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主要人物の生命は保証しませんがよろしいですか?  作者: 軌跡
第一章 悲劇か、それとも
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20 世界を超えて Ⅲ

「ねえアルケイス、アタシのところに来なよ。そこで一緒に、楽しい復讐の続きをしよ? 君の未練を晴らす方法、ぜんぶ教えてあげる」


「皇帝陛下も、その一人娘も殺すってことですか……?」


「やだなあ、当然でしょ。決定を下したんだから、元凶中の元凶って言えるんだよ? 情状酌量の余地なんて無い。絶対殺さなきゃ誰も報われないし、同じ犠牲が生まれることになる」


「っ――」


 事実だとするなら、もちろん認められない。自分が味わった喪失感を他の誰かが味わうなんて、絶対にごめんだ。

 復讐はそのために。惨劇の原因を封じることで、過ちの根を断つ。

 死んだ人たちへの供養は、そういうものだと思っていた。――だからレアラの勧誘は、これ以上なく魅力的に聞こえてくる。彼女は誰を始末すればいいのか、全容も把握している筈だ。


「……」


 色んなことが入ってきて、頭の中はゴチャゴチャしている。

 もちろん、提案を丸呑みすることは出来ない。ジュピテルにだってミュトリオンにだって、さんざん世話になってきた。その恩返しが悪意だなんて、冗談にもならない。


「ほらほら、早くー。でないと無理やり攫っちゃうよ?」


「――いまは、お答えできません」


「やっぱり?」


 旧知の間柄なだけあって、レアラは驚いた様子もない。一歩、アルケイスの方に近付いただけだった。

 反撃の用意はしなければならない。生身であればまだしも、使徒魔獣を呼ばれた段階で敗北は確実となる。――ここで、殺さなくてはならない。


 本気で?

 脳裏に掠める再会への喜び。たとえ別人に近い相手だとしても、レアラはレアラだ。簡単に牙を向けるなんて認められるわけが無い。

 だからだろう。

 背後に出現した使徒魔獣に、反応が遅れた。


「っ!?」


「はい、一名様ごあんなーい」


 抵抗する暇もなく、アルケイスの自由が奪われた。殺さない程度の強さで、使徒魔獣の手に掴まれている。

 眼下には、足を引き摺りながらも追いついたヘロドースが。時間回帰を発動させようとする彼だが、同じく不発に終わるだけだ。

 状況は悪化の一途をたどる。まともに動けない彼の傍に、何体もの使徒が現れる。


「仕方ないから、その子達でトドメを指しといてあげる。もう、お姫様の手を煩わせるなんて駄目だよ? アルケイス」


「っ、離して、ください!」


「むーりー。これから君は、ずっとアタシと一緒にいるんだから。子供の頃みたいに、仲良くしようね?」


「くそ……っ」


 使徒魔獣はレアラを肩に乗せて、悠々と帝都を後にする。

 人々の絶叫は、帝都の全域へと走っていく。



――――――――――



 連れていかれたのは、ただの廃村でしかなかった。

 ……10年も放置されていたんだから、必然的な結末ではあるんだろう。新しく住もうとする物好きもいなかった。帝都から隔離されたこの場所は、ある種の聖域でもあったんだから。


 北の村。あるいは『樹の民』の村。

 今のレアラは、どうやらここを活動拠点にしているらしい。使徒魔獣は外に待機させて、勝手知ったる生まれ故郷を歩いていく。


 アルケイスはただ、呆然とするしかなかった。帝都に移住してこの方、一度も村には戻ってこなかったんだから。扱いについて少しぐらいは予想していたけど、いざ目にすると言葉が出ない。


「……」


 ここで、たくさんの人が死んだ。

 さすがに遺体は回収されているようだが、荒らされた家屋や畑が惨劇を物語っている。容赦や同情など一片もない。自分達こそが正義なのだと、押し掛けた連中は声高らかに叫んでいる。


 当時の光景は、まるで昨日のように鮮明だ。動かなくなった両親、抜け殻となった友人。……迎えに来たミュトリオンが悪魔に見えたのは、何の解釈もいらない事実だったんだろう。

