わたくしはいつ婚約者に会えるのだろうか
いまだ彼は婚約者に会えないのヒロイン視点
王の側室……一夜のお手付きで生まれた娘。4番目に生まれたわたくしは辺境伯子息との婚約が物心つく前に決まっていた。
「あら、ホーリア。またエスコートがいないのね」
面白がるようにこちらを見下すのは三番目の姉。
「竜が出たので討伐しますから参加できないとお手紙が来ました」
慌てて書いたのだろう。いつもなら綺麗な文だが、簡潔で乱れた文字になっている婚約者の文を見せるが、それを鼻で嗤う。
「それ何度目のお断り文句だったかしら」
三番目の姉に続いて、たった三か月違いのすぐ下の妹も、
「そんなに何回も竜が出てくるのなら、王都はもっと混乱しているはずなのにおかしいですね」
「でも、実際そんなに竜が出る地域なら行ってみたいものです。竜の鱗一つで魔道具の軽量化。小型化が簡単に出来ますし、竜の種類によっては薬の材料になりますから」
「また、魔道具の話ですか。今はやめてください」
魔道具職人として国一番の称号を持っている妹の婚約者が目を輝かせて話をするのに辟易した妹に叱られている。
魔道具のことになるとそれ以外見えなくなるが、でもそれがいいと普段惚気ている妹に叱られて何処か嬉しそうに目を細める婚約者。
「では、お先に。お姉さま」
「またね。ホーリア」
嘘つきな婚約者がいて大変ですね。そんなことを告げてそれぞれの婚約者にエスコートされて式典に出ていく。
「………このまま式典に出たら同じように陰口をささやかれるのでしょうね」
侍女が一生懸命飾り立ててくれたが、そんな気鬱するしかない式典に出るのも辛い。
「少しだけ食事をしてこっそり出る……。一貴族なら出来るのでしょうけど。王族には許されないでしょうね」
下を向いていたが、決心したように王族特有の金色の瞳を上げる。どんな時にも毅然とする。それが自分に課せられた使命だと言い聞かせて。
そもそも、わたくしは微妙な立場だ。
王が視察に向かった先の貴族の家にいたメイドがわたくしの母。接待をされてお酒を飲み過ぎた王が、羽目を外してメイドに手を出した。
あくまで一夜の過ち、酔って本人もうろ覚えでしかない状況だったが、王に逆らうのかとメイドを脅して動きを封じての出来事に見事に身ごもった。
とはいえ、妊娠した時は王の子供だと信じてもらえずに、当時母には婚約している相手が居たのでその相手だろうと思われていたのだが……婚約者は手を出していない。清い関係だったのだが、王の子供だと偽っていると母も婚約者も疑われて針の筵状態だったとか。
そんな中、産まれたわたくしは王族のみ持っている金色の目をしていたので王家の姫だと判断されて、王家に引き取られた。
生まれるまでずっと針の筵状態での出産した母はその数か月後亡くなり、その婚約者も自殺したとか。
体裁が悪いから側室にしたが、王自身も存在自体忘れていた相手との娘に興味などなく、結婚相手を見付けてくれただけでもマシなんだろう。
「竜討伐……」
何度か会う計画はあった。だけど、すべて流れた。
魔獣暴走が起きた。竜が出現した。毎回毎回そう手紙が来て延期になる。
だけど、王都は平和。
毎回婚約者がいるのにエスコートされずに一人で参加しているわたくしを見て、皆存在があやふやな4の姫と婚約したくない辺境伯子息の嘘だろうと思って、わたくしを嘲笑う。
そんな訳ない。くださる手紙は丁寧でこちらを気遣うことばかり書かれているのだと反論したいが、手紙ならいくらでも繕えると言われたら反論などできない。
「…………本命は別にいて断れない婚約。かもしれませんね」
式典を一人で参加して針の筵状態で何とかやり過ごしてようやく戻ってきた自室でついそんな弱音を吐いて、自嘲気味に笑ってしまう。
一度も会っていない婚約者。それでも信じたいが。
「信じるには信じるに値するものが少なすぎます……」
そうぼやいてしまうのも仕方ないだろう。
竜が出現。魔物暴走。次から次へと来る断り文句に返事をしつつ、それが真実であるのなら辺境に嫁ぐ時に注意しないといけないことでもあるのではないかと図書室で調べるために持ってきた本を広げる。
