音
二階建て一軒家に住んでいた頃の話。
ある日、気分転換も兼ねて二階にある私達夫婦の寝室とプライベートの部屋を変えた。
この頃から目に見えないそれは静かにゆっくりと
何かが変わっていた………
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私が会議で遅くなり、車庫に車を止める。
その時、いつもよりはっきりと階段を登る音が聞こえた。
その足音は中二階の弟の部屋の前へ。
「ただいま~!」
玄関に入り、いつもは聞かないのに何故か聞いてみる私。
居間には母のみ。
私「今、弟上に行った?」
母「行ってないよ」
私「………じゃあ、お母さん上から下りて来た?」
母「ずっとここでテレビを見てたよ」
私「そう………」
二階に上がり、旦那と息子に挨拶。
私「ただいま~」
私「ねぇ、今誰か階段歩いてた?」
旦那「いや、誰も歩いてないはずだぞ」
私「そっか………車庫にね、車入れた時に階段を登るような下りるような足音が聞こえたんだよね」
その後、そのまま何も起きないので、その出来事の記憶は薄れていった。
少しずつ、旦那の帰りが遅くなる………。
弟は仕事上、休みの日以外は朝早くから夜遅くまでいないか そのまま遊びに行き帰って来ない。
母も良く出歩き、帰って来ない事もあった。
夜、私と息子だけで過ごすことが増えていた………
それは玄関のチャイムの音から始まった。
息子と二人だけの夜。
息子を寝かしつけて、私は本を読んでいると、
ピンポーン!
(あれ?誰か鍵忘れたのかな?)
私はそう思い、部屋を出て廊下から吹き抜けの玄関へと目を落とす。
が、誰もいない。
照明をつけてる外は、玄関戸の上の透明硝子と扉の縦長の曇り硝子で人が見えるようになっている。
(気のせいか、夜だからお客さんが遠慮して帰ったのだろう)
私は勝手に納得して部屋へ戻った。
暫くして………
ピンポーン!
また玄関のたチャイムが鳴る。
(もう!誰!)
私はそう思いながら、もう一度覗いてみる。
さっきより早く廊下に出たのに誰もいない‥
流石に気味悪く感じて布団に潜る。
10数分後、旦那が帰って来て玄関のチャイムは鳴らなくなった。
徐々に旦那の帰る時間が遅くなり、私と息子だけの時間が増える。
それを待っていたかのように、玄関チャイムの音の回数が増えた。
見てもいつも誰もいない‥
私は見なくなった。
すると!
トントントントン………
階段を登る音が!!
「誰も帰って来てないはずだよね。玄関の開く音しなかったし………」
「もしかして気付かぬうちに帰って来たのかも」
淡い期待を持って待つ。
………!!
階段を登る音が、弟の部屋の前で止まり動かない。
私は暫く息を潜めて耳を澄ますが………
結局、そのまま足音は消えた。
私は怖くて布団に潜り、息子を抱きしめ温もりに安心して眠った。
その後も、私と息子二人だけの夜は必ず音が聞こえて来る。
まるで、夫婦中の亀裂に合わせたようにどんどん酷くなっていった。
誰に話しても、各々が各々の好きなように過ごすので、私達母子だけの夜が当たり前になっていった。
私は夜ご飯を終えると、全てを済ませて息子と部屋に籠るようになった。
足音は階段を登り、寝室の前まで来るようになった………
布団を被り震える私。
違う日には
シャッ!シャッ!
と誰もいない一階のカーテンの開け閉めの音が聞こえ
ある日は
ガタン!ガタン!
と母の部屋の箪笥の開け閉めの音………
怖いけど、確かめたくて決意し一階へ行く。
居間の様子を見て、母の部屋を覗くがカーテンや箪笥が動いた形跡がない!
もう、震えるばかりの私。
夜が怖い………。
恐怖しながら夜を過ごした。
相変わらず階下で物音がしたり、階段を登ったり下りたりする音が続く………
私は部屋に鍵をかけて眠る息子に寄り添う。
そうして過ごすある日
トントン
………!!
何とも言えぬ恐怖が私を襲う!
私は深く布団を被り、部屋の戸を叩く音を聞かないようにして耐えていた。
ある日、珍しく旦那が早く帰って来たので 息子を旦那に預けて友人と遊んだ。
久しぶりだったこともあり、朝方まだ薄暗い中帰る。
そうっと玄関の戸を開けて入ると、母が階段前と居間の扉の前に当たる場所をぞうきんで拭いていた…
私は早朝からあり得ないと思いながらも聞いた。
「どうしたの?掃除?」
すると、母は震えながら話した。
昔から良く霊を見ていた母。
今回は不意打ちだったことと、その女性の表情が怒りに満ちていてかなりの恐怖だったそう。
近くの神社に連絡し、お祓いをしてもらい御札を頂くと現象は落ち着いた………
でも、結局息子と二人だけの夜が続くと戻ってしまった。
そうしているうちに 旦那との別れ。
それと共に、気落ちする私を心配した友人が同居を進めてくれて母子家庭同士、少しの間一緒に住み始めた。
その後、弟も母も家を出たので 売りに出した。
築五年程だったこともあり直ぐに家は売れた。
仕事も終えた年金暮らしの老夫婦。
老夫婦も感じる人達だったよう………
風の噂でリフォームして、鬼門のある階段を変えたそうです。
その後はどうなのかわかりません。
老夫婦は今も住んでいます。
時折、近くを通ると玄関先が花や置物で明るくなっていました。
今でも近くを通ると申し訳ない気持ちになります。
後に聞いた話
その場所の裏の道は 、少し先の自衛隊の門の前に続いています。
その道は昔、まだ住宅が少なく木々があった頃は線路で汽車が走っていたそうです。
その頃は国の為に、まだ戦があったりまた線路でひかれて亡くなり、そのまま放置されることの多い場所だったということです。
地域自体がそういう場所で近所の方々も少なからず、霊現象があると言ってました。
こぼれ話
姉はこの家にあまり来ませんでした。
私が旦那と別れて、友人と一緒に住み落ち着いた頃………
姉「今だから言うけど、あの家で私が落ち着けるのは洗面所とお風呂場だけだったんだよね。 他の所はダメ‥特に階段の踊場とあんたらが寝てた部屋は行きたくなかった」と。
お祓いに来てもらった時に階段の踊場が鬼門という事は聞いていました。
姉弟で一番霊感の強い姉はその頃自分に憑いたモノは祓えていました。不気味でその家に来る時は「視ない」ようにしていたそうです。
それでも「あそこには居たくなかった」と言ってました。
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