並んで歩く、春の道
月曜日。
ぼくは、歩く練習をした。
修一さんの左にぴったりついて、リードをたるませて、しっぽをふりながら。
「お前、モデル犬か?」って言われたけど、違う。
ぼくは恋の応援団長。今週は“並んで歩く”作戦だ。
作戦名:「並んで歩く、春の道」
目的:修一さんと佐和子さんが並んで歩く。
手段:ぼくがふたりの間に入る。歩調を合わせる。話すきっかけをつくる。
結果:ふたりの距離が、自然に近づく。
火曜日。
修一さんが「並んで歩くって、意外とむずかしいよな」って言った。
ぼくは耳をピクッと動かした。
むずかしいけど、歩けばわかる。
風の向き、足音のリズム、沈黙の重さ。
全部、歩いてると見えてくる。
水曜日。
ぼくは廊下で歩調合わせの練習をした。
修一さんの足音に合わせて、ぴたっと止まる。ぴたっと進む。
「お前、警察犬になれるぞ」って言われた。
うん、恋の警察犬でもいいよ。ふたりの関係、守るから。
木曜日。
佐和子さんの名前を、修一さんが口にした。
「佐和子さん、か…」
その声が、ちょっとだけやわらかかった。
名前を呼ぶって、やっぱりすごい。
ぼくはしっぽを振った。音の中に、気持ちがある。
金曜日。
修一さんが「並んで歩けたら、いいな」って言った。
ぼくは鏡を見た。
耳の角度、しっぽの振り方、歩くときの姿勢。
全部、チェックした。
だって、今週は“並ぶ週”だから。
土曜日。
風が強かった。
でも、空は晴れてた。
ぼくはベランダで風を感じながら、歩くときの匂いを思い出してた。
草と土と、春の終わりの匂い。
ちょっとだけ、さみしくて、でもあったかい。
日曜日。
公園の空は、やさしい青だった。
風がふわって吹いて、ぼくの耳をくすぐった。
佐和子さんがいた。
ベンチじゃなくて、立ってた。
白い靴が、ちょっとだけ前に出てた。
ぼくはリードを引っ張った。
修一さんがついてくる。
佐和子さんが「こんにちは」と言った。
修一さんが「こんにちは」と返した。
ぼくはしっぽを振った。準備完了。
そして、歩き出した。
佐和子さんが右。修一さんが左。
ぼくは、その間。
三つの足音が、ちょっとずつ重なっていく。
風の音と、鳥の声と、ふたりの呼吸。
全部が、ちょっとだけ近づいていく。
沈黙があった。
でも、ぼくにはわかった。
その沈黙の中に、“安心”があった。
言葉がなくても、歩いていれば、気持ちは届く。
佐和子さんが「パギー、歩くの上手ね」って言った。
修一さんが「毎日、練習してますから」って言った。
ぼくはしっぽを振った。全力で。
帰り道。
三人で歩いた道が、ちょっとだけ長く感じた。
でも、短くも感じた。
時間って、気持ちで変わるんだと思った。
修一さんが「……並んで歩けたな」って言った。
ぼくは胸を張った。
うん、歩けたよ。ちゃんと、並んで。
反省点?あるよ。
途中で鳩を追いかけそうになった。
でも、我慢した。
だって、ふたりの歩調が合ってたから。
つまり、作戦は——成功。
次は、ふたりの笑顔を引き出す作戦。
ぼくが転んで、笑わせる。ちょっとだけ、おどける。
ぼくはパギー。恋の応援団長。
次回作戦名:「笑顔のきっかけ、転んでみる」
いくぞ、来週!




