春の終わり、始まりの日。
月曜日。
ぼくは、桜の花びらを見ていた。
風に乗って、ひらひらと舞って、地面に落ちて、また舞い上がる。
春の終わりの匂いが、ぼくの鼻に届いてた。
ちょっとだけ、さみしくて、でもあったかい。
作戦名:「春の終わり、はじまりの日」
目的:修一さんが、佐和子さんに“また会いたい”と言う。
手段:ぼくがふたりの間に立つ。空気をつくる。言葉を引き出す。
結果:ふたりの関係が“はじまり”になる。
火曜日。
修一さんが「桜、もう終わりだな…」って言った。
ぼくは耳をピクッと動かした。
終わりって、はじまりでもある。
ぼくは、そう思う。
水曜日。
ぼくはベランダで風を感じてた。
草と土と、花の匂い。
春の終わりの匂い。
ぼくのしっぽが、ゆっくり動いた。
木曜日。
修一さんが「言えるかな…」って言った。
ぼくはしっぽを振った。
言えるよ。だって、ここまで来たんだから。
金曜日。
ぼくは鏡を見た。
耳の角度、しっぽの振り方、歩くときの姿勢。
全部、チェックした。
最後の作戦だから。
土曜日。
風が強かった。
桜の花びらが、空を舞ってた。
ぼくはその音を聞きながら、言葉のタイミングを想像してた。
風の音と、足音と、心の音。
全部が、ちょっとだけ重なる瞬間。
日曜日。
公園の空は、やさしい青だった。
桜の木の下で、佐和子さんが立ってた。
白い靴が、ちょっとだけ前に出てた。
ぼくはリードを引っ張った。
修一さんがついてくる。
佐和子さんが「こんにちは」と言った。
修一さんが「こんにちは」と返した。
ぼくはしっぽを振った。準備完了。
そして、歩いた。
桜の花びらが、ふたりの肩に落ちた。
ぼくはその間にいた。
三つの足音が、ちょっとずつ重なっていく。
沈黙があった。
でも、ぼくにはわかった。
その沈黙の中に、“言葉の準備”があった。
そして、修一さんが言った。
「よかったら、また一緒に散歩しませんか」
声が、ちょっとだけ震えてた。
でも、ちゃんと届いた。
佐和子さんが笑った。
「はい、ぜひ」
声が、やわらかかった。
ぼくはしっぽを振った。全力で。
帰り道。
風がふわって吹いて、桜の花びらがぼくの鼻にくすぐった。
修一さんが「……言えたな」って言った。
ぼくは胸を張った。
うん、言えたよ。ちゃんと、はじまりになった。
反省点?ないよ。
全部、やりきった。
ぼくはパギー。恋の応援団長。
ぼくの作戦、全部——成功だった。
そして、春が終わって、ふたりの時間がはじまった。




