失恋
「あっ」
墓参りの日。
私は自分より先に墓で手を合わせているあなたを見つけた。
少し迷った後に私は声をかける。
「や。もう居たんだ」
するとあなたは手を合わせるのを止めて微笑む。
「あぁ。ついさっき」
「声をかけてくれれば良かったのに……」
少し迷った後に私は付け加える。
「義兄さん」
あなたは僅かな停滞の後に頷いた。
「ごめん」
「はいはい。少しだけ待ってくれる? 私も挨拶するから。母さんに」
「分かった」
そう言って私は墓の前で手を合わせる。
一年に一度の行事。
病があったのに無理をして働き若くして亡くなった母への挨拶と報告。
『ごめん。母さん。私、まだ……』
報告が済む前にあなたが言った。
「まだここに居て良いか?」
「どうして?」
声が自分でも驚くほどに冷たかった。
だけど、あなたは気にした様子もない。
「義母さんともう少し話したい」
「……嫌だなんて言えないじゃん」
「ごめんな」
そう言ってあなたは私の隣で手を合わせる。
分かっているよ。
きっと、あなたも私と同じで色んな気持ちを持っているって。
少しの間、二人で無言になる。
あなたが母に何を伝えているのか考えないようにしているのに、私の心はどうしてもそちらの方へと引っ張られてしまう。
だから。
だから、私はあなたの邪魔をする。
「死人と結婚は出来ないよ」
子供染みた嫌がらせだ。
「そうだな」
それでもあなたは返事をしてくれた。
「馬鹿じゃないの? 毎年毎年。母さんも呆れているよ。絶対」
あなたは返事をしなかった。
苦々しく蘇る過去の思い出。
あなたは私の従兄だった。
六つも年上のあなたに私は憧れていた。
私の家とあなたの家の交流はかなり盛んで、夏休みには一緒によく旅行に行くほどだった。
忘れもしない。
私が七つであなたが十三歳になったばかりの頃。
私達は事故に遭い、私は父そしてあなたは両親を失った。
一人呆然とするあなたを母は引き取った。
母とあなたと私の三人家族はどうにか支え合いながら生きてきたのだ。
私が十三歳になった時、私はあなたに告白をした。
ずっと憧れていた気持ちを今更家族愛に変えることなんて出来なかったから。
だけど、あなたは断った。
『ごめんね。好きな人が居るから』
家族だからではない。
好きな人が居るから、と。
その言葉にほっとしたのを覚えている。
だって、それならまだチャンスがあると思ったから。
「義兄さん」
「なんだ?」
線香の香りが過去を打ち消す。
けれど、未練はやっぱり打ち消してくれない。
「まだ母さんのこと好きなんだ」
あなたは無言だった。
それが答えだと知っていた。
「母さんを自分の女にしたくて仕方なかったんでしょ?」
自分が傷つく言葉をあえて使う。
こんな男にいつまでも縋っている自分を笑うため、わざと自分から傷をつけていく。
「母さんの昔の写真見たことある? 私にそっくりだよ?」
あなたは答えない。
「私さ。今でも義兄さんのこと好きだよ」
目を開きあなたの方を向くとあなたは寂しげな表情で首を振った。
それだけで十分だった。
「先に帰る。積もる話もあるだろう?」
「そうね。気をつけて帰ってね」
今年も自分でつけた傷は致命傷には至らない。
だけど、決して細やかな傷ではない。
きっと来年も疼くだろうと思った。
線香はもう消えていたけれど、香は仄かに漂い続けた。