 殺してやりたい。

 帝都に移住してから、アルケイスの思考を染めていたのはその一点。自分の生き死になどどうでも良かった。帝都にいるすべての人間を憎むしかなかった。

 盲目から抜け出せたのは、皮肉にもミュトリオンの妻が自殺してからだろう。


 ふと、思うことがある。彼女は気付かぬうちに盾にされたこと以外にも――甥から向けられる執念に、耐えられなかったのではないかと。

 アルケイスは加害者であり、罪人でもあるということだ。やり返したからといって、行為が正当化されるわけではない。

 ……なら、殺された人たちの無念はどこに行くのか。

 かつての平穏に目を向けながら、アルケイスはレアラの後を追っていく。


「――アタシを殺す気は失せたかな?」


「……答え辛い質問をしないでください。頭の中、ぐちゃぐちゃなんですから」


「あはは、それはいい傾向。後でぶっ壊して、綺麗さっぱり忘れるんだよ? これから生活していく相手が、そんな危険人物じゃ嫌だからねー」


「僕が逃げないと?」


「うん? アタシは逃がすつもりなんて無いけど?」


 抑揚には悪意も善意もない。当たり前を教えただけだと、振り向きもしない背中が代弁している。

 奥へ進んでいくと、どうにか形を保っている家が現れた。村の中では平均的な木造の建物で、運良く襲撃の被害を逃れたらしい。ドアだってついている中古物件だ。

 しかし動かすだけで、木片が音を立てて崩れていく。


 中は狭い平屋だった。居間と台所があるぐらいで、必要最小限に切り詰めている。帝都の人間が見れば、その質素ぶりに殺到するかもしれない。


「あの、これは……」


「ん? ただの住居だけど。あ、ひょっとしてもう少し大きい方が良かった? 確かにアタシも同感だけど、どの世界にも無事な建物が少なくてねー。ま、美少女も一緒だから許して」


「そ、そういう問題じゃ……っていうか、一緒に暮すんですか!?」


「当たり前っしょ。ひょっとして恥ずかしいの? 子供の頃はよく添い寝してたじゃん」


 まったく、とユノみたいに呆れて、レアラは家の奥へと進んでいく。アルケイスはその場に棒立ちしたまま、さっきの新事実を反芻していた。

 一緒に暮らす? 帝都を崩壊させた、張本人ともい言える相手と?

 安心して明日の朝日を拝める気がしない。レアラはアルケイスに対し敵意を持ってなさそうだが、意に適わない反応をすればどうなるか。……これまでの応答からして、手足の一本でも潰されそうな気がする。


 しかしこれは、彼女を止める千載一遇のチャンスだ。

 実力行使にしろ説得にしろ、濃いな時間が過ごせればレアラに影響を与えられる。彼女の人となりを改めて知る面でも有効だろう。


「――は」


 にも関わらずアルケイスは、獣のような眼光で彼女を睨んでいる。

 これ以上なく魅力的な女性と、一切の邪魔が入らない土地で暮らす。生物の本能が刺激されるのは自然かもしれない。――そう、かもしれない、んだ。


 おかしい。さっきまで帝都を取り戻すことを考えていたのに、靄がかかったように遮られる。無防備に背中を向けているオンナしか、飢えた双眸には映っていない。

 必死に振り払おうとしても同じだった。僅かに晴れはするものの、間を置かずに戻ってしまう。

 衝動的に殺人を犯したいのであれば、まだマシだったかもしれない。用意された壁を突破するには、最も短絡的で最も成功率が高くなる。


 だが、今の欲求は性質が違う。

 とにかく深呼吸だ。こんなの普通じゃない。毒を仕込まれる隙はなかったし、気の迷いでしかなかろうに。


「……ふう」


 何度か繰り返していくうち、理性の壁が治ってくる。

 肩の力を抜いて顔を上げると、奥に進んでいたレアラがこちらを向いていた。してやったり、と意味ありげな微笑も混ぜて。


「じゃあこれからの方針を練ろうか。議会の方はしばらく時間回帰が出来ないから、対策を打たれる前に始末しなきゃね」


「……帝国全土に星辰者がいるんだから、止めるのは無理だと思う」


「ありゃ、理解が遅いねー。アタシはこの世界から、時間回帰って選択肢を奪ったんだよ? 一週間ぐらいすれば効果は切れるけど、また打ちなおせば問題なし」


「――」


 何なんだこの少女は。星辰者の歴史でも、五本の指に入る傑物なんじゃないか? 説明をそのまま受け取るなら、世界の概念を書き換えたのも同じだぞ。


「やだなあ、驚かないでってば。変えられないこともあるんだよ?」


「……この村が襲われない可能性、とか?」


「お、今度は理解が早いねー」


 気安く言ってくれるが、沈んだ眼差しは隠せていない。お陰で余計、反感を抱き難くなってくる。

 このレアラは、アルケイスに代わって悲劇から生き残った。その過程で膨れ上がった憎悪を否定する資格はない。たとえ彼女がより残酷で、より見境が無かったのだとしても、行動原理は同じなのだから。


 一体、誰が責めを負えばいいんだろう?

 全員が納得して、世界から不幸を拭い去るためには――どんな生贄を、神に捧げるべきなのか。

 皇帝の姿が脳裏をよぎる。レアラの証言が事実なら、彼はやり玉に上げられるべき人物だ。王という地位には相応の責任が圧し掛かる。


 でも、彼に悪意はあるんだろうか。

 仕方なくて、村を滅ぼしたんじゃないのか……?


「ふふん」


「な、何ですか?」


「ん? ようやく分かってきたかなー、って思ったの。元をたどれば皇帝が悪いんだって、分かるでしょ? 甘いこと考えないで、全員殺せばいいんだよ」

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