雨とタオルと、ちょっとした奇跡
月曜日。
空は曇ってた。
ぼくは窓の外を見ながら、雨の匂いを思い出してた。
濡れるのは好きじゃない。でも、雨の日には“やさしいこと”が起きる気がする。
作戦名:「雨とタオルと、ちょっとした奇跡」
目的:あの人に“世話を焼いてもらう”ことで、距離を縮める。
手段:雨に濡れる。ブルブルする。タオルをもらう。修一さんが感謝する。
結果:ふたりの関係に“やさしさ”が生まれる。
火曜日。
ぼくは水たまりを見つめた。
ぴちゃって踏んでみた。冷たかった。
修一さんが「やめろって…」って言った。
でも、ぼくはしっぽを振った。これは訓練だ。恋のための、濡れ訓練だ。
水曜日。
天気予報が「週末、雨」と言った。
修一さんが「どうするかな…」って言った。
ぼくは耳をピクッと動かした。
雨でも、行く。むしろ、雨だからこそ、行く。
木曜日。
ぼくはタオルをくわえて歩いた。
修一さんが「それ、持ってくのか?」って言った。
ぼくはしっぽを振った。
タオルは、奇跡の道具になる。
金曜日。
修一さんが「濡れるぞ、お前」と言った。
ぼくは目を見つめた。ウルウル瞳、発動。
修一さんが「……わかったよ」と言って、タオルをリュックに入れた。
作戦、準備完了。
土曜日。
雨が降った。
ぼくは窓の外を見ながら、鼻をくすぐる匂いを感じてた。
草と土と、雨の匂い。
ちょっとだけ、さみしくて、でもやさしい匂い。
日曜日。
公園の空は、灰色だった。
水たまりができてて、葉っぱが濡れてて、風がちょっと冷たかった。
でも、ぼくは歩いた。ゆっくり。でも、確実に。
あの人がいた。
ベンチの端に座って、傘をさしてた。
白い靴が、ちょっとだけ濡れてた。
ぼくはリードを引っ張った。
修一さんがついてくる。
そして、ぼくは水たまりに入った。
ぴちゃ。ぴちゃ。
濡れた。冷たかった。
でも、作戦だから。
ぼくはブルブルした。
水しぶきが飛んだ。
あの人が笑った。
「濡れちゃったね」
声が、やさしかった。
修一さんが、タオルを出した。
あの人が受け取って、ぼくの背中を拭いてくれた。
やさしく、ゆっくり。
ぼくは目を閉じた。
その手の温度を、覚えておこうと思った。
修一さんが「ありがとうございます」って言った。
ちゃんと、はっきりと。
あの人が「いえ、かわいいから」と言った。
ぼくはしっぽを振った。全力で。
帰り道。
雨は止んでた。
空がちょっとだけ明るくなってた。
修一さんが「……濡れてよかったな」って言った。
ぼくは胸を張った。
うん、濡れてよかった。奇跡、起きた。
反省点?あるよ。
水たまりが思ったより深かった。
お腹まで濡れた。ちょっと寒かった。
でも、タオルがあった。
あの人の手があった。
つまり、作戦は——成功。
次は、名前を呼ぶ作戦。
首輪に名札をつける。話題になる。名前を聞く。
ぼくはパギー。恋の応援団長。
次回作戦名:「名札と名前と、はじめまして」
いくぞ、来週!




