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11 尾行されたのは

畑をあとにして数刻。もと来た道を戻って行くと、レーヴの街はすっかり夕焼けの光に照らされ、小暮れていた。その日に照らされ、僕の頭の中は沢山のものがグルグルと回っていた。


「……灯台下暗し、か。」

「…どうしたんですか、突然。」

「いや……何だか、気が抜けちゃってね。」


コールが、疑問符を浮かべた顔になる。気づかないのもしょうがないか。あの婦人は、なかなかの曲者だからね。一筋縄ではいかない………なんて考えていると。


「………クラムさん。」


辺りに分からないよう、コールが小さく呟き、周りに分からないように小さく手振りする。僕らの他に数人歩いている程度の道。人々が行き交う場所では当然視線が飛び交う。しかし………その向こうから注がれるそれだけは、異様だった。


「やっぱり、気が抜けないかなァ。………あの石壁の向こうだね。」

「広場から、ずっと付けてきています。」

「そうだねェ……。」

「どなたでしょう。」

「有力な商人をつぶすように命じられた暗殺者!……とか?」

「冗談でも変なことをおっしゃらないでください。」


はあ、と小さくため息をつかれてしまった。あれ、不発か。

…まあともかく、ずっと付けられているのも気味が悪い。何とかしなきゃな。


「…あ、そうだ。裏路地に用事があるんだったー。」

「そ、そうでしたねー、急がないと怒られてしまいますよー!」


流石コーちゃん、素晴らしい演技だ。自分で言うのもなんだけど、僕の演技力もまだまだおとろえていないな。これでも、騎士学校時代は“演技派”と呼ばれていたからなあ。同級のヤツらは半笑いだったけど。

そう言いながら、左手に見えてきた露店の陰にある、小さな路地に入る。入る瞬間一瞬視線を向けると、予期せぬ動きだったのか、慌てて動いていたのが見えた。



「…………ッ!」


追っ手は、路地で姿を見失った。さっきまで目の前にいたはずの二人がいない。それに気づいた慌てふためきようは……。


「……あれれ、僕らのことが見えなくなったのがそんなにショックだった?」


そう背後から声をかけると、その人物は反射で後ろに飛びのいた。だが…。


「……逃がしませんよ。」


後ろには、護身用の剣を掲げたコールが、退路を阻んでいた。

追っ手は、顔が分からないようにフードを深く被っており、服装も地味なものだった。しかし……。


「……その靴。君は……。」

「…………!!」


指摘すると、フードから少しだけ見える口が強く閉じられるのが分かった。

なるほど、だとすると…。


「………コーちゃん、同業者だ。」

「えっ…………ということは、商人の方!?」


頭を搔きながらそう頷くと、フードを被った人物は警戒心を少し強めた。


「靴。どんな下っ端であっても、身だしなみには気を付けなければならない。コーちゃんには常々言ってるけど、客は僕たち以上に細かいところを見ている。」


少しづつ、フードを被った人物に近づく。


「…服装に気を遣う人物は、少数。特に王族や貴族、商人だね。」

「でも、身分が高い人達が、わざわざ護衛をつけずに出歩くことはほぼあり得ない。だからこの方は………。」

「………商人、でしょ?」


そう、微笑みかける。暫くの沈黙の後、その人物はフードをゆっくりと外した。光を透かす瞳。バサッと現れる、金色の長髪。それは、丁寧に手入れがされているのだろう、伸ばすと美しく先が広がった。その胸元には、確かに“公商紋章(トレーダークレスト)”がつけられていた。


「……ね? フーロン商会の…エーナさん。」


彼女……ミナは、僕の問いに小さな笑みで返した。

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