笑顔のきっかけ、転んでみる
月曜日。
ぼくは、転ぶ練習をした。
ソファの下から出てきて、ちょっとだけ足をもつれさせて、コテン。
「お前、何してんだよ」って修一さんが笑った。
うん、それそれ。その笑顔が、今週の目的。
作戦名:「笑顔のきっかけ、転んでみる」
目的:ふたりの間に“笑い”を生む。
手段:ぼくが転ぶ。ちょっとおどける。ふたりが笑う。
結果:空気がやわらかくなる。親しみが生まれる。
火曜日。
ぼくは廊下でスライディング練習をした。
足をちょっとだけ滑らせて、コロン。
「お前、サッカー選手か?」って言われた。
うん、恋のミッドフィルダーだよ。笑顔をパスするんだ。
水曜日。
修一さんが「笑わせるって、むずかしいよな」って言った。
ぼくは耳をピクッと動かした。
むずかしいけど、笑ったら、心が近づく。
ぼくは、そう思う。
木曜日。
ぼくは鏡を見た。
転んだときの顔、チェック。
ちょっと情けなくて、でもかわいくて、しっぽがぴょんってなる感じ。
「お前、演技派だな」って言われた。
うん、恋のコメディアンだよ。
金曜日。
修一さんが「笑ってもらえたら、嬉しいな」って言った。
ぼくはしっぽを振った。
笑ってもらえるよ。だって、ぼくが転ぶから。
土曜日。
風が強かった。
葉っぱが踊ってた。
ぼくはその音を聞きながら、笑いのタイミングを想像してた。
風の音と、足音と、笑い声。
全部が、ちょっとだけ重なる瞬間。
日曜日。
公園の空は、明るい灰色だった。
風がふわって吹いて、ぼくの耳をくすぐった。
佐和子さんがいた。
ベンチじゃなくて、立ってた。
白い靴が、ちょっとだけ前に出てた。
ぼくはリードを引っ張った。
修一さんがついてくる。
佐和子さんが「こんにちは」と言った。
修一さんが「こんにちは」と返した。
ぼくはしっぽを振った。準備完了。
そして、転ぶ。
ちょっとだけ足をもつれさせて、コテン。
耳がぴょんってなって、しっぽがくるんってなった。
佐和子さんが笑った。
「パギー、どうしたの?」
修一さんも笑った。
「すみません、最近転びグセが…」
ぼくはしっぽを振った。全力で。
笑いって、すごい。
空気がやわらかくなる。
言葉がなくても、気持ちが近づく。
ぼくは、そう思った。
帰り道。
修一さんが「笑ってくれたな」って言った。
ぼくは胸を張った。
うん、笑ってくれたよ。ちゃんと、ふたりとも。
反省点?あるよ。
ちょっと転びすぎた。芝生が鼻に入った。
でも、笑ってくれた。
つまり、作戦は——成功。
次は、ふたりの“共通の話題”をつくる作戦。
ぼくの好きな遊びを見せる。ふたりが話す。
ぼくはパギー。恋の応援団長。
次回作戦名:「好きなこと、話してみて」
いくぞ、来週!




