14 この街が好き
私は、この街が好きだ。
「エーナさん、いつも助かるよぉ~。」
大好きなこの街の、大好きな人々の手助けが出来ればと思い、私はずっと働いてきた。
「ありがとうね、あなたのおかげよ。」
レーヴの街の人々は、私のようなよそ者に対しても、優しく接してくれた。
「あなたが来てから、この街に更に活気が満ちているような気がするわね…。」
レーヴの街の領主もまた、しがない身分でしかない私に対して、たくさんの手助けをしてくださった。
「…ありがとう、この街に来てくれて。」
だから、今の私は……………………皆に合わせる顔など……無い。
◇
うーん………。思っていた数倍は、複雑な感情のようだね。
彼ら農家の命綱とも呼べる、穀物農業。エレッセ王国が“大陸の畑”という二つ名で呼ばれるその所以は、この穀物の生産量がもたらす恩恵からきているのは自明の理。
しかし、彼女……………いや、フーロン商会がその穀物生産の手助けになるという謳い文句で彼らレーヴの民に勧めた“魔力矯正剤”。その正体は、成長を阻害するという、真逆の効果を出すものであった。
彼ら農家が抱く感情は、僕ら素人が察するに余りあるものだろう。彼らがたくさんの年月をかけて、その心血を注いだ命綱を、フーロン商会はいとも簡単に切ってしまった。
彼女………………エーナに対しても、大きな負の感情が芽生えることを想定していた。
だが、結果は違った。
彼らはざわめきこそすれ、暴動を起こす素振りすら見せない。
フーロン商会が起こした不祥事。
それを上回る何かがあることが、彼女に対する彼らの反応から、窺い知ることができた。
しばしの沈黙が流れる。すると、民衆のそばで黙ってみていた婦人が、固い表情を変えないまま、僕たちの方を向いて問いを投げかけた。
「…いったいどういうことかしら、クラムさん。」
「何がでしょう?」
「このレーヴの穀物生産を止めるきっかけを作り出したフーロン商会の人間が、何故その再生産を手助けしているのかしら。」
その婦人の問いに、エーナはピクッと反応する。
彼女の言ったこと。それは、農家もまた考えていることだろう。
彼らの生活を妨げた張本人が、今度はその生活が改善するような取り組みをするなぞ、何か裏があるのだろう。
だが…。
「彼女は今、フーロン商会の人間ではありません。」
そう、彼女に答える。
「……………と、言うと?」
婦人の顔は心なしか先ほどより、険しくなる。
…これ以上ごまかしても、レーヴの街の人々の心象を悪くするだけだ。
真実を、ちゃんと言おう。
僕は、婦人に対して最大限の笑顔を見せる。
「買いました! …彼女のことをね。」




