分からないが、事実この家は結構広く、音もあまり響かない、さらにリビングと寝室は離れているので、騒音にならない程度に二人でどんちゃかするなら大丈夫なんだろう。
……そう、音に関しては気にするものがなく、さらに今日は如月さんもいない。正真正銘、エリスと僕の「ふたりきり」なのだ。
エリスのことだから昼の話は冗談だとは思っているが、ああいった話をされてしまうとどうしても緊張してしまう。
いつもほとんど気にしないがやはりエリスは「女の子」なのだ。
おかげでゲームの方もちょっと熱が入らなくなってしまって、さっきからエリスに五連敗を喫してしまっている。
「……今日はいつもの動きの鋭さがないわね。コンボ選択もめちゃくちゃだし。体調でも悪いのかしら?」
エリスにもプレイングのおかしさを気付かれてしまう。というか、昼間あんなこと言っておいて平然といつものようにエリスがゲームをしているのに納得がいかない。
かと言って、自分の内心をそのまま話してしまうのは恥ずかしいし、自意識過剰だと指摘されるのも嫌なので適当に言い訳することにする。僕は小心者で、事なかれ主義なのだ。
「……別に、ちょっと眠いだけだよ」
「そうなの? 確かに、買い物で荷物を持ってもらったし、今日は家まで歩きで来たものね。ちょっと疲れが溜まってもおかしくないわ。一旦ここで中断しましょうか。あ、何も飲まずにやってたからのど乾いてないかしら、何か飲む?」
「あったかいお茶が飲みたいかな」
「分かったわ。今、湯を沸かすから少し待っててもらえるかしら」
そういってさっさと台所に向かうエリス。
緊張から誤魔化そうとして眠いと言ったのは事実ではあるのだが、昼の疲れが出てきて少し眠いのも嘘ではない。
だから、こんな夜中までぶっ通しでゲームしていたにも関わらずまだ元気そうなエリスにちょっと驚く。僕の体力がなさすぎるだけという説もあるけど。
「エリス、今日はあんまり眠そうじゃないね」
台所のエリスへと声を掛けてみる。
「そうね。夕飯作ったり作業してたから、ちょっと目が冴えてるのかも」
「むしろ疲れてすぐ眠っちゃいそうなもんだけど」
「どうなのかしら。あなたにご飯作るなんて久しぶりだったから緊張が続いてるだけかもしれないわよ」
「また何か適当な発言してるよ……」
「適当だなんてひどいわね。私がせっかく愛情たっぷりに作ったというのに。はいお茶よ」
「発言すればするほど言葉の信憑性が薄れていく……。お茶ありがとう」
お互いにその場限りの意味のない会話をしているとエリスがお茶を持ってきたのでそれを飲みつつ会話を続ける。
「そういえば奈月君。今日は学校から直接うちに来て自転車じゃないわよね? 歩くと帰り、時間がかかるでしょ?」
「え、あ、ああそうだね」
「いつもは床で寝てるけど今日は布団で寝なさいよ。いまから帰りだと周り見えにくくて危ないでしょ」
「でも、布団なんてあるの?」
「私、そろそろ布団変えるつもりだったから。だから、いままで使ってたのを奈月君が使うといいわ。においとかは大丈夫だと思うんだけれど……」
エリスの布団……言葉にすると何かありそうだが、エリスが純粋な善意で勧めてくれたわけだしあまり気にする事でも無いだろう。
布団を借りてまでエリスの家に本格的に泊まるのは初めてだ。いつもは布団も毛布も何もなしだってだけなんだけれど。
一日中過ごした僕の臭いというのはエリスは言わないと思うのだが少しはあるだろう。だから僕はお風呂を借りることをエリスに提案する。
「僕さ今日は汗を結構汗をかいてるんだよね。だから、お風呂貸して」
そうやって僕が言うとエリスは顔を真っ赤にもじもじしながら言った。
「い、いいわよ。シャンプーとか石鹸とか好きに使っていいから、ゆっくり入ってくるといいわ。奈月君の家にある風呂よりはだいぶ広いだろうからゆったりしていってね」
エリスはそうやって同じような事を二回繰り返して言ってから、僕を風呂場まで案内すると、「心の準備が……」などと言って自分の寝室に行ってしまう。
……風呂から上がったらすぐにリビングのソファで勝手に寝ようと決めて、風呂場のドアをそっと開けるのだった。