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15 エーナの決意

「買いました! …彼女のことをね。」


……………。

…………………………………………。

…………………………………………………………あれ?


「………せいやっ。」

「あてっ!」


コーちゃんにパスンと、頭を叩かれる。


(何、紛らわしいこと言ってるんですか! 場の空気、凍り付いてますよ!)

(あれれ、不発だったか~。)

(不発だったか~……………じゃないですよ! も少し空気を読んでください!)


小声で、コーちゃんから痛烈なダメ出しを食らう。自信あったんだけどなぁ………。


エーナの方からも、冷たい視線を感じる。


「………正確に言いますと、彼女は今、私の商会の人間です。」


そう言い視線を送ると、コーちゃんは鞄からその証明をする旨の書類を取り出し、人々に掲げた。


まあ、このようなジョークを言ったとしても、“公商紋章(トレーダークレスト)”を持つ人間を隷属させることができないのは公然の事実。だからこそ、みんな微妙な反応をしたのだろう。

……………そう、捉えることにする。


すると、婦人は先ほどと変わらない表情で、僕に問いを重ねる。


「……………あなたの下に居るから、彼女を信用しても大丈夫と?」


農家の人々も、それに同調するような反応をする。

ま、普通は納得しないよね。でも………。


「この()()()公商紋章(トレーダークレスト)”。それが示す信用は、婦人もご存知のはずでしょう?」


僕の見せる笑顔に、婦人は少々怪訝な表情を浮かべる。


「どうかしらね。フーロン商会という、()()()()があるから。」


腕組みをして少し考えて、僕は、婦人や人々の方を向く。


「僕のそばにいる限り、噓はつかせません。……………何をしても、ね。」


そう、最大限の笑顔で答える。コーちゃんとエーナは、何故か額に小さく汗を浮かべていた。

婦人は小さくため息をつくと、懐から小さなハンカチを出して額を拭った。


「…まあ、頼んでおいて信用できない、というのはおかしな話よね。」

「……………………………。」


婦人は、エーナの方へと目をやった。彼女は、未だ口を開かずに居た。

そんなミナの様子を悟ったのだろう。彼女を思いを、汲んだのであろう。


「どうして、あなたがこの場所へと戻ってきたのか。私には分からない。だけど………。」


観衆から向けられる視線に、無言を貫く、彼女の決意を。

婦人の拳には、自然に力が入っていた。彼女が伏せる目に浮かぶその思いは、僕にもよく伝わってきた。


()には………この街のために尽くしてくれたあなたへの恩を、仇で返すことはできません。」


婦人は………公としての立場、彼女の中にある心情。どちらとでも捉えることができる返しをしてくれた。

…恩を仇で返すことができない。そう、彼女が口にしてくれたおかげで、僕も大分動きやすくなった。


「…婦人のお気持ち、よく分かりました。しかし………レーヴの民は、どう思っているでしょうね?」


そう言って、意地の悪い笑みを浮かべて、いつの間にか静まり返った民衆を見渡す。一番初めに出てきたおじさんも、何かを言いたいが、しかし躊躇している様子が見える。

………そのおじさんが何か決意し、口を開こうとした瞬間だった。


「ちょっと、待ってくださいっ!!」


一人の女性が、観衆の中から声を上げた。ざわめく観衆を押しのけ、その声の主は僕たちの方へと姿を現した。


「セリ…………さん…………………。」


出てきた女性を見て、エーナはそう呟いた。


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