美少女おっさんの帰宅
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ゴブリンや動物系モンスターのドロップアイテムの回収を里のみんなで行った。
時々、くっせえええ、と言う声が出てくるのはドロップ品の塊から引き抜かれたゴブリンの腰巻なのだろう。
ダンジョンモンスターは死体の代わりにドロップアイテムが排出される。
ゴブリンの場合は汚い腰巻やボロボロの剣、稀に宝石や小さな魔石がドロップされる。
ダンジョンを攻略、ダンジョンコアを持ち出したり破壊したりすると、ダンジョンに取り込まれていないドロップアイテムはダンジョン出入口から噴出する。
ガラクタみたいな本当にガラクタとか、ガラクタみたいな魔道具みたいなものも噴出されるから本当に不思議である。
それらを仕分け終わったころにはもう夕日が落ちてきた頃だった。
長エリンは、里の中にあるダンジョンを消せた祝いとみんなの働きを労り、エルフの里秘蔵ワインを振る舞う話を進めていた。
ああ、これは祝賀会、つまり、大規模な飲み会というやつだ。
飲み会。
それは、大学生になったころから切っても切れない、周囲のコミュニティから外されないために、お酒を飲んで語らってゲラゲラ品のなく笑い、時には共に泣き、時には殴り合い、親睦を深め合うあれだ。
無礼講という言葉に騙されて、陰茎を上司の頭に乗せてちょんまげなどの他人に迷惑かけまくりの下品な一発芸やると、翌日会社の自分の席が異世界に旅立つのだ。
ちなみに、異性にちょんまげをやると牢屋に転移できる現代魔術に変わる。
お酒の飲み過ぎや、その場の雰囲気に流されるのは飲み会あるあるだが、その後の地獄は身をもって知るハメになる。
そういう意味では、ノリノリになってお酒を注ぎ合う飲み会というものは、参加者同士による全力で社会的な地獄への落とし合いという不毛なモノなのだと思う。
まあ、私もいくつものやらかしを若い頃にしましたし、このエルフの里で一度牢屋にぶち込まれ、もう少しで死刑になるところだった。そういうわけで、自分はお酒はほどほどに、ご一緒する席の人には無理矢理やおだててお酒を飲ませないようにしよう。そうしないとお互い破滅するぜ。
「ところで、スズキ。そなたもワインは飲むのだろう?」
長エリンは、私に、祝賀会に当然出席するよね?、と顔を向けた。
エリンの顔から思い起こされるのは、収穫祭の後の一発芸大会で私が幻術で長の姿になり、長が絶対言わなそうなことシリーズの無礼なモノマネの数々をしたあの日だ。
ハクラクの横でフードを被った長が、私のモノマネを見ながら、冷やしたワインが注がれたジョッキの持ち手を握り潰していた、あの日だ。
エルフたちはお酒が入るといつもの他人行儀が嘘のように、どこかの異世界の冒険者が集う酒場みたいなノリノリな陽気になる。
あの雰囲気に今度のまれたらどうなるか……。ノリでこの美少女姿に調子に乗って裸で踊り出した日には、エリンが私の元いた世界にやってきて妻に離婚するよう説得しにくるかもしれない。
お酒の失敗は二度としない。緑色の紙を全力で回避する!
「ワインは自宅で飲みます」
私がそう言うと、じっと長は私を見つめ、申し訳なさそうな顔をした。
「もうそんなに気にして……いや、そうでしたか。では、ハクラクにでもワインを運ばせよう」
エリンは、きっと、とっくに許していたことかもしれないが、また何かしでかしたらろくなことにならないと思ったのだろう。
その夜、外でエルフがワイワイ騒ぎあっている中、私はホテル馬小屋にてハクラクが持ってきたワインと料理を食べながら、ハクラクと2人で触手と薄い本による世界経済効果について熱く語り合った。見た目がどう見ても美少女と細身のイケメンが2人で夜に語り合う内容ではない。
ハクラクは何度も、触手豊かな日本に行きたい、などと嘆いていた。触手なんて栽培も生息もしてねえよ。
やはり、私たちはお酒が入るとロクなことは考えられなかった。
外でお酒を飲まなくて正解だった。
スッキリと目覚めた。心地よい小鳥のさえずりや木々の葉の揺れる音が聞こえる。
エルフの里のワインは比較的二日酔いをしない。飲み過ぎれば別だろうが。
今日は日本に帰る日だ。
ホテル馬小屋にはしばらく帰ることはないだろうなと思いながら荷物を整理し、部屋を掃除した。
持って帰りたいな、と思った物資とエメラダ用にとハクラクが多めに渡してくれたワインを鞄に詰めた。
長エリンの執務室に入ると、エリンはやはり忙しそうにペンを紙に走らせ、パチパチと音を……タイピングしてる。タイプライターか? タイプライターなんてものよりも、魔力を電力みたいに使った回路とかICチップとか作ってパソコンみたいなものがあったりするのかな、と思ったけれどそうはうまくいかないものなのかもしれない。
「ああ、そうか、もう帰る時間だったな」
エリンは私を一目見て、書類に記入して区切りがついたみたいで、ペンを置いた。
「スズキ、何か欲しい物は無いのか? 大したものではないが、私の持っている魔道具や魔法指導書、金でも渡せるが」