古い古い英雄の物語に古の魔王が住んでいた地域は魔素溜が出来ていて、魔物が発生しやすいと書いてあってもしかしたら辺境がそうなのではないかと思って期待したが、教師に一笑されたので言わなくなった。
そんなある日。やけに膨らんだ封筒が届けられた。
「シュタインさまからの文。よね……」
怪しいものではないと調べられてはいるだろうけど……。
中を開けると大小さまざまな半透明な綺麗な板状な物が出てくる。
色も様々で、ステンドグラスにしては軽くて柔らかい……だけど丈夫に見えて……。
「ホーリア姉さま」
ノックと共に妹の声。
「検閲の際にホーリア姫殿下の元に届けられた品物が竜の鱗みたいだと話が来てさ。ぜひ、この目で見たいんだっ!!」
「分かったから黙ってて」
妹と妹の婚約者の興奮したような声。
メイドが扉を開けると挨拶もせず、すぐに入ってきて、
「届け物を見させてくださいっ!!」
「挨拶が先でしょう!! すみません。お姉さま」
婚約者を叱り、謝罪する妹に苦労しているんだなと感じ取れる。
「確かにこれは竜の鱗だね……」
装飾品として加工してくださいと書かれていたが、装飾品にするにはもったいないほどの貴重な代物。
「でも、本当に竜が出現……しかもここまで色が異なる物があると言うことは複数確認されていると言うことだ……」
「嘘ではなかったのね」
鱗を楽しげに見つめる婚約者と断りの文句が真実だったことに驚いている妹。
「こうしてはおけない。すぐに支援に……竜の鱗以外にもたくさんの貴重な資材が手に入るはずだっ!!」
妹の婚約者の言葉を聞いて、今まで動かなかったのが嘘のように直ぐに父である王のもとに走っていく。
竜の対応などで会えなかった。だけど、こうやって支援に出れば会う機会も……。
「マルガリッタ。竜の鱗を装飾品に加工してくれそうな職人は……」
妹に尋ねると妹は一瞬だけ驚いたようにこちらを見たがすぐに不敵に笑い、
「いくらでも紹介できますわ。お姉さまと違って、伝手はありますので」
などと言ってくれたので鱗をたくさん預けて、執務室にいる父に直談判した。
それからは急展開だった。今まで価値がないと思われていた辺境が宝の山だと知った者たちが支援に動き出し、騎士団が動き出した。
「彼が行くのは分かっていたけど、まさか、お姉さままで……」
妹の視線の先にはまだ見ぬ宝に興奮している妹の婚約者。
「ええ。ここで行かないと会う機会はないようだから」
会いに来れないなら会いに行こう。わたくしだと気付いてもらえるようにたくさんの竜の鱗の装飾品を身に着けて。
一角獣なら半月も掛からないだろう。ずっと会っていなかった婚約者がどんな方か期待に胸を膨らませて、移動して……。
「――本当に魔獣がよく発生するのですね」
声は裏返っていないだろうか。緊張して強張っていないだろうか。
均整の取れた身体つき、派手さはないが、真面目さが前面に出ている好青年だった。
手紙で人の好さが伝わっていたけれど、ここまでわたくし好みの方だとは思わなかった。
わたくしの婚約者……シュタインさまにわたくしはどう見えているだろうか。不安になりながら、
「会いに来てくれないから会いに来ました♪」
あえて軽い口調で話を進める。
まだ、反応はない。
「竜の鱗なんて貴重な物を封筒に入れて贈るのはいくら何でも不用心ですよ。まあ、おかげで貴重な竜の素材が手に入ると判明したので父を説得して辺境に援軍を送れる用意が出来ましたけど」
お願いだから返事をしてと縋る気持ちに気付いたのか。
「ホーリア姫」
ああ。呼んでくれる声が低くてたくましさを感じる。
ここからの会話は覚えていない。浮かれていたのは確かだけど、支援が出ることや状況判断が甘かった処罰とか支援の細かい打ち合わせなどの話をしていた間に貴重な魔獣の資材に目を輝かせる妹の婚約者がいたのは覚えているくらいだ。
だけど、これだけは覚えている。
ずっと会いたかった人。手紙だけで人柄を知っていたその人に恋をして大胆になってしまったこと。甘えるようにくっついたことを冷静になって恥ずかしさで暴れたくなるのだが、それよりも。
「俺も甘えてほしかったです」
その言葉が何よりも嬉しかった。
一生くっついてろ




