あなたの名前、教えてください
月曜日。
ぼくは、名前のことを考えていた。
「パギー」って呼ばれるたびに、胸がポンって鳴る。
それって、名前に“気持ち”が乗ってるからだと思う。
じゃあ、あの人の名前は?
修一さんは、まだ知らない。
それって、ちょっとさみしい。
作戦名:「あなたの名前、教えてください」
目的:あの人の名前を知る。
手段:名札の話題から、自然に名前を聞く。
結果:ふたりが“名前”で呼び合える関係になる。
火曜日。
修一さんが「名前、聞いてみようかな…」って言った。
ぼくはしっぽを振った。
聞いてみよう。だって、名前って、関係のはじまりだから。
水曜日。
ぼくは首輪を磨いた。
銀色のプレートを、ぺろって舐めて、光らせた。
「お前、気合入ってんな」って修一さんが笑った。
うん、気合入ってるよ。だって、今週は“名前の週”だから。
木曜日。
修一さんが「名前って、聞き方むずかしいよな」って言った。
ぼくは耳をピクッと動かした。
むずかしいけど、聞かなきゃ始まらない。
ぼくは、そう思う。
金曜日。
ぼくは鏡を見た。
名札が、ちょっとだけくすんでた。
ぼくは鼻でこすった。
「お前、営業マンか」って修一さんが笑った。
うん、恋の営業マンだよ。
土曜日。
風が強かった。
葉っぱがベランダで踊ってた。
ぼくはその音を聞きながら、名前の響きを想像してた。
あの人の名前。どんな音だろう。どんな気持ちが乗ってるんだろう。
日曜日。
公園の空は、やさしい灰色だった。
風がちょっと冷たくて、でも匂いは春のままだった。
草と土と、ちょっとだけ花の匂い。
ぼくは歩いた。ゆっくり。でも、確実に。
あの人がいた。
ベンチに座って、白い靴をちょっとだけ前に出してる。
ぼくはリードを引っ張った。
修一さんがついてくる。
あの人がしゃがんだ。
「パギー、今日も元気ね」
声が、やさしかった。
修一さんが、ちょっとだけ笑って言った。
「ありがとうございます。あの……すみません、お名前、伺ってもいいですか?」
沈黙が、ちょっとだけ流れた。
でも、すぐに、笑顔が返ってきた。
「佐和子です」
声が、やわらかかった。
名前の響きが、風に乗って、ぼくの耳に届いた。
修一さんが「佐和子さん、ですね」と言った。
ちゃんと、はっきりと。
ぼくはしっぽを振った。全力で。
名前って、すごい。
呼ぶだけで、距離が縮まる。
聞くだけで、心が近づく。
ぼくは、そう思った。
帰り道。
修一さんが「佐和子さんか…いい名前だな」って言った。
ぼくはしっぽを振った。
うん、いい名前だよ。やさしくて、あったかくて、春みたいな名前。
反省点?あるよ。
修一さん、ちょっと声が小さかった。
でも、聞けた。答えてもらえた。
つまり、作戦は——成功。
次は、並んで歩く作戦。
ふたりが並んで歩く。ぼくがその間にいる。
ぼくはパギー。恋の応援団長。
次回作戦名:「並んで歩く、春の道」
いくぞ、来週!