報酬は貰うべきなのだろうが、義理の母に当たるからもらいにくいし、何か欲しい魔法とか便利な道具もないし、金も日本に持って行っても異世界の金を現金化すると悪目立ちしそうだ。
「いえ、こちらのワインを少しもらえたので、それで十分です。妻も久しぶりの故郷の味に喜びます」
「そうか」
エリンが少しつまらなそうに立ち上がりながら、でも孫にもなにか、などと呟いていた。瑞々しい肌の長がそんなことを言うと、とても似合わなくて笑ってしまいそうだ。
孫か……子供たちが喜ぶのは、なんだろうな……うちは親戚が少ないから長が時々来てくれたら、いや忙しくて難しいだろうな。
そういえば、エルフの里はなんというか私の世界の物に似たものが増えたけど、ユーザビリティ、つまるところ、使いやすいものとか、なんとなくで誰でも使えるもの等が少ない。そういうのはやはり、私のところの世界で直接経験しないと難しいのかな。長の力で私の記憶をのぞいただけでは……。
「あ、それでしたら、こんなのはどうですか?」
私は自宅に送り返され、溜まった一週間程度の仕事を脳みそブースト幻術で走破した。区切りがついた頃に、私の部屋に家族が集まった。LINEで家族には無事帰ったことを伝えたが、妻は私の体に怪我がないかと体を念入りに触診し始めた。もちろん、性的な意味ではない。その光景を見ていた娘の由紀は平常運転だねー、と暖かい目で見守り、息子の英智は何かに悟って説法を話すような徳を重ね続けたお坊さんのような雰囲気で、百合は実にいいものだ、と声を漏らした。お父さん、英智のイメージが崩れていくなりよ。
つもる話はご飯を食べながらしようと、手際よく妻が準備をする。前はすき焼きだったからと、ホットプレートでお肉を焼き始めた。油の香りが、壁紙に染み付くんだよな、と思いながら食べる焼肉は罪深い味だ。
食べている最中、妻によく冷えたエルフの里のワインを渡すと、とても懐かしんでいた。
娘は肉を口に放り込みながら、今回の異世界での出来事を教えてと要求してきたので、ダンジョンを攻略した、と伝えると目を輝かせていた。ダンジョンには入り口にしか入らず二酸化炭素責めしたとは言いづらかった。
壁ドンを喰らうか喰らわないかの絶妙な盛り上がりの時、呼び鈴が鳴った。消音魔法かけとけばよかった。
こりゃ、とうとうお隣さんブチ切れたかもしれないと思いながら、おっさん姿の幻術をだそうとしながら玄関に進むと、
「お父さん、俺が出るよ」
と息子の英智が前を歩き始める。本当に息子は男前になったもんだ。百合好きの性癖を持っているけど。お父さん、息子の成長っぶりが見たくなって、来客の対応を息子に任せることにした。もちろん、すぐ代われるように側にはいる。
ドアを開けると、チェック柄のシャツにケミカルウォッシュの水色のジーンズに、黒色のリュックサック、そのリュックサックのサイドの小物入れスペースには巻かれて筒状になったポスターが刺さっていた。平成中期に存在していたザ・オタク系のファッション。
身長は190センチメートルにはギリギリいかないが、英智よりは10センチメートル高いように見える。金髪の髪を後ろに束ねており、目は緑色で宝石の様に輝いていた。
「ハロー、ミスタースズキ、アンドマイスイートシスタースイ、会いたかったヨー。オウ、スイの子か?」
謎の外国人風の発音をする男が、玄関の中に入ってきて、英智に抱きついて背中を叩いた。由紀が、ウホッと面白がっていた。
「に、兄さん? え、本当!?」
ハクラクの声に気づいて、妻が慌ててやってきた。
そして、その格好にドン引きしていた。
「あれ、スズキかラまだ聞いてなイ? 留学だヨ、留学」
報酬は、義兄となるハクラクを10年くらい借りること。借りたら、日本で使われているものを見てもらって実際に使ってみて、それらをエルフの里で生かしてもらう、ということをエリンに話したらすぐに許可が降りた。
なにより、その手があったか、と日本に来たいハクラクが1番喜んでいた。
親戚なんてあんまりいないから、見た目の年齢が若い外国人の伯父さんなんていたら子供は興奮して喜ぶだろうな、と思っていたら、とっても明るいオタクの外国人みたいになってハクラクがやってきた。
スイにはハクラクが来るのは黙ってサプライズした。やっぱり仲の良い血の繋がった兄弟が異世界から来れたならちょっと感動ものじゃないですか。
でもさ、流石にその格好はないだろ。
一気に妻が超面倒くさそうな顔をし始めたじゃん。
サプライズが完全に失敗した感じだ。
「これ、本当に兄さんなの? ねえ、宏さん。あっちの世界で兄さんに何を見せたり教えたの?」
違うんだ、翠。確かに触手もののエロ画像を事故で見せたのだけど、その沼に自らハマったのだよ。それ以降はもう我が道を進んだ結果なのだ。私だって、今ここにハクラクが来てからこんなことになっているのを知ったんだ。そんなにエルフの里は抑圧されていたのかな。
私は遠くを見つめながら怪しい日本語をしゃべりまくるオタクイケメンエルフの前でしばらく立ち尽くすのだった。
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