オタク特有の長文
そんなこんなで午前中の授業を終えて現在は昼休み。昼食の時間だ。
いつも通りエリスと机を合わせてエリスはメイドの如月さんが作った弁当を、僕は購買で買ってきたパンを口にしながら適当な会話をする。
「でさ、最近やっとエリス以外の人ともまともに会話ができるようになったんじゃないかなって思うんだよね」
「……また、霜切さんの話かしら?」
「そうそう……なんかちょっと露骨に嫌そうな態度取ってない?」
「……彼女、全然友達なんていない癖して、あなたに対する態度が露骨に柔らかいんですもの。何かろくでもない事でも考えてあなたを利用しようとしてるんじゃないかって裏を読んじゃうわ」
「友達が少ないことに関してエリスが何か言えた立場じゃないよね……。それに別に僕を利用したって、大したことができるわけでもないし、ちょっとした事くらいなら、いつものお返しくらいにもならないよ」
なぜかエリスは僕が霜切さんの話をしようとすると露骨に不機嫌になる。なぜだろう。
僕だけが学校で親しい人間を増やしていることが気に食わないってことなのかな?
とは言っても、エリスだって別に周りから気にかけられないわけじゃないだろうに、なぜ話せる人や友達が増えたりしないのか……。
いい機会だしそのことについてちょっと聞いてみようかな。
「……エリスってさ、話せる人を増やそうと思えばいくらでも増やせると思うんだけど、なんで僕なんかしか友達がいないのさ?」
僕がそういうとエリスは露骨に口を尖らせて、
「……別に、奈月君には関係のない事よ」
と、会話の一切を断ち切ってくるような発言をする。
そして、今度は小声で何か言う。
「……何よ、『僕なんか』って。私にとっては……」
声が小さくて聞こえなかったが何やら怒っているみたいだしここで下手に友達の話を振るのも逆効果だろう。
「え、えっとさ、明日は土曜なんだし、朝にエリスの家に行くって話もしてたし、放課後に遊びに行っていいかな?」
何とかいつもみたいな適当な会話に方向転換しようと努めて明るく話を振ってみる。
エリスは急に露骨に話題を逸らしてきた僕の方を一度じっと見ると、僕がちょっと焦った様子なのが伝わったのか、エリスも焦った様子で申し訳なさそうに言う。
「……ごめんなさい。無駄に熱くなってしまったわ。あなたは心配で言ってくれたのでしょうに冷たい言い方だったわね」
僕に気を使わせたと思って謝るエリス。こういう時エリスは自分に非があったととらえがちである。
どう考えてもエリスを不快にするような発言をした僕が悪いのに、まるで自分が悪いかのように謝るので非常に心苦しい。
しかし、これ以上この話を続けるとまた空気が重苦しくなってしまうので、何とかこの空気を払拭しようとまたまた声を上げる。
「……エリスのそうやって自分で抱え込んじゃうとこ、僕は好きだよ。だって、僕も人に何かの相談なんてできないからさ。当たり前のことだと思うんだ。だから、エリスが僕と同じで普通の人だって思えてすごく安心する」
突然、謎の告白を始めた僕をエリスが驚いたように見る。そして、その数瞬後には口元を引き締めた真剣な表情になる。……いつものどうでもいい会話の最中に見せる表情とは真逆で緊張してしまう。
僕は内心で自分が何を喋っているんだと混乱していた。何を喋ろうとしていたのかも、何を喋っているかも分からない、終着点の見えない言葉を並べていた。
わずかに残った理性なのか、できるだけエリスを安心させるために優しく、丁寧に発言しているみたいだ。彼女のタブーに触れて嫌な思いをさせないためにも、混乱する中で精いっぱい考えながらゆっくり喋っているらしい。
「僕だって触れてほしくない事の一つや二つあるよ? 山積みになったラノベの中に実はエロ本が紛れ込んでることとかさ。この前、先に寝落ちしたエリスの寝顔にドキッとしたことなんかもそうかな……。まあ、そんなことは関係ないんだけどさ。何が言いたいかって、僕はエリスにとっての現実からの逃げ場でありたいんだ。……多分? だからさ、ごめんね、嫌な事考えさせちゃってさ」
最終的に自分が何を喋っていたかという事は良く覚えていなかった。
後から考えると、きっと慰めと謝罪の言葉が掛けたかったのだと思う。
僕なんかを相手にエリスが気を使う必要なんてないという事。
友達、という存在がエリスにとって特別なものだというのが僕は分かっていたはずなのに軽々しく「友達を作れば?」という言葉をかけてしまって申し訳ないという事。
せめて僕と居るときは過去にあったことなんか忘れて、美少女らしからぬ呑気な学校生活を送ってほしい。
だから、僕はエリスの暗い表情は見たくないし、嫌な思いをしてほしくない。
そういった思いから出た僕の純粋な本心ではあったが、しかし、言い終わってすぐにエリスが少し俯いていることに気付く。
