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「今の限りの幸せを」



 立夏を迎え、山は木々の盛りだった。新緑が豊かな広がりを見せている。

 手入れの届かない影の中を、あなたは躊躇いもなく進んでいく。

 そう遠くへは行けないと、私はあなたの歩みを見つめた。

 あなたのくるぶしを隠すほど、大いに茂ったその内から、あなたは一つの蔓を掴み、それを引き抜こうとする。

 あなたの未熟な力では、葉をむしることしかできず、あなたは葉を手に身を起こした。

 あなたは葉を見つめ、弄んで匂いを嗅いだ。

 鼻の穴が大きく開き、眉間には皺をよせ、口を歪ませた。不快が顔の中央から一面に広がったように見えた。

 あなたは私の元へ駆け寄り、どくだみを握った手を私に差し出した。小さな手には力が込められている。

 私がカバンからリンゴジュースを取り出すと、あなたはどくだみを放して飲み始める。

 満足して、あなたは手の匂いを嗅いだ。ウェットティッシュで拭いてやるとあなたは日向へ駆けていく。

 その姿を見るがはやいか、言いようのない不安が私を占めた。かつては扱えた語彙を失って、感情の輪郭が朧だった。

 いずれは私の元に駆け寄ることもせず、先へ先へと進んでいくのだろうか。まだ人馴れしていないあなたがこれから。

 平日の昼、広い公園に人は少ない。

 あなたはゆっくりと私の元に戻ってきた。髪を流すと額に汗をかいていた。

 あなたがまだ生まれたばかりの頃、あなたの髪はブロンドやシルバーが混じっていた。色素が安定し始めて、黒く染まり始めた髪の中には今でもその名残がある。

 私があなたを抱えると、あなたは大きくあくびをした。その吐息の奥に、微かに果実の香りがする。

 側を小川が流れる道を歩いた。水底に影もなく、わずかな澱みも認めないほど、清流は澄み渡っている。

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