好きなこと、話してみて
月曜日。
ぼくは、ボールを見つめていた。
赤くて、ちょっと噛みあとがついてて、でもまだ跳ねる。
これが、ぼくの好きなこと。
遊ぶこと。転がすこと。追いかけること。
そして、見てもらうこと。
作戦名:「好きなこと、話してみて」
目的:ぼくの遊びをきっかけに、ふたりが話す。
手段:ボールを転がす。佐和子さんが反応する。修一さんが話す。
結果:ふたりの間に“共通の話題”が生まれる。
火曜日。
ぼくは廊下でボールを転がした。
カタン、コロン。カタン、コロン。
「またかよ…」って修一さんが笑った。
うん、まただよ。だって、好きなんだもん。
水曜日。
修一さんが「パギーって、ほんとボール好きだな」って言った。
ぼくはしっぽを振った。
好きなことって、見てるだけでわかる。
それが、話題になるってことも、あると思う。
木曜日。
ぼくはボールをくわえて、鏡の前に立った。
「お前、見せびらかしてるのか?」って言われた。
うん、そうだよ。見せびらかすよ。だって、見てほしいから。
金曜日。
修一さんが「佐和子さん、犬好きかな…」って言った。
ぼくは耳をピクッと動かした。
好きだよ。だって、ぼくのこと、笑ってくれるから。
土曜日。
風が強かった。
葉っぱが踊ってた。
ぼくはその音を聞きながら、ボールの転がる音を想像してた。
風の音と、ボールの音と、笑い声。
全部が、ちょっとだけ重なる瞬間。
日曜日。
公園の空は、やさしい青だった。
風がふわって吹いて、ぼくの耳をくすぐった。
佐和子さんがいた。
ベンチじゃなくて、立ってた。
白い靴が、ちょっとだけ前に出てた。
ぼくはリードを引っ張った。
修一さんがついてくる。
佐和子さんが「こんにちは」と言った。
修一さんが「こんにちは」と返した。
ぼくはしっぽを振った。準備完了。
そして、ボールを転がす。
コロン、コロン。
佐和子さんの足元へ。
止まった。
佐和子さんがしゃがんだ。
「このボール、好きなの?」
ぼくはしっぽを振った。全力で。
修一さんが「毎日、これで遊んでます」って言った。
佐和子さんが「かわいいですね。うちの子も昔、ボール好きでした」って言った。
修一さんが「そうなんですか?」って言った。
会話が、続いた。
自然に。やさしく。
ぼくはボールをくわえて、もう一度転がした。
コロン、コロン。
ふたりが笑った。
ぼくはしっぽを振った。全力で。
帰り道。
修一さんが「話せたな…自然に」って言った。
ぼくは胸を張った。
うん、話せたよ。ちゃんと、ぼくの好きなことで。
反省点?あるよ。
ボールがちょっと泥だらけだった。
佐和子さんの靴に当たりそうになった。
でも、笑ってくれた。話してくれた。
つまり、作戦は——成功。
次は、最後の作戦。
春の終わりに、はじまりをつくる。
ぼくはパギー。恋の応援団長。
次回作戦名:「春の終わり、はじまりの日」
いくぞ、来週!




