第3話 初任務回らしいですよ
20××年○月×日 1日目・②
少女Aからの説明を終えた彼女達は、お互いに自己紹介を始めた。
輝希満、小雫整乃の2人は特に、周りの少女達をひっぱっていく力があるようで、率先して他の少女達に話しかけにいっていた。今後の動きに注目する必要がありそうだ。
彼女達にはそれぞれ1人1部屋が用意されており、基本的にそこで生活をする模様。
生活を勝手に覗くのは少し躊躇いがあるが、特殊技術を用いて小型カメラを全員の部屋に設置した。生活面でも彼女達を観察していこうと思っている。
輝希満主催の親睦会を通して彼女達は仲を深めたようだったが、一方で少女Aの方においても進展が見られた。どうやら輝希満が少女Aに、「矢糸凛花」と勝手に名付けたようだ。今までの呼び方である「少女A」だと誰の事を指しているのか分かりづらい為、私も彼女を矢糸凛花と呼ぶことにしようと思う。
「さて、今日は初出勤……初任務? の日です」
時は○月△日10:00。準備を一通り終えた少女達は、あのデスゲーム部屋に集まっていた。
「オマエら全員、準備はできたです?」
「うんっ!!」
とびっきりの大声で返事をする満。それに凛花がしかめっ面をしてみせた。
「……」
少しため息をつく凛花。一旦心を落ち着かせ、また話し始めた。
「といってもまあ……メモと支給スマホ、それからその指輪だけ持ってればいいです。くれぐれも、その3つは絶対に無くさないようにしろです」
「了解!!」
またもや大声の満。はなまる満点の笑顔だ。
「……。」
無視を決め込んだ凛花は、また話し始めた。
「それぞれのスマホに、生霊出没地域のマップを送っといたです。チームによって場所は違うです」
少女達は各々スマホを確認した。満達のチームの場所は、どうやらとある中学校らしい。聞いた事の無い名前の中学校だ。
ふむふむ、と頷きながら、満は整乃と結楽の方を見た。2人も場所を確認している様子だ。
「メモにも書いてるけど、再度確認です。オマエらの任務は、『生霊を鎮める事』です。『鎮める』手段は問わず、1.元の肉体に戻す『還元』 2.生霊を説得する『説得』 3.生霊を消滅させる『消滅』 どれでもいいです」
「サー、イエッサー!!」
ビシッ、と敬礼する満。凛花は、もう何も反応しない。
「ねえねえ、満ちゃん」
整乃が急にひそひそ声で、満に話しかけてきた。
「満ちゃん、いつの間に管理者さんと仲良くなったの?」
思いっきり「?」の気持ちを顔に表した満に向かって、整乃は続けた。
「だって満ちゃん、昨日まで管理者さんに対して敬語だったでしょう?」
ああ、と思い出したように、満は話し始めた。
「今朝凛花に、『オマエに敬語で話されると気持ち悪い』って言われたので!」
整乃は少し固まった。そして首を傾げながら尋ねた。
「りんか、って……?」
「あっ、」
説明を忘れていた、しまった。と、満は間髪いれずに説明を始めた。
「名前無いって言ってたから、『管理者』に代わる名前を今朝勝手につけたんです! あ、ちなみに許可取得済みなので!」
「んふぶっ」
少し離れた所で、結楽が吹き出した。すぐに口を指でつまんだせいで変な音が出てしまったようで、恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「……すみませんっ…………」
とても小さくか細い声が、結楽の口から聞こえてきた。満の発言が謎にツボったらしい。満が結楽を間抜けた顔で見つめる。
そんなコントを繰り広げる中、凛花はてくてくとモニター付近へ寄って行き、ガコン、と唐突にモニターを外した。モニターを外した窪みの奥には、何やらレバーのような物がはまっている。
「んじゃ、いってらっしゃいです」
そのまま凛花はレバーに力を入れ、やがて鈍く重い音を立てて奥まで押し込まれた。と同時に、少女達が立っていた地面が消失した。
ただそこには、青が広がっていた。
「え?」
全員同じ発言で、全員同じ体勢から、少女達は真っ逆様に青空へと落ちていった。
「のーーーーーーーーーーんっっ!?」
流々河が特大の叫び声を上げ、1番速く落下していく。それに続きアリス、結楽、整乃、聖無、悠真、満が順に落下していった。
それぞれが叫び声を上げて落ちていく中、満は何も言わず、ただ口を開けていた。
恐怖心は無い。ただ、わくわくしていた。
目の前に広がる景色が眩しくて目を瞑った瞬間、満の意識は地上へと落ちていった。
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「ごめんなさい」
それはあまりにも一瞬だった。吹き荒れる風が、塩水で潤んだ瞳を乾かす。
視界がぐわんと揺れた。真っ黒で、何も見えない。何も観たくない。
僕の淡い恋心は、その一言だけで砕け散ったのだ。
「あっ……あ、なん、ごめん、……なさ」
「そういう所ですよ」
僕はびくんと体を震わせた。彼女の一言一言が、矢のように突き刺さる。痛い。
「私、気の弱い人は嫌いなんです」
そのまま彼女は、僕に背を向けてしまった。「どこに行くの?」そんな事、聞けるはずはないけれど、僕は無意識に彼女に手を伸ばした。
そして、ぽつり。彼女は、僕が最も聞きたく無い言葉を放った。
「さようなら。二度と話しかけないでください」
どくん。その瞬間は、心臓が一瞬無くなったみたいだった。心が、どす黒く染まっていく。
あの言葉は、僕にくれた、あの1番嬉しかったあの言葉はーー嘘だったのか? だって彼女は、僕の事、……助けて、くれて、それでーー。
僕はただ空気をかいていた。手だけもがいて、足は全然動かない。待って。行かないで。
まだ、まだやり直せる? 何がだめだったの? ちゃんと直すから……!
