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動植物神話体系―Eukaryotarum Mythologia―

灰色カラスと世界樹

澄み渡る空を、一羽のカラスが飛んでいきます。薄い灰色のその翼は、毛並みが綺麗で、太陽の光を受けてキラキラとしています。

森に出ると、灰色カラスはいつもの着地場所におりました。そして、慣れた様子で足場にしている木に話しかけました。


「世界樹、今日も息災か」


爽やかな風に葉を揺らし、世界樹は答えます。


「ああ、灰の。元気だとも」


その答えに満足そうに灰色カラスは葉をついばみました。灰色カラスは世界樹との語らいを何よりも楽しみにしているのです。


「ところで、何かあったのか、灰の」


その言葉に、灰色カラスはきらりと黄色い目を光らせます。


「赤が可愛くてたまらない」

「ああ、赤のか。そうだな、彼の者は愛らしい」


世界樹は灰色カラスの兄弟である赤いカラスのことを思い浮かべて、同意しました。

赤いカラスは世界樹の子どもである百花と友達です。我が子とよく遊びに来ていて、楽しげな会話に、世界樹も参加します。


「我が気持ち、世界樹ならわかると思った」


灰色カラスは力強く頷くと、体を世界樹の幹に傾けました。灰色カラスにとって、世界樹は一番の理解者です。

赤いカラスの自慢話がひとしきり終わると、世界樹は呟きました。


「ここ最近は、赤のは忙しそうにしているな」

「ああ、赤は人間がお気に入りで、降りては話をしているらしい」


人間、と口にした時の灰色カラスは不機嫌そうです。灰色カラスは赤いカラスが人間に興味を持つのが気に入りません。


「百花も人間が面白いと言っていたな」

「取るに足りない存在をなぜ気にかける」


灰色カラスにとって、生物はどれも皆等しい存在です。世界樹はしばし枝を遊ばせて思案しています。


「我らを認識する生物だからではあるまいか?」


かつて世界樹は人間と会話を試みた時の気持ちを少しだけ思い出しました。そのほとんどは苦い記憶となっています。


「己の都合のいい存在として我らを認識するは、果たして認識と呼べるかどうか」


灰色カラスは冷めた目で空を仰ぎました。

彼らは人の為に在る訳ではなく、世界の為に在るのだと、灰色カラスは自負しています。

偉大なる大父と大母への信仰を忘れた人間には、灰色カラスは希望が持てません。


「灰のは、真面目だな」

「存在理由は我らの根源。違うことあれば消えるが定めだ」


灰色カラスはきっぱりとそう言うと、枝を移って大空に飛び立ちました。

世界樹は何となく、灰色カラスが寂しそうにしていることが分かります。生き物たちの中でも、灰色カラスの考えはとても固いと言われることでしょう。

世界樹はその後ろ姿を見守ることしかできません。灰色カラスの心が安らかであるよう、その葉に願いを込めて風に乗せました。

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