現象13 兄貴
バトル系定番、兄貴のご登場です。
オレたちは、いやロードは史上最大の危機に瀕している。最強の魔術師の1人が自分と闘ろうと誘ってきてるワケだし・・・。オレ、帰りたい。
「・・・、その深海のような瞳と髪。似てますわ」
両がオレを見て、キッと睨み付けてきた。
「大地を溶かす奇跡の聖水、ウティラ・キーダモ!」
ズズズズ・・・
「うおぉ、これって・・・」
地面に引きずり込まれてるというコトは、砂地獄か!ロードは大丈夫なのか・・?
「私は召喚魔術も多少使える身、今回の時のためにこのアギュジーボと契約してよかった」
ロードは赤褐色の大蝙蝠に乗っていた。馬術部のアイツみたいに召喚獣を扱えるみたいだが、オレを助けてくれないとアイツ倒せないよ。
「荒ぶる獣を鎮める賛美歌、サーダの行者」
両が唄い始めると、蝙蝠がもがき苦しみだした。人間には何の効果もない、召喚獣殺しの魔術。バリエーションが多そうだ。
「魔術を無効化する力を体現する!」
ズボボボァ!
オレは砂地獄から抜け出し、両に向かった。両の目つきは更に鋭くなった。
「その力まで似るなんて、血筋ってヤなものですわ」
ズダァン・・
「おいおい、日本じゃ違法だよコレ・・・・。でも魔術師には、無意味なんだっけか法律って」
オレは脇腹を鉛の弾丸にぶち抜かれた。両は銃を隠し持っていたのだ。オレは痛みのあまり立ち上がるコトができない。
「ヤな思い出も、コレで少しは薄れますわ・・」
両は銃口をオレに向けてくる。何か速攻で終わったな、オレ。
ドンッ、ドンッ!
凶弾がオレの脳と心臓に一直線、容赦ないなあの女。
ギギ・・ギンッ!
「「!」」
ロードとオレは何が起こったのか、理解できなかった。銃弾がオレの目の前で、弾かれていたのだ。もっと驚いていたのは、銃弾を放った両だ。
「おいキョーヤ、会うのは2年ぶりだなァ。松下先輩に、だいぶ丸くされたみたいじゃねェの。能力も鍛えてもらったのかァ?」
この、人をおちょくるような感じの口調は、アイツだ・・・。
「貴方は・・、闇洞・・不美斗」
「なんで知ってる!?」
オレは両の発言に驚いた。この男の名前、そしてオレの兄貴である闇洞不美斗を両は知っている。
「あァ、話してなかったなァ。この女とは一度闘り合って勝ってるんだよなァ、オレ。2年前に一人暮らし始めてすぐに遭遇してさァ、そりゃァすげェ闘いだったぞォ」
兄貴もオレと同じ異能者だ。オレと同じく、人智を超えたモノ全てを体現できる力を持っている。が、オレの力の完全上位変換みたいなモノで、体現したモノを永久に使い放題のまさにチートマン。オレはその力せいで兄貴が嫌いで仕方ない。しかも何個でも人智を超えたモノを体現できる、まさに神になった男。それが闇洞不美斗である。
「お、キョーヤの友達かァ?ソイツ苦しんでんなァ、ちょっと待ってなァ」
「あっ、何を!?」
兄貴が蝙蝠の頭を軽く撫でると、蝙蝠が意識を意識を取り戻して活発に飛び回った。
「あ、有り難う御座います!」
「いいってのォ、あとは兄貴に任せなァ!」
バキャァッッ!
「ぐ、ばぁっ!」
ズドォォ・・
一体いつ殴ったんだよ、と思うくらい兄貴の拳の速度は速かった。両はあっさりダウンした。
「キョーヤ、オレさァ家へ帰るコトにしたからァ。ヨロシクゥ~」
へ~へ~、ヨロシクお願いしません。
兄貴は成城大学に通っているのだが、家は近いのに一人暮らししたいというコトでアパートに住んでいた。バイトもしていて収入はまぁまぁあるハズなんだが、浪費癖で湯水のように消えてしまったんだ、と兄貴は泣きながら言う。
「キョーヤ、あの女に対する感想はァ?」
「感想なんてねーよ、強かったなって思ったぜ」
兄貴は微笑する。兄貴が、兄貴であるが由縁の前兆だ。
「確かにあの女は強えェ、けど本当に強いワケじゃァねェんだぜェ?なんせ敗けた記憶を引きずっていやがったからなァ、ヘナチョコだったァ」
「敗けた記憶って大事じゃねーのかよ?」
人間は敗けを覚えるコトによって、勝ちに対する意欲を湧かせる。敗けを知らない人間は、オレ的にはもっとも嫌いな部類に入る。
「言うねェキョーヤ、でも敗けを覚えるコトと敗けを引きずるのは別モンさァ。敗けは勝ちに繋げる、最高のツール。だが使い方を間違えれば、ただの邪魔になっちまうんだぜェ」
「なーるほど、さすが兄貴だ」
兄貴が兄貴であるが由縁、それは単純だけど深い一言をサラリと言ってのけるコト。
今回の登場人物
両爾仁(26)...フランスでは10人しかいない1級魔術師の一人。ロードとキョーヤは死の淵まで追い詰めるが、フミトが参戦してアッサリ敗北した。2年前にも、フミトに闘り負けている。
闇洞不美斗(20)...キョーヤの兄。成城大学に通う大学生で、キョーヤと同じ異能者である。能力はキョーヤの力の完全上位変換、和天供心。人をおちょくるような口調で喋り、キョーヤ曰く『チートマン』。