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14 この街が好き

私は、この街が好きだ。


「エーナさん、いつも助かるよぉ~。」


大好きなこの街の、大好きな人々の手助けが出来ればと思い、私はずっと働いてきた。


「ありがとうね、あなたのおかげよ。」


レーヴの街の人々は、私のようなよそ者に対しても、優しく接してくれた。


「あなたが来てから、この街に更に活気が満ちているような気がするわね…。」


レーヴの街の領主もまた、しがない身分でしかない私に対して、たくさんの手助けをしてくださった。


「…ありがとう、この街に来てくれて。」


だから、今の私は……………………皆に合わせる顔など……無い。



うーん………。思っていた数倍は、複雑な感情のようだね。

彼ら農家の命綱とも呼べる、穀物農業。エレッセ王国が“大陸の畑”という二つ名で呼ばれるその所以は、この穀物の生産量がもたらす恩恵からきているのは自明の理。

しかし、彼女……………いや、フーロン商会がその穀物生産の手助けになるという謳い文句で彼らレーヴの民に勧めた“魔力矯正剤”。その正体は、成長を阻害するという、真逆の効果を出すものであった。


彼ら農家が抱く感情は、僕ら素人が察するに余りあるものだろう。彼らがたくさんの年月をかけて、その心血を注いだ命綱を、フーロン商会はいとも簡単に切ってしまった。

彼女………………エーナに対しても、大きな負の感情が芽生えることを想定していた。


だが、結果は違った。

彼らはざわめきこそすれ、暴動を起こす素振りすら見せない。


フーロン商会が起こした不祥事。

それを上回る()()があることが、彼女に対する彼らの反応から、窺い知ることができた。


しばしの沈黙が流れる。すると、民衆のそばで黙ってみていた婦人が、固い表情を変えないまま、僕たちの方を向いて問いを投げかけた。


「…いったいどういうことかしら、クラムさん。」

「何がでしょう?」

「このレーヴの穀物生産を止めるきっかけを作り出したフーロン商会の人間が、何故その再生産を手助けしているのかしら。」


その婦人の問いに、エーナはピクッと反応する。

彼女の言ったこと。それは、農家もまた考えていることだろう。


彼らの生活を妨げた張本人が、今度はその生活が改善するような取り組みをするなぞ、何か裏があるのだろう。

だが…。


「彼女は今、フーロン商会の人間ではありません。」


そう、彼女に答える。


「……………と、言うと?」


婦人の顔は心なしか先ほどより、険しくなる。

…これ以上ごまかしても、レーヴの街の人々の心象を悪くするだけだ。

真実を、ちゃんと言おう。

僕は、婦人に対して最大限の笑顔を見せる。


「買いました! …彼女のことをね。」

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