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大事な事はパグが教えた  作者: 双鶴


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3/11

落とし物を拾わせよう

月曜日。

ぼくは、ボールを見つめていた。

赤くて、ちょっと噛みあとがついてて、でもまだ跳ねる。

このボールを、あの人の足元に転がす。

拾ってもらう。

修一さんが「ありがとうございます」って言う。

それが、今週の作戦。


作戦名:「落とし物、拾わせろ」

目的:あの人に“話しかける理由”をつくる。

手段:ボールを転がす。拾ってもらう。修一さんが受け取る。

結果:自然な会話が生まれる。できれば、笑顔つき。


火曜日。

ぼくは、廊下でボールを転がした。

カタン、コロン。カタン、コロン。

修一さんが「うるさいぞ」って言った。

でも、ぼくはやめなかった。これは訓練だ。恋のための、特訓だ。


水曜日。

ボールの転がり方を研究した。

まっすぐ転がすと、止まるのが早い。

ちょっと斜めにすると、くるっと回って、遠くまで行く。

ぼくは鼻で押して、角度を調整した。

「お前、ビリヤードでもやるのか」って修一さんが笑った。

うん、近いかも。


木曜日。

修一さんが、ちょっとだけ元気そうだった。

パソコンの前で「……いや、でもな」とか言ってた。

ぼくはその声の高さでわかる。

迷ってるときの声だ。

でも、迷ってるってことは、前に進みたいってことだ。


金曜日。

ぼくはボールをくわえて、修一さんの足元に置いた。

「……持ってくのか?」

ぼくはしっぽを振った。

修一さんが「……わかったよ」と言って、ボールをリュックに入れた。

作戦、準備完了。


土曜日。

風がちょっと強かった。

でも、空は晴れてた。

修一さんが「明日、行くか」と言った。

ぼくは耳をピクッと動かした。

いくぞ、作戦決行。


日曜日。

公園の空は、青かった。

風が木の葉をくすぐって、カサカサって音を立ててた。

ぼくの鼻には、草と土と、ちょっとだけ花の匂いが届いてた。

春の匂い。恋の匂い。たぶん。


あの人がいた。

ベンチに座って、白い靴をちょっとだけ前に出してる。

ぼくはリードをちょっと引っ張った。

修一さんがついてくる。

ぼくは歩く。ゆっくり。でも、確実に。


そして、ボールを落とす。

鼻で、ちょん。

ボールが転がる。コロン、コロン。

あの人の足元へ。

止まった。


あの人が、しゃがんだ。

ボールを拾った。

「これ、落としましたよ」

声が、やさしかった。

修一さんが、受け取った。

「……ありがとうございます」

声が、ちゃんと出た。


あの人が笑った。

「かわいいですね、この子」

修一さんが、ちょっとだけ笑った。

「パギーっていいます」

ぼくはしっぽを振った。全力で。


帰り道。

修一さんが、ボールを見つめてた。

「……やるな、お前」

ぼくは胸を張った。

しっぽも、ぴんと立てた。


反省点?あるよ。

ボールがちょっと転がりすぎた。

あの人の靴に当たりそうになった。

でも、拾ってもらえた。

修一さんの声も、ちゃんと届いた。

つまり、作戦は——成功。


次は、隣に座る作戦。

ベンチの下に潜り込む?うん、それだ。

ぼくはパギー。恋の応援団長。

次回作戦名:「ベンチの下から、こんにちは」


いくぞ、来週!


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