鬼畜な魔王?
最初は魔王の一人称なのに最後の方になると三人称になっていきましたが、とりあえず気にしないで欲しいです。
自分でも気づいてはいましたが、面倒だったのでそのまま書き進めました。
「見つけたぞ魔王!!」
(ああ、もう来たのか。まだ半年しか経ってないのにな)
俺はそんなことを考えながら、目の前に立っている勇者の言葉を聞いていた。
思い返せば、魔王に転生してからもう……100年以上経ってるのかね?50年過ぎたあたりから数えてないから分からないな。
元はただの会社員だったのに、人生ってのはこれだから面白い。
「魔族をけしかけて人間を襲わせてるのはお前の仕業だな!!」
こいつもなにも知らされずにここまで来たんだな、と思った。
だって俺世間じゃなんか知らないけど魔王とか呼ばれてるみたいだけどさ、 魔王ってのはお前らが勝手に呼んでるだけで俺は何もしてないし。それに魔族って基本的に種族違うと仲良くないから、普通に殺し合ってるから。まあそれでも、魔族が一番狙うのは弱い人族が多いのは事実なんだけど。
つーか何十年も経ったんだからいい加減に、お偉いさん達の下にはそれくらいの情報行ってそうなんだけど。色々と考え事をしていたら、勇者はこちらに剣の先端を向けながらいった。
「お前はこの俺……勇者アランが倒す!!」
いや、お前完全に見た目日本人だろ。
思わず心の中で突っ込んでしまった。
「俺を倒すってか?やれるもんならやってみろよ。まあ無理だろうけどな」
「馬鹿にしやがって!!後悔しても知らないからな!!」
そうして、勇者アラン(笑)は俺に向かってきた。
俺は椅子に座りながら体を動かすだけで、すべての攻撃を避ける。
「くそ!!何で当たんないんだよ!!」
今回の勇者は弱すぎるな。動きを見た感じ武器の性能に頼って今まで戦ってきたんだろう。いくらなんでも無駄な動作が多すぎる。他の魔族はそれでも倒せるだろうけど、俺を相手にするにはその程度では弱すぎて相手にならない。
今まで俺が戦ってきた勇者達の中で、一番苦労した勇者リックが相手だったらこいつは一瞬で殺されてるだろうな。
「なんで避けるんだよ!!俺に殺されろよ!!」
「俺だって痛いのは嫌だし、それにお前みたいな雑魚に俺が殺せるわけ無いだろ」
「雑魚だと!!」
「ああ、お前は雑魚だ。俺が今まで戦ってきた相手のなかでもお前は弱すぎる」
「そこまで言うならもう手加減はしねぇ!!絶対に殺してやるよ!!」
手加減とかアホかよ。殺し合いで手加減するとか俺を馬鹿にしてるのか?だったらこっちも半分本気で行ってやるよ。
「手加減ねぇ……そんな事して、俺に勝てると思ってたとはね。お前の後ろに居る女達は俺になんもしてこないみたいだけど、まさか戦えないわけじゃないよな?」
勇者だからって自分一人で勝てると思ってたなら、後悔させてやるよ。
「うるさい!!お前には関係無いだろ!!」
そして勇者アラン(笑)は切り札を使ってきた。
「古代の神々よ、勇者の名において命じる。この俺に力を!!」
やっやばい……面白すぎて吹き出しそうだ。今までの勇者の中でもここまで痛々しい奴はさすがに居なかったぞ。
「すべての悪を消し去る力!!これが俺の切り札だ!!」
「御託はいいからかかってこいよ」
俺は挑発しながら言った。
「殺されたからって後悔するなよ!!『ホーリースラッシュ』!!」
それは光属性の技だった。
魔族相手には大体の奴には通じるので人族の間では『魔族殺し』の技とも言われている。
そしてその『魔族殺し』の技を俺は……
「だから手加減するなっての」
パキン。カラン、カラン、カラン
