10 作られた“大陸の畑”
「領主が……荒れ地を……畑に……………?」
思いもよらない話を聞いて、コールはらしくもないくらいに口を開け、ポカンとしていた。
正直に言おう。僕も、とても驚いている。
エレッセ王国の二つ名、“大陸の畑”。それは、王国全土の六割を占める、穀物の畑が穂をつけるその壮大な景色から呼ばれ始めた。そのエレッセ王国、しかも平地かつ川の側という好立地から、レーヴもまた肥沃な土地だと思っていた。
…なるほど。
だとすると、つじつまが合ってくる。
「……………やってくれたね。」
思わず、口角が上がってしまう。
「……クラムさん?」
だけど、そう考えるとやはり腑に落ちないことがある。
最近生産量が上がってきたこのレーヴを、わざわざ穀物の取れない土地にした理由が見当たらない。
「……コーちゃん。僕らが本当に向き合わなきゃいけない相手は、案外すぐそばにいるかもしれないよ
。」
「……………?」
やはり、あのひとに直接聞くのが一番良いのかな…?
「そろそろ戻らないとね。……あ、そうだ。」
帰る前にもう一つ聞いておかないと。
「…セリさん。今のゼイウェンの領主、何て名前かお尋ねしても?」
そう聞くと、セリさんは訝しげな顔になる。
「…ご存じなかったのですか。」
「すみませんね、勉強不足なもんで…。」
アハハ、と頭をかきながら笑う僕を白い目で見る。
小さくため息をつくと、彼女は僕に告げた。
「……ゼイウェン様亡き後、その仕事を引き継ぐのは本来ならばご子息様です。しかし、ゼイウェン様と婦人の間には、お子様がおられません。そのため、今は婦人が引き継がれています。お名前は…………。」
◇
さっきまで、ずっと考えこんでいた商会長……クラムさん。移動の途中、景色を楽しむ雰囲気を出していたけど……僕には分かる。
その顔に、どこか残った不信感。言葉は違うかもしれないけど、何か違和感があった。
だけど、その違和感は消えた。
彼女が………セリさんが、領主の名前を答えた瞬間、クラムさんの口元が……緩んだ。
「……なるほどねェ。そりゃあ、あいつらもイジワルしたがるわけだ。あーあ、嫌になっちゃうなァ……。」
何かは分からない。だけど、確信した顔だった。