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プロローグ

草木の葉が枯れ葉となり始め、肌寒い風が町を覆う季節になってきた。まだまだコートを着るような季節ではないのだが私はコートではなくマフラーを着用している。周りから見ればとても寒がりな人だなとでも思われるのであろうが別段そういうわけでもないのだ。ただ単に私のこの醜い顔を覆い隠したいだけのこと。私は一年中冬でマフラーを常に着用していたい気分なのだがそうも上手くはいかない。だから私にとって秋というのはやっとマフラーを着けれるようになる待ちに待った季節であるのだ。


月曜の朝、さっそく私はマフラーを着用して学校に向かった。

天気は晴れ。気温的にはまだ暑いと形容してもいいほどの暑さ。それなのに私はマフラーを着用している。しかもこのマフラーは首の根元から鼻先の少し上のあたりまで覆い隠すことができる私にとっては最高の一品。このマフラーはある人からのプレゼントで、貰った時の感動は今でも忘れられない。これでやっと私は町を自由に歩くことが出来る。一度私はマスクの着用も考えてみたのだが、あれは呼吸がしにくいうえに自分の息がマスクの隙間から漏れ出てきて、目のあたりが気持ち悪いので好きにはなれない。

夏はどうしているのかということになるのだが、夏だけはどうしようもない。我慢してマスクをつけるしかないのだ。夏の暑さにプラスマスクの気持ち悪さ、夏は嫌いだ。


校門近くにくると学生たちがちらほら見受けられる。朝のホームルームが始まる四十分前にいつも登校している。個人的にはかなり早い時間に来ていると思うのだが、朝練を行っている生徒はそれよりも早く来ていたりするわけだから驚きだ。青春を謳歌しているというやつだ。今日も校門の近くに設備されている運動部の部室の周りでバレーボールを持って走っている生徒がいる。バレー部の後輩なのだろう、毎日毎日大変そうだな。


「文子、おはよう。」

突然、マフラーの端を引っ張られた。少しびっくりしたが、まぁ私にこんなことをする子は一人しかいない。

「ちょっと千代、ひっぱらないでよ。」

「ふふ。もうマフラーの時期かい?文子。」

千代は私のマフラーをぐいぐいと引っ張りながら質問してくる。この子もまだマフラーをつけるほど寒くはないのがわかっているのだろうに面倒くさいなぁ。

「私が何でマフラーつけてるか知ってるでしょ。いちいちそんなこと聞かないでよ。」

私は少し強めに言い返した。強く当たらないと千代はいつもすぐに調子にのるからな。

「わかったよ。ちょっと冗談でいただけなのに。」

千代は悲しげに私のマフラーから手を放した。強く言い過ぎたかな。さっきの言葉はなかなかのダメージだったようだ。謝ろうか、どうしようか、迷ってしまうな。

私が少し考え込みながら玄関口に入り靴を脱いでいたところ千代が話しかけてきた。

「ねぇねぇ、文子。今日からマフラー生活が始まるんなら琴音達にまた何か言われちゃうね。」

その言葉に私は謝ろうかなんて考えていたことを忘れるくらい頭が琴音のことに切り替えられた。ついで脱いだ靴を取ろうとした手が止まった。

そうなのだ。絶対に言われる。教室に入るなり、絶対に馬鹿にされる。でもそんなことはわかっている。それを承知の上で私はこの格好をしているんだ。私はいけないいけないと首を振り靴を手に持ち下駄箱に入れた。

「言われるだろうね。」

私はボソッと少し震えがかかった声で言い返し下駄箱から上履きを入れ靴を下駄箱に入れた。

「でも、一日だけ我慢すれば琴音もすぐ飽きて私に構うことなんてなくなるから。」

「でもつらいでしょ?」

そんなの辛いに決まってるじゃん。だけど我慢するって決めたんだからそんなこと聞かないでよ。ますます、辛くなる。

「大丈夫だって、何とかなるでしょ。」

内心は少しだけ心配だがマフラーを着けてきたことがわからなければいつも通りだからそこまで酷いことは言われまい。それじゃあマフラーをどうするかだけれど。ロッカーに隠したところですぐばれるだろうからなぁ、引き出しの中か、それとも。だけれどもどこに隠そうとしてもすぐにばれてしまうだろうからな。

「琴音ちゃん、最近また男の人にふられたって聞いたから今日も機嫌が悪いんじゃないかな。」

なんて悪いタイミングなんだ。私はつくづくついていないな。私は学校の階段を上がり二年三組がある三階へと足を運んだ。

するとその途中、今は絶対に聴きたくはない声が階段をおりてくる。

「朝から英語の再試とかやってらんねーっての。まじ鹿田腹たつは。」

「あんたはもっと勉強した方がいい、男で遊び過ぎ。」

「うるさいなぁ」

琴音だ。もう一人はいつも一緒にいる沙知である。一番合いたくない時に出会ってしまうことになる。今から玄関に戻って彼女たちがどこかに去ってしまうのを待っていようか。そうこう考えているうちに私は琴音と目があった。

「なんだよそのマフラー!気持ち悪いんだよ。この糞出っ歯!」

開口一番に琴音はそのような言葉を発した。そう私は出っ歯なのだ。それが嫌で私はこのような季節にでもマフラーをつける。それだけのことでここまで怒る人もいないだろう。他にも理由がある。それは私が着けているこのマフラー、実は私の彼氏からの贈り物なのだ。その彼氏とは、琴音の元彼で琴音が一番愛した男。そして琴音が今でも好きな彼からの贈り物なのだ。



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