また何か地雷を踏みぬいたかと不安になる僕に対して、エリスが突然顔を上げて口元に手を当てながら恥ずかしそうに言う。
「……スケベ」
……あまりに予想外の反応が返ってきて思考が追いつかなくなる。
「奈月君のスケベ」
すかさず追撃がくる。
そこを皮切りにしたかのようにエリスはさっきまであんなに元気がなかったのは嘘であると言わんばかりにつらつらと言葉を並べ始める。
「……正直ね、あなたがそれだけ私の事を大切な友達として見てくれてるのはとても嬉しいの。私だって同じくらいあなたの事が大事だし甘やかしてあげたいとも思ってるわよ?でもね……」
ここでエリスが一旦言葉を区切る。
うん、僕にとってエリスがどれだけ大切かという事が伝わったみたいでちょっと嬉しい。
思わず口角が上がってしまいそうになるが、何かエリスが鬼気迫る表情をしているので口元にそっと手を当てて誤魔化す。
教室内なので周りからの注目が凄まじいことになっている気がするが、気にすると面倒なので見えない事にしてエリスの方向だけを見て話に集中する。
エリスはさらに顔を赤くしてからさっきよりも声を上げて言う。
「隠したい秘密の例にエロ本とか、人の寝顔に……よ、よ、欲情した事とかを告白するのはやめなさい。恥ずかしいでしょ! セクハラよ、セクハラ!」
「エリス、エリス! みんな見てるから! ストップ!」
僕が静止の声を上げてもエリスは止まらない。
「あなたが初めに言ったんだからいいわよね? 私だってそれくらいの秘密はあるんだから! この前あなたが家に来て先に寝落ちした後、『エリスぅ……』なんて寝言を呟きながら私の腕をがしっと掴むもんだからドキドキして寝れなかったとか、あなたが使った後のコントローラーを使うたびニヤニヤ笑ってるとかね!」
「やめて! ついでに僕にもダメージが入るから! 自爆に巻き込むのはやめよう、エリス!」
周りのクラスメイトの視線が辛い。というか騒がしくて申し訳ない……。
いつもは二人、教室の隅で細々と静かに会話しているというギャップもあって、非常に注目を集めてしまっている。
二人ともクラス内で他の友達もいないため、特に話しかけられるようなことはないが、やはり騒ぐとエリスの容姿もあってか非常に目立ってしまう。内容が下世話な事も注目される要因になっているだろう。
僕は周りからの視線とエリスの対応をどうしようかと考え、結局あたふたと困惑しているうちにエリスが大人しくなってきた。
「ふう、スッキリしたわ……あなたも私と同じ羞恥を味わったでしょう? 言われる側の恥ずかしさを知れてよかったわね」
仕返しが出来てうれしいのか非常に満足気である。……クラスメイトに無駄に注目されたのはエリスの意図の外だろう。
ジロジロと見られて恥ずかしかったから、今度仕返ししてやる……。
やり返したことが満足なのか、エリスはさっきよりも声を抑えつつ、口元を綻ばせながら再度話を始める。
「……まあ、あなたが私の事を気にかけてくれてるのが改めて良く分かったからいいわ。セクハラ発言は許してあげる」
「やり返した時点でもう許されてない気がするけどなあ……」
とはいえエリスがさっきまでの激情した様子から収まって安心した。いつも、興奮すると全く周りを顧みないから……。
エリスがおとなしくなったためか、周りも興味を失ったようでこちらを向いていた視線が離れていく。僕は注目されるのが苦手なので、そのことにも安堵して息を吐く。
「はあ……なんだか無駄に疲れちゃったよ。話も脱線しちゃってるし。エリス、とりあえず話を戻したいんだけどいいかな?」
「……またエッチな話じゃないでしょうね?」
「違うよ!? その話を蒸し返すのはやめて! 恥ずかしいから!」
「じゃあ何の話だって言うのよ」
「いや、明日は土曜日だし、今日エリスの家に遊びに行ってもいいかなって……」
「そういえば言ってたわね。いいわよ、来ても。どうせいつもの事なんだし。でも私に変なことはしないでね」
「しないよ! 大体、如月さんだっているでしょ!」
「大丈夫。やろうと思えば外で泊まってもらうことだってできるから。そうね、そうしましょう。これで襲っても誰も咎めないわよ」
「エリス本人が咎めようよ!」
言うが早いかエリスは携帯で何かをやりだす。そして、すぐに顔を上げると何事か喋りだす。
「よし、如月に連絡したら『了解致しました』だって。だから今日は二人きりという訳。あなたも私を襲い放題ってわけね」
「……これ、エリスが僕を襲う気なんじゃないのかな」
「まさかまさか。そんなことあるわけないじゃない」
「信用できない……」
「……まあちょっとくらい何かあっても一夜の過ちで許されるでしょう」
「やっぱり今日はおうちにかえる……」




