第2話 今回はちゃんとみんな喋ります
20××年○月×日 1日目・①
私はこれから、彼女達の動向について、観察日記をつける事にした。
「彼女達」とは、輝希満、命川結楽、小雫整乃、神白聖無、豪城アリス、天子悠真、識流々河の7人の事である。彼女達は、私達の計画において要注意人物だ。
さらに、彼女達の管理者(以下少女Aとする)についても、注意が必要である。少女Aについての情報があまりにも少なすぎる為、今後少しずつ彼女の事を調べていく必要がありそうだ。
彼女達は、前世で人殺しという重い罪を犯し、ある事情ですぐに亡くなった幽霊である。「ある事情」というのは、私にもまだ分からないが……そのうち分かるだろう。
そして彼女達に与えられたミッションは、現在、ここ日本で暴れている生霊を沈める事。
正直彼女達にできるとは思わないが……これからも観察を進めていこうと思う。
かつてこれ程までに動揺した事はあっただろうか。満は、どうしても気分が落ち着かなかった。
腕を組み、いろいろと考えてみる。頭の中で思考を整理していたら、何だか少し落ち着いてきた気がする。ふっと、ため息をついた。
「あの、ちょっといいかな?」
後ろから声がして、満は振り向いた。見ると、先ほどお世話になった黄緑髪の少女が、こちらを見つめ、柔らかく微笑んでいる。
黄緑髪の少女は、片目を隠しお団子ヘアー。前髪をカラフルなピン2つでとめている。服装はどこか制服っぽく、THE・優等生な雰囲気を纏っている。
「はいっ!」
満は元気よくお返事した。
「わ、元気でいいね!」
黄緑髪の少女はにこやかに笑った後、ぺこりとお辞儀をした。
「自己紹介、まだだったよね。私の名前は、小雫整乃。18歳だよ。これからよろしくね!」
小雫整乃。珍しい名前だな、と満は思った。といっても、輝希満の方が珍しい気もするが。
「輝希満、15歳です! こちらこそ、これからよろしくお願いします!」
満は手を差し出した。その手を整乃が受け取る。
「満ちゃん、でいいかな?」
こくこくと頷き、満は同意を示す。
「さっき、管理者さんが2、3人でグループを作れ、って言ってたよね。……もしよかっ」
「もちろんです!」
即答した。また最後まで話を聞かずに。
おそらく整乃は、「もしよかったら私とグループを組んでほしい」といった内容の事を言いたかったのであろう。
「良かった……。ありがとう!」
整乃はまたにっこりと微笑んだ。笑顔が素敵だなあ、と満は思う。整乃の笑顔には不思議な中毒性があるようで、ずっと見ていたくなってしまう。
それから、整乃は周りで喋っている少女達を見回した。
2人ペアで話をしているかたまりが2つと……ぽつんと1人、部屋の隅に体育座りで座っている少女。
「あの子……」
整乃は少し考えた後、満に向かって手招きをして、座っている少女の方へと歩き出した。満もそれに合わせてついていく。
整乃は部屋の隅に座っているピンク髪の少女の近くにしゃがみ、声をかけた。
「初めまして、私は小雫整乃、18歳だよ。あなたの名前を聞いても、いいかな?」
「え、あ……、えっ……と」
ピンク髪の少女は、バッ、と立ち上がった。おどおどしながら、なんとか声を絞り出している。
ピンク髪の少女は、下の方でくくったゆるゆる2つ結びで、頭に白いリボンを付けている。服装もふわふわで、まろ眉猫口の可愛らしい顔にとても似合っている。
「め、命川……、命川結楽、17歳です……」
結楽は手をもぎもぎしながら、満の方をちらっと見た。
はっ、とした満は、結楽の方を見て笑顔を見せた。
「私は輝希満で、15歳です!これからよろしくお願いします!」
満は、整乃の時と同じように手を出し、握手を求めた。しかし、結楽は手を取らず、びくっと固まってしまった。「えっ……」と言って、それきり動かない。
「え、と、……何ですか、これ……?」
満は首を傾げた。もしやこの子、握手とは何かを知らない……? と。
「握手です! 社交辞令(?)的な! 手を繋ぐんですよ!」
結楽は差し出された手をじっと見つめた。
「あく、しゅ」
ぽつりと呟いた後、結楽は差し出されたままの手をまじまじと見つめ、やがて、おそるおそる手を出してきた。
やはりこの子、握手を知らないのか。そんな16歳、いるのだろうか。社会経験があまり無いのか。
「これからよろしくっ!」
知ろうが知らまいがそんなのお構いなしに、満は結楽の手をガシッと掴み、ぶんぶんと振った。
「あ…… あわ、わ……」
結楽は目をぐるぐると回し、また固まってしまった。その間に整乃が困り顔で割り込む。
「一旦放してあげて、満ちゃん……」
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その後、満が結楽をグループに誘ったのと同じタイミングで管理者が戻って来た。
「はいはい、今からメモ配るですー」
管理者は、それぞれグループごとで固まっている少女達へと、手際良くメモを配布していく。
