ウルウル瞳、発動!
月曜日。
修一さんは、いつものコーヒーを飲んで、いつものパソコンに向かった。
ぼくはソファの下で丸くなって、いつものように耳をくすぐられた。
でも、ぼくの頭の中は、もう“次の日曜”のことでいっぱいだった。
作戦名:「ウルウル瞳、発動」
目的:あの人の視線をぼくに向ける。
手段:目を見つめる。耳の後ろを見せる。しっぽを振る。
結果:修一さんが話しかける。できれば、名前を聞く。
ぼくは、ぬいぐるみのカエルを相手に練習した。
「よし、カエル。しゃがんでくれ」
カエルはしゃがまない。ぬいぐるみだから。
でも、ぼくは見つめる。ウルウル瞳、発動。
……うん、悪くない。ちょっと涙っぽさが足りないけど、まあまあ。
火曜日。
修一さんが「今週は晴れるかな」と言った。
ぼくは耳をピクッと動かした。
晴れなら、作戦決行。雨なら、延期。
でも、延期はイヤだ。ぼくのしっぽが、もう準備万端だから。
水曜日。
公園の夢を見た。
ベンチの下から、あの人の靴が見えて、ぼくがしっぽを振って、修一さんが「こんにちは」って言った。
夢の中では、うまくいった。
でも、夢は夢。現実は、もっとむずかしい。
木曜日。
修一さんが、ちょっとだけ笑った。
パソコンの画面を見ながら、「……いいかもな」って言った。
何が“いい”のかはわからないけど、ぼくはその笑顔を覚えておくことにした。
だって、日曜に使えるかもしれないから。
金曜日。
ぼくは鏡を見た。
ウルウル瞳、チェック。
うん、いい感じ。ちょっとだけ涙っぽさが足りないけど、光の入り方は完璧。
修一さんが「何見てんだよ」って笑った。
ぼくはしっぽを振った。作戦、順調。
土曜日。
修一さんが「明日、行くか」と言った。
ぼくは跳ねた。耳がぴょんってなった。
修一さんが「お前、わかってんのか?」って言った。
わかってるよ。だって、ぼくは恋愛参謀だから。
そして、日曜日。
公園の空は、ちょっとだけ青かった。
風がふわって吹いて、ぼくの鼻の中に草の匂いが入ってきた。
ちょっと湿った土の匂いも混ざってる。春の匂いだ。
鳥がピピピって鳴いてる。ぼくは耳をピクッと動かす。
あの鳴き声、好きなんだ。なんか、元気になる。
あの人がいた。
ベンチに座って、白い靴をちょっとだけ前に出してる。
ぼくはリードをちょっと引っ張った。
修一さんがついてくる。
ぼくは歩く。ゆっくり。でも、確実に。
ウルウル瞳、発動。
あの人がこっちを見た。
しゃがんだ。
ぼくは甘える。耳の後ろを見せる。これ、鉄板。
あの人が「かわいい…」って言った。
修一さん、しゃべれ!しゃべれ!……あっ、モゴモゴしてる。
でも、ちょっと笑ってる。あの人も笑ってる。
これは……進歩だ!
ぼくのしっぽが勝手に動いた。止めたいけど、無理。だって、あの人が笑ったから。
帰り道。
修一さんが「……ありがとうな」って言った。
誰に言ったのかはわからないけど、たぶん、ぼくだと思う。
ぼくはしっぽを振った。ちょっとだけ、誇らしく。
反省点?あるよ。
修一さんの声、まだ小さい。
あの人の名前、まだ知らない。
でも、目は合った。笑顔もあった。
つまり、作戦は——成功。
次は、声を出す作戦。
吠える?いや、うるさいか。
ボールを転がす?うん、それだ。
ぼくはパギー。恋の応援団長。
次回作戦名:「落とし物、拾わせろ」
いくぞ、来週!




