かくれんぼ は、見つかってからが勝負だ
興味を持って読んでいただきありがとうございます。
過去の話をしよう。
あの、憎きエルフたちの里に連れられてきて数日くらいの時だ。
私が人間側のスパイだとか諜報員ではないか、とエルフたちは色々と調査をしたが、結局無関係ということで解体直前で馬すら住んでいない隙間風ビュービューの馬小屋でしばらく放置されていた。
しかし、男手だ。年は食っていても、使えるなら使おうと働かされることになったのだが、
「はあ、お前、魔法使えないの? 嘘だろ」
僕が魔法を使えないという話をエルフたちに説明すると、そのように言われた。生活魔法という飲み水を出したり火種を作ったりすらあの世界ではほぼ全ての人が使える魔法なのだが、その生活魔法すら使えないところを見かねて、エルフの衛兵長であるハクラクという男エルフの、鑑定能力というのか、向いている魔法種別を調べる、という能力で、私を調査した。
別に得意な魔法しか使えないというわけではないが、余程のことがない限り得意な魔法を鍛えた方が効率が良いそうだ。
私は結果をボケーっとしながら待っていると、結果が出た、と衛兵長のハクラクは一緒にいた衛兵に伝えた。衛兵は急に私を蹴り倒し、跨った。
「やはり人間、貴様はスパイだな!」
と言い、地面に私の毛の少なくなった頭を地面に叩きつけた。
何が何だかさっぱりわからなかったが、衛兵が
「口答えするな、本当の目的を吐け! 幻術が得意だとかスパイ目的で里に近づいた以外有り得ないだろ!」
と憤怒して叫んだ。するとハクラクがため息をひとつ吐いた。
「降りろ、お前の勘違いだ。この人間のMPの最大値はゼロだ。別の鑑定で確認済みだ」
衛兵のエルフは顔を真っ赤にして立ち上がり、私を起き上がらせた。
「すまなかった、不幸な行き違いだった」
衛兵はよく見ると身長は150センチメートルくらいのエルフの少女で少し甲冑が身体に対して大きかった。
下手に何か言ったり、思ったりするのはやめよう、もう一度地面にキスすることになりそうだ。
「長からの指示だ、人間の生活の補助と観察をしろ」
衛兵長の指示に衛兵の少女は不満そうに
「生活の補助については了解しましたが、監視じゃなくて、観察ですか?」
といったが、衛兵長から、
「長から逃げ出したり脅威にならないと説明がある。ここを襲おうと考える人間とは全く別物だそうだ」
「だったらなんであの馬小屋に住まわせるんですか? あそこは町の若い子の懲罰目的ぐらいでしか」
「長の前で失礼なことを思ったのだろう。エルフの若い子供がよくやらかす」
と言われていた。ああ、と残念そうな顔を衛兵がして私を見た。なるほど、その仲間意識を感じる表情。同じやらかしをした口だな。
馬小屋の前まで戻ると、衛兵のエルフの少女が
「それで、何かしたいこととかあるの?」
と私に聞いてきた。
そもそも、この馬小屋生活からまともな人の住む建物に住みたいけれど、この世界で下地となるもの、すなわち、
「魔法を使えるようになりたい」
と伝えた。生活魔法と呼ばれた、火種を作る魔法や飲み水程度を出す魔法など、この世界では当然使えると解されている魔法を使えるようにならなければならない。そうしなければ、妻や子供たちに再会する前に死んでしまうだろう。
「MP0だから大変だよ?」
MPとは所謂魔法を行使できるスタミナ、良くゲームで言われるマジックポイントというやつだ。そもそも、魔法のない世界からきた私が魔法を理解すること自体難しいに違いない。
その後、エルフの衛兵少女、エメラダと名乗った彼女に指導されてMPの上昇と魔法訓練をし、私は生活魔法と幻術を覚えたのだ。
***
時は現代に戻る。
紳士淑女諸君セックスレスという言葉はご存知か。
日本性科学会が定めた定義によると、特別な異常がないにも関わらず、カップルの合意した性交あるいはセクシャルコンタクト(キスなどのスキンシップ)が1か月以上ないことを指す。
とあるコンドーム会社の依頼による調査の結果では、日本人の場合、ざっくりとした数字で言うと、20代で約30%、30代で約50%、40代で約60%、50代では約70%の方々がセックスレスに該当しているそうだ。
うちの家庭はありがたいことに、妻とのスキンシップはあるし、夜の営みも当然ある。
当然のごとく今まであった夜の営みが急に消えたら、相手はどう思うか、やはり不審に思うわけです。ましてや単身赴任中の夫側から断られたら何か疑うに決まっている。むしろ、疑う余地しかない。
私は布団の端で妻に幻術を行使し続けていた。
妻が私の部屋にアポなしでやってきて、慌てて私は幻術で姿を誤魔化した。妻に見えているのは40歳のおっさんで、その実態は全裸のピンク色の髪の推定15歳くらいの女子だ。
声は声真似のスキルを覚えていたのでなんとか切り抜けられた。
声真似のスキルは狩りの時に覚えさせられたものだ。鳥や鹿を警戒させないように近づけるテクニックで、指定した者の声真似までできるようになった。
これらの幻術や声真似のスキルで、妻との夜の営みをなんとか切り抜け、家庭崩壊の危機を乗り越えた。
布団の端っこで座りながら魔法を行使し、これはNTRのようでそうじゃない変な気分になる。とても、精神が疲れる。あまりの精神疲労で目の瞳孔が開き切っているような気がする。
翌朝、妻が
「次もまた早く会えないかなぁ」
とまだ寝ている姿の私の幻覚に呟いていた。なんだろう、この虚しさ。早く元のおっさんの姿に戻りたい。
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