「放っておけない」
彼女が過去に放った言葉が、ずっと頭にこだましていたんだ。朝起きた時も、寝る前も、ご飯食べてる時も授業中も説教中も彼女と話している時も……!
「許さない」。その気持ちだけが頭の中を支配した時、僕はふと、力が抜けたように気を失った。地下に、校舎裏の地面に、空に、僕の頭を支配した真っ黒なモノが、広がっていった気がした。
ー ー ー ー ー
輝希、命川、小雫チーム鎮圧対象①
氏名:不明
年齢:不明だが中学生の可能性大
性別:男
目撃場所:翔上中学校グラウンド
発生場所:翔上中学校敷地内
目撃日:少なくとも発生後1週間以内
発生日:不明
発生原因:過度の憎悪
推奨鎮圧方法:再起不能化
要項:本体は不明の為、まずは本体の特定を優先せよ。また生霊は対話不可であり、過度の憎悪により人語理解不能である。還元は過度な憎悪が原因の場合、本体への負担が非常に大きい為、今回は禁止とする。
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「おはよー」
「もうテスト2週間前かあ……」
「今日の風紀アイツかよ、だりー」
「朝練ガンバ〜」
何気ない学生達の会話が聞こえる。少し懐かしいその会話に耳を澄ましながら、満は目を覚ました。
「うー……ん?」
手をついて、上体を起こしてみる。ついた手に少しくすぐったさを感じた。
おそらく、今満達がいるのは、中学校敷地内の中庭らしい。ちょうどの場所に植えられた大樹に、3人とも着陸したようだった。
かなり高い所から落ちたにしては全然痛くないなあ、と満は思った。デスゲーム部屋の壁をすり抜けたみたいに、何か不思議な力でも働いているのだろうか。
「あれ……あ、満ちゃん」
整乃が目を覚ました。片足が、生い茂る葉の中に隠れている。
「……おはよう、ございます」
満よりも先に起きていた結楽。静かすぎて気が付けなかった。
とりあえず大樹の上から降りようということで、数mの高さから飛び降りた満。
減速しながら、ふわっと着地。なるほど、幽霊だから微妙に浮いているのか、と思う。
そして通り過ぎていく中学生達。配布されたメモに書いてあった通り、満達の姿は誰にも見えないようだ。
「みんなも、早く降りましょ!」
そんな事を言いながら、大樹の上部に向かって手を振ろうとした時。
「きゃあああぁぁぁっ!?」
耳をつんざくような、女性の悲鳴が聴こえた。
満の心臓が音を立ててばくばくと鳴る。生霊が現れたんだ。本能で感じた。
「満ちゃん、結楽ちゃん」
気付けば整乃と結楽が隣に立っていた。整乃の厳かな顔を、満は今初めて見た。
「はい、行きましょうっ!!」
満と整乃、結楽は地面を蹴り、校庭に向かって走り出した。
焦りと不安と興味で、満の心臓の音は鳴り止まない。
こんなに全力で走っているけれど、一向に疲れる気配が無い。
(ああ、やっぱり私って、死んだんだな)
満は初めて、そう実感した。急に死んだとか、人殺ししたとか、そりゃあ戸惑いはしたが、今まで実感という実感は湧いていなかった。
走りながら、拳を強く握る。ふと、クラスメイト達の顔が浮かんだが、すぐに消えていった。過去の事なんて、今はどうだっていい。今、なんとかしなきゃいけないのはーー。
前を向いて、真っ直ぐに走り続ける。
砂埃の舞う校庭に、ゆらゆらと揺れる、大きな影が見えた。
みなさんこんにちは、病夢歌音です。
「嗚呼、在りにくしこの世界!」第3話は、如何でしたでしょうか。
今回は初任務回・前半です。
このお話を執筆するにあたって、すごーく、かなーり、悩みました。少年の恋心と愛憎のような感情を表現するのが特に難しかったですね……。
そして今回は、かなり詰め詰めスケジュールの中で完成させまして、投稿時間がずいぶんと遅くなってしまいました……。すみません……。本当は、朝6時に投稿するつもりでした。ですが、朝寝坊をしてしまい、後書きを書く時間が全く無く、そのままバタバタと家を出て、学校から帰ってきてやっと投稿できました……。
次の第4話も初任務回で、今度は中半となります。次回はバトル多めになると思いますが、バトルシーンを書くのがすごく苦手なので上手く書けるかは分かりませんが……。ベストを尽くします……!
ということでみなさん、お次は第4話か、活動報告でお会いしましょう。
これからも病夢歌音と「嗚呼、在りにくしこの世界!」を、よろしくお願いします。