片手で勇者が振り下ろした剣を押さえて砕き散った。
「そっ、そんな俺の聖剣アランドニアが……」
そして俺は……
(なにこいつ。剣に自分の名前入れて聖剣とか引くわー。自分大好きもそこまで行くと気持ち悪いわー)
結構本気で引いていた。
「ちっ、今回はこの辺で勘弁してやるよ!!今度こそ絶対に殺すからな!!」
そして勇者アラン(笑)は、俺の下から一緒に来た女達と消えようとしていたが……
「逃がすと思ってたのか?だとしたら期待外れも良いところだな」
一番外側を歩いて女の頭を弾き飛ばし殺してやった。
「なっ?おっお前なにをしやがる!!」
一番先頭を歩いていた勇者アラン(笑)が俺を睨みつけながら言ってきた。
「何をしたって?ただ殺しただけだ。それともなんだ?お前は俺に勝てないからって逃げ出して、もう一回挑めるとでも思ってたのか?んな訳ないだろ。一度でも俺に挑んできた奴はそいつが男だろうが女だろうが、挑んできた以上殺す。逃がすわけ無いだろ。この世界はゲームじゃないんだぞ。敵に挑むと言うことは常に自分の命を失う危険があるってことだ。俺に挑んでくるから、それくらい分かってるのかと思ったら分かってないとはな」
ほんと今回の勇者は期待外れも良いところだ。
「なっ……でもお前がさっき殺した女は戦えなかったんだぞ!!」
女?戦えなかった?
「戦えないって?それがどうした?俺の前に姿を表した以上は俺の敵だ。戦えようが戦えなかろうが、敵である以上殺すだけだ」
「くっ……この外道が!!」
「なんとでも言え。それにそもそもこんな所に戦えない奴をつれてくるお前が悪い。どうせ女達の前で俺を一人で倒してカッコつけたかったんだろ。今まで戦ってきた奴にそんな奴は居なかったのにな。仲間が殺されようが全員諦めずに俺に挑んできたってのに、お前は武器を壊されただけで逃げ出そうとしたな……」
「くっ、くそ……どうにかして逃げる方法はないのかよ!?」
「おっと、ここまでやっても逃げようとするとはな。嫌な意味で諦めの悪い奴だな。そんなに自分の命が大事なのか?」
「当たり前だろ!!俺はまだ死にたくねぇ!!」
「女達はどうなんだ?」
「あっ、あんなやつら知らねぇよ!!そっそうだ、あいつらを殺して良いから俺を逃がしてくれよ!!なっ、なあ良いだろ」
「そうだなぁ……おいそこの女達」
俺は女達を呼び出して言った。
「こいつはお前らを生贄にしてまで生き残りたいそうだ。お前らはどうだ?どんなことをしてでも生きてここから逃げ出したいか?」
するとすぐに、
「私は生きたい!!まだやりたいことがたくさんある!!」
この声をきっかけに 次々と『私も生きたい』という声が聞こえてきた。
「そうかそうか。みんな生き残りたいのか。でも困ったな俺は今まで敵になった奴は全員殺してきたというのに、今更全員行き残すわけには行かないからなー」
そして俺は告げた。
「そうだ、お前ら全員で殺し合え。生き残った奴を生かしてやるよ」
生き残りをかけた殺し合いの始まりだ。
「なっ!!おっ、お前何を言いやがる!!俺を助けろよ!!」
「なんで俺を殺しに来た奴を助けないといけないんだよ?普通に考えたら助けるわけ無いだろ。それにどんなことをしてでも生き残りたいって言ったからな。本当に生き残りたいなら覚悟を決めろよ人間」
そして俺は椅子に座り直し言った。
「よし、じゃあ始めようか。生き残りをかけた殺し合いを!!」
そして殺し合いが始まった。
まず最初に狙われたのは勇者だった。 まあ、それは当然だろう。女達を生け贄にして自分だけ生き残ろうとしたのだから女達に怨まれるのは当たり前だ。いくら勇者とは言え、今まで武器に頼って戦っていたため武器が破壊された今、数の暴力に勝てるはずもなく2人を道連れにして呆気なく殺された。
