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17 開拓の理由

「………なんだって? エーナが……アテレーゼ商会に……!?」


部下の男の発言で、ジャールの顔色はみるみる青くなる。


(何故だ……。まさか、()()()が………?)

「イース、まさかとは思うが……。」


イースと呼ばれた部下の男は、首を軽く横に振る。


「いえ、“呪い”は解かれておりません。この目で、確認致しました。」


そう言うイースの左目に自身の手を当てると、淡い緑色の光が宿る。


「そうか。ならいい……。」


ふぅ……と小さなため息をつくと、ジャールはソファに腰を下ろす。


(しかし………。だとすると、何故エーナはクラムのところへ行ったのか。奴がその身の上話をしたところで、解決できるとは思えんが……。)


ふっと、乾いた笑いが出てくる。


「上辺だけを見ている限り、奴らに勝ち目はないわ。」



僕たちは場所を移し、エルガの家へと訪れていた。


「……居ないわ。遠くへ行ってしまったみたい。」


そう、少し息を切らしながら話す婦人。

出奔したセリを探すために、僕たちは畑の周辺をしばらく探していた。

しかし…………見つからなかった。

何処へ行ってしまったのだろう。戻ってきてくれると嬉しいが……彼女の心境を考えれば、致し方ない。


「どうぞ、お座りください。」


僕、コール、婦人は、エルガが用意してくれた椅子に腰掛け、それぞれ出されたお茶を飲む。しかし…エーナだけは、座らず、立ったままであった。それを見かねたエルガは、椅子を指しつつ言った。


「エーナさん………。立っておられるのも大変でしょう……。どうか…。」

「いえ……。私のことは、気にしないでください。」


無理したことがすぐに分かってしまうような笑顔で、エルガにそう返した。少し間をおき、エルガは僕らと反対側の椅子に腰を下ろした。しばしの間、沈黙が場を支配する。壁に掛けられた時計の針の音が、はっきりと感じとれた。カップを机に置き、僕から切り出す。


「エルガさん……、一つ、お尋ねしたいことが……。」

「なんでも聞いてくれ。」


エーナの方にちらりと目をやりつつ、両肘を机の上に立て、両手を口元で組み、エルガと向かい合う。


「フーロン商会…………いや、エーナと皆さんは、どのような関係なのでしょうか。」

「どのような…………関係?」

「いや、皆さんの様子を見ていると………。」


姿勢を崩し、両手を膝につけ、寄りかかる。


「随分と、深い信頼があるんだな~、と思ってね。」


信頼、という単語に若干驚く様子を見せつつも、エルガは一口お茶を含んだ。


「………なに、簡単なことさ。実はな………。この土地を開拓するきっかけを作ってくださったのは………エーナさんだったんだ。」

「エーナが? 前領主様が、畑へと変えたのでは?」


その問いに、エルガは少しだけ否定するそぶりを見せる。


「確かに、主導してくださったのはゼイウェン様だ。だが、そのゼイウェン様の心を動かしたのが……エーナさんだった。」


そう言うと、エルガは笑顔をエーナに向けた。彼女は、少し複雑な表情を浮かべる。

…なるほど。


「どうして、開拓を決意したの?」


頭の後ろで手を組んでソファーによりかかり、そうエーナに問いかける。少し考えると、遠慮がちに口を開いた。


「クラムさんは………“偏魔力”というものをご存知ですよね。」

「偏魔力ね……。大陸南部の砂漠地帯で見られる現象じゃなかったっけ? 僕も一回だけ生で見たことがあるよ。」


そう返す。コーちゃんは、懐にしまってあった手帳から、南部を訪れた時の記録を引っ張り出す。


「……何らかの原因で大気中に存在するはずの自然魔力が、過密・過疎であるエリアに分かれて水玉模様のように分布する……………ですよね?」

「おおむね、その認識で間違いありません。そして、この偏魔力が生み出す魔力の乱れた波は、周囲の自然環境に影響を及ぼすという大きな欠点がありました。」


軽く頷くと、エーナは懐にしまってあった小さなアクセサリーを取り出す。

電灯の光を浴びて、銀色に鈍く輝くそれは、帝国大学の学位紋章。


「そして私は………ガウル帝国大学にて、この偏魔力の研究をしていました。」

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