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大事な事はパグが教えた  作者: 双鶴


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8/11

並んで歩く、春の道

月曜日。

ぼくは、歩く練習をした。

修一さんの左にぴったりついて、リードをたるませて、しっぽをふりながら。

「お前、モデル犬か?」って言われたけど、違う。

ぼくは恋の応援団長。今週は“並んで歩く”作戦だ。


作戦名:「並んで歩く、春の道」

目的:修一さんと佐和子さんが並んで歩く。

手段:ぼくがふたりの間に入る。歩調を合わせる。話すきっかけをつくる。

結果:ふたりの距離が、自然に近づく。


火曜日。

修一さんが「並んで歩くって、意外とむずかしいよな」って言った。

ぼくは耳をピクッと動かした。

むずかしいけど、歩けばわかる。

風の向き、足音のリズム、沈黙の重さ。

全部、歩いてると見えてくる。


水曜日。

ぼくは廊下で歩調合わせの練習をした。

修一さんの足音に合わせて、ぴたっと止まる。ぴたっと進む。

「お前、警察犬になれるぞ」って言われた。

うん、恋の警察犬でもいいよ。ふたりの関係、守るから。


木曜日。

佐和子さんの名前を、修一さんが口にした。

「佐和子さん、か…」

その声が、ちょっとだけやわらかかった。

名前を呼ぶって、やっぱりすごい。

ぼくはしっぽを振った。音の中に、気持ちがある。


金曜日。

修一さんが「並んで歩けたら、いいな」って言った。

ぼくは鏡を見た。

耳の角度、しっぽの振り方、歩くときの姿勢。

全部、チェックした。

だって、今週は“並ぶ週”だから。


土曜日。

風が強かった。

でも、空は晴れてた。

ぼくはベランダで風を感じながら、歩くときの匂いを思い出してた。

草と土と、春の終わりの匂い。

ちょっとだけ、さみしくて、でもあったかい。


日曜日。

公園の空は、やさしい青だった。

風がふわって吹いて、ぼくの耳をくすぐった。

佐和子さんがいた。

ベンチじゃなくて、立ってた。

白い靴が、ちょっとだけ前に出てた。


ぼくはリードを引っ張った。

修一さんがついてくる。

佐和子さんが「こんにちは」と言った。

修一さんが「こんにちは」と返した。

ぼくはしっぽを振った。準備完了。


そして、歩き出した。

佐和子さんが右。修一さんが左。

ぼくは、その間。

三つの足音が、ちょっとずつ重なっていく。

風の音と、鳥の声と、ふたりの呼吸。

全部が、ちょっとだけ近づいていく。


沈黙があった。

でも、ぼくにはわかった。

その沈黙の中に、“安心”があった。

言葉がなくても、歩いていれば、気持ちは届く。


佐和子さんが「パギー、歩くの上手ね」って言った。

修一さんが「毎日、練習してますから」って言った。

ぼくはしっぽを振った。全力で。


帰り道。

三人で歩いた道が、ちょっとだけ長く感じた。

でも、短くも感じた。

時間って、気持ちで変わるんだと思った。


修一さんが「……並んで歩けたな」って言った。

ぼくは胸を張った。

うん、歩けたよ。ちゃんと、並んで。


反省点?あるよ。

途中で鳩を追いかけそうになった。

でも、我慢した。

だって、ふたりの歩調が合ってたから。

つまり、作戦は——成功。


次は、ふたりの笑顔を引き出す作戦。

ぼくが転んで、笑わせる。ちょっとだけ、おどける。

ぼくはパギー。恋の応援団長。

次回作戦名:「笑顔のきっかけ、転んでみる」


いくぞ、来週!


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