少女達はメモをそれぞれ確認していき、話をしたり、配布された鉛筆でさらに何かを書き込んだりしている。
「とりあえずまあ、今日は色々整理する時間にするです。こっちの方で部屋を用意してるから、そこで休んどけです」
管理者は「こっちです」と言って壁をすり抜けていった。
少女達は、ぽかんと顔を見合わせた。これは「壁をすり抜けてこっちに来い」、という事だろうか。
「私達って、果たして壁をすり抜けられるのだろうか?」といいたげな雰囲気が流れる。だが誰もそれを言わない。会ったばかりにも関わらず目と目で会話をしている。
「私、試してみますね!」
そんな雰囲気を打ち壊し真っ先に提案したのは、皆さんご存知、満だ。謎に遠い所から助走をつけ、謎に速く走り、壁に突っ込んでいく。
「よっしょい!」
目をかっぴらいたまま、勢い良く壁に突っ込んで行った満は、なんと、そのまま壁をすり抜けていった。
「いけた! いけましたー!」
コンクリートを貫通する程の大きな声で叫ぶ満。
とりあえず壁をすり抜けられる事が分かったので、少女達は満に続き、壁をすり抜けていく。壁をすり抜けるなんてもちろん初めての事で、なんだか変な感触だった。壁の感覚はあるのにないような、少し気持ち悪いような。うまく言葉にできない。
「お、来たです。ちゃんと全員いるです?」
遠足の引率の先生みたいな発言をした後、管理者はまた部屋に向かいてくてくと歩き出した。
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辿り着いた部屋は個室で、広さは一般的な子供部屋くらいだった。少女達のイメージカラーやイメージデザインを模していて、とてもおしゃれだ。
例えば満の部屋は黄成分多めで、星デザインの家具が置かれている。
やがて細かい説明を終え自由時間を迎えた少女達は、一旦満の部屋に集まって、ちょっとした親睦会のようなものを行っていた。
「私は輝希満です! 15歳の、高校1年生です! なんかまだよく状況がわかってないけど、これからよろしくお願いします!!」
満が元気良く挨拶をすると、数人の少女が手をぱちぱちと鳴らしてくれた。
「時計回り……、ですよね。……えっと、わ、わたしは、命川結楽、です。17歳……です」
結楽がぺこりと頭を下げた後、整乃が手を挙げた。
「次は私ですね。私は小雫整乃で、18歳です。高校には行ってないんですけど、一応年代的には高校3年生ですね。」
相変わらず笑顔を絶やさない整乃に対し尊敬の眼差しを向ける満。
それから、目を覚ました時からずっと喋らずにこにこと話を聞いていた白髪の少女が自己紹介を始めた。
「神白聖奈と申します。神様により命を授かってから19年です、……こうやって私達が出会えたのも、神様のお恵みのお陰ですね……」
そう言って聖無は手を組み、恍惚とした表情で天を見上げた。
「……あんまり関わらない方がいいかも?」
聖無から目を逸らし、青髪の少女が茶化した。
「今流行りの電波系女子ってやつですかね!?」
「いや違うだろ」
微塵の悪意も無い発言をする満に、赤髪の少女が冷静につっこんだ。
というか、電波系女子は今流行りなのだろうか。
「ああ、次は自分か……。自分は豪城アリス、15の高1な」
赤髪の少女、アリスが自己紹介すると、結楽がびくっと体を震わせた。アリスがヤンキー風口調だったためだろうか、少し怖がっているように見える。
アリスの自己紹介が終わったとみて、黒髪の少女が口を動かし始めた。
「……」
何かを言おうとしたアリスは、黒髪の少女の顔を見て止めた。
「……ああね、やぅ、ま!」
ぽかんとする少女達の顔を見て、顔を真っ赤にして口をもごもごさせる黒髪の少女。
「あま、あまね、ゆうま!!」
ゆうま、と名乗った少女はアリスに笑顔を向けた。それにつられてアリスもつい笑顔を見せてしまう。
「悠真は生まれつき耳が聞こえねえんだ。自分には耳が聞こえねえ妹がいたから、手話はできる」
アリスが説明した。
悠真が最初名前を言おうとした時アリスが補助しなかったのは、名前くらいは悠真自身が言いたいのだと察したからだろう。結楽は少しアリスに対する緊張が解けたようだった。
「あたしは識流々河、14。中学3年生だから……一応、あんたらより年下になるって事?」
少し態度悪めの青髪の少女、流々河が自己紹介した。先程からずっと脚を組んでのびのびとしている。会ったばかりの年上の先輩の部屋で。
自己紹介を終えた少女達は、他愛もない会話をして夜を迎えた後、それぞれの部屋へ戻っていった。
「整乃さん、結楽さん、また明日!」
満が2人に挨拶をすると部屋を出ようとしていた整乃と結楽が振り向いた。
「ふふ、おやすみ、満ちゃん、また明日ね!」
「おやすみなさい……満、さん」
2人が部屋を出ていって数秒後、満は走ってベッドにダイブした。色々あって相当疲れていたのか、そのまま寝込んでしまった。
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ギャリリリリリリリリリリリ!!
