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大事な事はパグが教えた  作者: 双鶴


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4/11

ベンチの距離、ココロの距離

月曜日。

ぼくは、ベンチの下を思い出していた。

暗くて、ちょっと冷たくて、でも安心する場所。

人間はあんまり気にしないけど、ぼくにとっては“観察ポイント”であり、“作戦基地”でもある。


作戦名:「ベンチの下から、こんにちは」

目的:修一さんが、あの人の隣に座る。

手段:ぼくがベンチの下に潜り込む。あの人が笑う。修一さんが座る。

結果:物理的な距離が縮まる。できれば、沈黙の中に“気配”が生まれる。


火曜日。

ぼくはソファの下に潜った。

暗さ、広さ、匂い、全部チェック。

「お前、またそこか」と修一さんが言った。

ぼくはしっぽを振った。これは訓練だ。恋のための、潜入訓練だ。


水曜日。

修一さんが、ベンチの写真を見てた。

スマホの画面に、公園のベンチが映ってた。

ぼくはその横で寝たふりをしながら、画面をチラ見した。

「……隣に座るって、むずかしいな」って修一さんが言った。

ぼくは心の中で言った。むずかしいから、ぼくがやるんだよ。


木曜日。

風が強かった。

ベランダの葉っぱがカサカサって鳴ってた。

ぼくはその音を聞きながら、ベンチの下の音を想像した。

人間の靴が近づく音。スカートのすそが揺れる音。

ぼくの耳は、そういう音を覚えてる。


金曜日。

修一さんが「今週は、座れるかな…」って言った。

ぼくはしっぽを振った。

座れるよ。ぼくが、座らせる。


土曜日。

ぼくはベンチの下に潜る練習をした。

公園じゃないけど、家のベンチで。

鼻を低くして、体を丸めて、スッと入る。

「お前、忍者か?」って修一さんが笑った。

うん、恋の忍者だよ。


日曜日。

公園の空は、ちょっと曇ってた。

でも、風はやさしかった。

ぼくの鼻には、草と土と、ちょっとだけ雨の匂いが届いてた。

春の匂い。静かな匂い。


あの人がいた。

ベンチに座って、白い靴をちょっとだけ前に出してる。

ぼくはリードをちょっと引っ張った。

修一さんがついてくる。

ぼくは歩く。ゆっくり。でも、確実に。


そして、ベンチの下へ。

スッと潜る。

あの人が笑った。

「また来たの?」

声が、やさしかった。


修一さんが、ちょっとだけ迷って、座った。

隣に。

ぼくはベンチの下から、ふたりの靴を見てた。

白い靴と、黒い靴。

ちょっとだけ、つま先が近づいてた。


沈黙があった。

でも、ぼくにはわかった。

その沈黙の中に、“気配”があった。

風の音と、鳥の声と、ふたりの呼吸。

全部が、ちょっとだけ重なってた。


帰り道。

修一さんが、ぼくの頭をなでた。

「……座れたな」って言った。

ぼくはしっぽを振った。

うん、座れたよ。ちゃんと、隣に。


反省点?あるよ。

ベンチの下がちょっと狭かった。

ぼくのしっぽが、スカートに触れそうになった。

でも、笑ってくれた。

修一さんも、座れた。

つまり、作戦は——成功。


次は、雨の日作戦。

濡れて、ブルブルして、タオルをもらう。

ぼくはパギー。恋の応援団長。

次回作戦名:「雨とタオルと、ちょっとした奇跡」


いくぞ、来週!


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