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8 裏切り

街道の外れ、裏道を歩くこと少し。目的の畑は、意外にも住宅街のすぐ裏にあった。

その眺めは………まさに、壮観と言ったところだろうか。


「なるほど………“大陸の畑”と言われるわけですね。見渡す限り、ここにあるのは畑…ですか。絶景ですね。」


コールは圧巻され、思わずそう漏らしていた。


「そうだね。いやぁ―、アテレーゼ商会が持っている畑全てを合わせても、ここには及ばないなァ。」

「何を言ってるんですか………。それよりも………やっぱり変ですね。」

「………そうだね。“大陸の畑”という二つ名は、その壮大な穀物畑から来ているはずなんだけど…。」


辺り一面を埋め尽くす畑。そこに植わっている作物は、殆どが穀物ではなかった。収穫期を迎えているとは言え、流石にこれは………少なすぎる。“魔力矯正剤”のマイナス効果は、ここまで大きいか…。

………すると、向こうの方から誰かが歩いてくるのが見えた。


「あれは………農家の方でしょうか。」

「………話を聞いてみるか。」


歩いてきたのは………わら編みの帽子を被った、女性。体力が必要となる仕事に就くとは、中々強い人らしいね。


「いやァ、立派な畑ですねェ。」


あっはは、と笑いかける。しかし、彼女はそれに微笑んで返したが、なんとも…。


「初めてですか。拝見するに………商人の方、ですよね。」


思わず、眉が動いてしまう。彼女の視線は、僕の帽子に向いていた。


「………何故お分かりに?」

「あなたの………その帽子についたバッジ。それって………公商紋章(トレーダークレスト)ですよね。」

「なるほど、これをご存じでしたか。」


帽子を外し、バッジを改めて掲げて見せる。


「ええ。………嫌になるほど、ね。」


それを見て、彼女の顔はより一層険しくなった。


「それって………まさか、ジャールのことでしょうかね?」

「何故その名をっ………? やはり、フーロン商会の人間ですかっ!!」


彼女は近くに置いてあった鍬を手に取り、構える。


「ちょ、ちょっと待ってください! 違いますよ、ぼ、僕はっ!」

「悪人に見えるかもしれませんが、フーロン商会とは何の関係もありませんっ! ほら、こちらをっ!」


コールが良いところで、手帳に挟んであった商業登録証を示す。


「………アテレーゼ商会、クラム・アテレーゼ…。」


手帳と僕の顔を、何度も見比べる。二ヒッと、笑ってみせた。


「この通り、この手帳に貼ってある写顔紙(しゃがんし)は僕のものです。これでどうでしょう?」


僕がフーロン商会の人間でないと分かると、ほっと胸をなでおろすとともに、慌てて頭を下げた。


「もっ、申し訳ありませんでしたっ! 見ず知らずの方に無礼なことを………。」

「気にしないでくださいよ、ほら………頭を上げて。」


さり気なく僕を悪人面だと言ったコーちゃんの方が、ヒドイからね…。そういった視線を送るも、コールは我関せずの表情だった。

女性は帽子を取って、再び頭を下げた。


「私は、この辺りの畑を管理している…セリと申します。」

「申し遅れました。私は、商会長の秘書をしている、コールです。」


コールも、同じようにペコリと頭を下げた。


「ご丁寧にどうも………。それで、この畑は………。」


視線を移す。セリと同じように、わら編みの帽子を被った人々が作業していた。しかし、彼らの大多数が刈っていたのは………穀物ではなかった。


「………数年前まで、この辺りの畑は…領主であるゼイウェン様直々に治められていました。」

「ゼイウェン………。」


その名を聞いて、コールが微かにそう反芻した。


「ゼイウェン様が治められていた時には、それはもう美しき黄金の絨毯と呼ばれる程の、沢山の穀物が収穫できました。」


セリは畑に一歩、歩みを進める。


「ある日………ジャールと名乗る男が現れ、こう言いました。『私は、ゼイウェン様から打診され、この土地の管理を引き継ぐことになった。』と。フーロン商会自体が畑に直接手を入れるようなことはしない。そうも言いました。」


畑から、人々が一生懸命に働く音が、こちらにまで聞こえてくる。


「彼が宣言した通り、畑で働く私たちに口を出したり、その畑に手を入れることはありませんでした。私たちも、ゼイウェン様が仰られたことだからと、受け入れた。私たちもフーロン商会から農業用の道具を買っていたために、ある程度の信頼関係はありましたからね。………ところが。」


ギッと、音が聞こえてくるほどに、力強く歯を食いしばる。


「彼らは………私を………私たちを裏切ったっ…!!」

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