そして10分後にはすべての殺し合いが終わり、そこにいたのは血だらけになり、片腕を無くしながらも生き残った気の強そうな女だった。
「おめでとう。今の気分はどうだい?」
俺は聞いた。
「気分なんて最低に決まってるじゃない。こんな殺し合いに巻き込まれたんだから」
そうだろうな。まっ、こんな勇者と一緒に居たのが運の尽きだ。
「それでおまえの名前は?」
「何でそんなこと聞くのよ……まあ、良いけど。リースよ、リース」
「リース、お前はこの殺し合いで生き残った。約束通りお前はここから逃がしてやるよ」
「本当かしら?全然信用出来ないんだけど?」
「大丈夫だ。俺は約束は必ず守る」
あぁそうさ、約束は守るさ……俺はな……
「そう、ならいいわ。でも、なんで私はこんなのに惹かれたのかしら。本性を知ってればこんな事にならなかったのに」
「なんだ?この勇者に着いてきて後悔してるのか?」
「当たり前じゃない。こんな奴に惹かれて着いてこなければ、私は故郷で幸せな日々を送れたはずなのに」
「ふーん……まあ、俺にはどうでも良い話だ。それでいつまでも俺と話してないで早く逃げないのか?逃げないと俺の気が変わって殺すかもしれないぞ?」
「ちょっとくらい休ませてよ。私だって今まで一緒に旅してきた仲間と殺し合うのは精神的に辛かったんだから。まっ、あんたの気が変わらない内に逃げるとするわ。もう二度と会わないと思うけど」
そう言ってリースはドアに向かって歩き出した。
そしてドアを開ける寸前に……
「ああ、そうだな二度と会えないよ」
そう呟いた……
そしてリースがドアを開けた瞬間
「ぐふっ……」
リースの胸から槍が突き抜け、リースは血を吐き出した。
「なっ、なにが……」
リースは顔を上げた。そして目の前に立っていた女の顔を見た。そこにいたのは美しい黒髪の女性だった。
そして黒髪の女性は言った。
「ヴァル様?このゴミはなんですか?目の前に居たのでつい刺してしまいましたが」
次いでリースが息を吐くのも苦しそうにしながら言った。
「魔王……あんた、私を騙したわね……」
リースは心臓が弱い人が見たら死んでしまいそうなくらい怖い形相で魔王を睨みつけた。
「騙した?俺が?俺はなにもしてないぞ?」
「じゃあ……何で……この女は私を刺したのよ……」
黒髪の女性を見ながらリースはそう言った。
「だから俺はなにもしてないだろ。お前がドアを開けたらたまたまそこにカエデがいた。お前が怪しかったから刺した。それだけだろ。俺はなにも手を出していない」
魔王は悪びれる様子を全く見せずに言った。
「怪しい物はとりあえず刺す。私はヴァル様からそのように教わりましたから」
黒髪の女性が言った。
「とりあえずカエデ。そいつ外に追い出しとけ。運が良ければ生き残るだろ。まあ、今の時間だとゴブリンが近くにいるけど大丈夫だろ」
それを聞いたリースは顔を青くしながら叫ぶ。
「ゴブリンは嫌!!ゴブリンどもに捕まるくらいならここで殺しなさいよ!!」
だが黒髪の女性はなにも聞かなかったかのように
「ではヴァル様、失礼しました。私はこれからこのゴミを命令通りに外に棄てに行きますので」
そう言った。
ふたたび一人になった俺は溜め息をつきながら、死体と血だらけになった部屋を見ながら呟いた。
「魔王ってのはほんと疲れるな……それに今回の勇者はつまらなすぎた。まあ、殺し合いは多少面白かったがな」
そして、光属性の魔法である『浄化』を使い、部屋に転がっていた死体や床の色を変えるほどの血を消し去り再び眠りにつくのだった。