ジリリリリリリリリリリリリ!!
満の部屋に、目覚まし時計のけたたましすぎる爆音アラームが鳴り響いた。まだ少しうとうとしたままアラームを止めた満は、部屋を出て、全員共通の洗面所へ向かった。
ドアノブに手をかけ、ガチャリとドアを開ける。
洗面所内には、おそらく掃除を行なっているのであろう、管理者の姿があった。
「ん……あ、おはようございますです」
「おはようございます!!」
「声でけーです」
すっかり目の覚めた満は、「あ! そうだ!」と、ある事を思い出した。
「ねえ、管理者さんって、名前無いんだっけ?」
突然の質問に、管理者は少しだけ固まった。
「めっちゃ唐突です。名前、まあ無いというか、覚えて無いというべきかです」
満は首を傾げた。覚えてないとはどういう事だ?……と。
「私は多分幽霊、なんです。けど生前の記憶が無いもので、私を拾った人は変な名前ばっか提案してくるしで、新しく決めようにも決められない状況です」
すると、満の顔がぱあっと輝いた。
「じゃあじゃあ、私が名付け親になりましょうか! 昨日から、なんかもう勝手に名前付けて呼んじゃおっかなーって、考えてて!」
突然の提案にぎょっとする管理者。ちょっとだけ過去を匂わせてシリアスな話をしたのに、気まずくなりそうな雰囲気の欠片も無い。
管理者は少し考えた。
「まあ、好きにしろです」
「!!」
その言葉を聞いた満は、どこから取り出したのか、スケッチブックの1ページ目を開いて管理者に見せた。
そこにはでかでかと、
”矢糸凛花”
の文字が書かれていた。
その文字をまじまじと見つめた管理者は、少し眉をひそめて言った。
「悪かないと思ったけど、今気付いたです。ただ『かんりしや』の文字を逆さにしただけです」
「あはは、バレた……。 でも、悪かない、ですよね!?」
図星をついたのに、懲りずにぐいぐいと迫ってくる満に少し後退りする管理者。少しため息をついた管理者は、頭に被っている帽子を少し直して言った。
「まー、別にいいです、それで。凛花、か。分かったです。今日から私は凛花って事で」
満はまた顔を輝かせた。
「やった! 良かった〜!!」
「朝からうるせーです」
―こうして、満、結楽、整乃、聖無、アリス、悠真、流々河、そして凛花の8人の、不思議で未知数な、新たな生活が始まった。
幼い年齢では無いとはいえ、まだ子供である少女達は、これから過酷なミッションをこなしていかなければならない。
この先どんなに辛い試練が待っているのか、少女達は、まだ知らない。
みなさんこんにちは、病夢歌音です。
「嗚呼、在りにくしこの世界!」第2話は、いかがでしたでしょうか。
今回のお話は、何が何でも全員喋らせたくて前回よりも文字数が2000文字くらい増えてしまったのですが、次からは3〜4000文字代で固定していこうかなと思います。ただ物語が進んでいくとこれよりもっと1話1話が長くなる可能性が……。嗚呼……。
活動報告にてお知らせした通り、今回の投稿から投稿日を毎月18日に固定させていただきます。詳しくは活動報告の方から、です。
そして今日は、私の誕生日ですね。Happy Birthday to me,おめでとう、自分。




