美少女おっさんの野球男子 終わり
いつも読んでいただきありがとうございます
エルフの里の思い出は、思い出すとろくなことがないな。
まあ、息子の英智の写真でも撮って来よう。
出発前に、美少女姿を消し去る幻術を……と姿見を見つめる。いつ見ても素晴らしい美少女っぷり。ピンク色のボブヘアーとたぬきっぽい童顔の二重まぶたの顔、天然ぽさを強調させ、人畜無害感が感じられる。
そうだ、どうせなら、この美少女姿で応援して頑張ってもらおう。お父さん、息子のヤル気のために一肌脱ぐぞ。
私は前に来た娘の私服に手をかけた。
地下鉄やバスを乗り継いで、長男の英智の通う高校の直近までたどり着く。公共交通機関の中や道路で私をじろじろと見られる視線は、前回みたいに警察官ではない。私の美少女姿に注目する視線だ。
それは仕方ない。
私だって、こんな容姿の子が歩いていたら、通りすがりに気にして見てしまう。
まあ、今はどちらかというと保護者目線で、あの子可愛いね、うちの子もあんな風にお淑やかに出来たら、とか、うちの子もあんな感じに服を着こなしていたらな、みたいな感じだけどね。
「ちょっといいですか?」
おうおう、ナンパか、ナンパなのか? 残念だったな、私は男だ、みたいな気持ちで振り向くと地味な感じの女の子が立っていた。長男の通う高校特有の全国的に数少ないセーラー服に黒いストレートのロングヘアに太めの黒縁メガネ、身長は高校生の女子なら平均くらいで、肉付きは細めだった。
「あの、そのままでいてください」
その子は私の後ろにまわって、腰のあたりの服を引っ張ると、するりと布様の物が落ちて太ももで揺れていた。
「スカートの端が腰のところに入っていたので……でも、もう大丈夫ですよ!」
地味な女の子は不自然なくらい必死になっていた。顔も少し赤かった。多分言いづらい何かを隠している感じだ。
「スカートの中身丸見えでしたか?」
「えっ……と、人によっては……」
周りは私を美少女だから見ていたのではない。
尻のあたりのパンツ丸見え女だったからだ。
くっそおおお!
地味な女の子に、マジですんません、私の娘もあなたみたいに気を使える子だといいのに、などと感謝を言って校舎の中に入っていった。
高校のグラウンドにはサッカー部と野球部の学生が汗を垂らしながら汗をかきながら練習をしていた。
野球部側の方へ近づいて行くと、ランニングやら、シートノック、ティーバッティング、ピッチャーの子がタオルを使ってシャドーピッチングをしているのが見えた。
スライディングや土埃で汚れたユニホームがとても眩しかった。
長男はサードを守っていた。180センチメートルくらいの長身と、細く、しかしガッチリと鍛えられた体がたくましい。そして、他の子とは違う丸坊主のヘアスタイル。今時、丸坊主など珍しい。甲子園に行くようなガチ高校ぐらいしかしない髪型だと思う。他の子は短くてもスポーツ刈りとかソフトモヒカンとか短めのオサレツーブロックばっかりだ。
時代も変わったもんだ。寛容になって髪をいじっても文句を言われにくくなったとか。だいたい、髪で遊ばないだなんてもったいないことなのだよ。特に男性諸君、半分以上がハゲるんだぞ。女性だって禿げる人がいるんだぞ。髪のある時期に好きにさせないようにとか、拷問よりも酷い所業だ。髪のある若い時期に丸坊主にさせるとか、上層部にいるハゲのひがみでしかない。許されない悪の所業だ。悔い改めた方がいい。そう、丸坊主を強要された時代の薄らハゲになり始めたおっさんは思うのですよ。まあ、今は毛根の悩み無用の美少女だけど。
そんな時代の、真逆の髪型をしているうちの長男坊が、ピッチャーが投げた球を打つ場所であるバッティングボックスに入った。
練習内容がいつの間にか変わっていて、フリーバッティングという、同じチーム内のピッチャーが球を投げて打者が打つ練習をしていた。
英智は長打も打つが、手堅いヒット性のある当たりのスイングをすることが多い。
今日の振りの様子は、長打を狙っているような大振りだけど鋭い振込みだった。
もしかしたら、デカイ当たりを打ち込むかもと、携帯電話を取り出し動画モードで撮影を開始するとすぐに、カキンと金属バットで硬球を芯で捕らえた音が響き、レフトの守備位置を超えた私のすぐ側までバウンドすることなく飛んできた。
これなら妻も満足だろう。
後はカメラモードで何枚か写真を撮れば文句は言われないだろう。
顔が見えるところまで近づいて写真に収めようとすると、英智のヒットのボールを拾いに来た野球部の少年が私を見て耳が赤くなっていた。
だろう。これはかなりグッとくるだろう。英智も英気を養えるに違いない。
作戦としては写真を撮って、英智と目を合わせて、その後私こと顔を赤めらせた美少女が走り去る。そうすれば、英智は自分に美少女ファンがいると勝手に思うに違いない、というものだ。
よし、これでいこう。
私はグラウンドにカメラモードの携帯電話を持って近づくと、こちらに近づく英智に気づいた。すかさず写真を撮ったが、すでに英智はこちらに目を合わせていて、近づいてきていた。
勘付かれるの早いな、顔を叩いて赤くする時間がない。幻術でなんとかしようと思っていると、英智がもう目の前にいて私を凝視していた。
おいおいいきなり愛の告白行ってしまうのか英智、私はそんな風に育てた覚えは
「何撮ってんだ」
「え、あのー」
「そういうの、やめてくれ。だから女は嫌いなんだ。部外者は出て行け」
お……おおう?
ーーー
長男 鈴木英智
小さい頃、親父と柔らかい球でやったキャッチボールが、野球の始まりだった。
山なりに軌道を描いてから転がるボールを目で追いかけるのがとても楽しかった。
幼稚園の頃、野球にどっぷりハマってしまって、テレビ中継の野球から離れられなくなった俺に、親も困り果てていたと思う。
小学2年生の頃、どうしても小学3年生からしか入れない少年野球団に入りたいと駄々をこね、親が仕方なくコーチに直談判して、素振りや投球フォームを見せたら、コーチが折れて俺を少年野球団に入れたのだ。
4年生になると、サードを守れと言われて上級生に交じってシートノックに交じり、5年生からはレギュラーになっていた。
俺自身はちょっと天狗になっていたと思う。他の同級生に比べても頭一つ技術も体力もあった。
でも、4年生に入るころに入ったあいつ、鉄矢がメキメキと頭角を現し始め、5年生の頃に
「おまえはピッチャーをやれ」
と野球の花形ポジションを命じられていた。
悔しかった。俺より後に入ったやつが花形ポジションになるとか許せなかった。
俺も休みの日に投球練習をしてあいつを引きずり降ろしてやると思って頑張っていたが、速度はあるけれど、細かいコントロールをして投げ込むことが俺にはできなかった。
でも、あいつはそれができた。
悔しいけど負けを認めざるを得なかった。
でも、俺には打撃時に球が良く見えて、打てない球はなかったし、自分に向かってくる球も遅く見えた。守備や打撃には、俺は才能がある。
誰にでも、不得意があって得意がある。
ピッチングの才能が俺にはなかっただけで、あいつにはピッチングの才能があった。
そう思えるようになってから、あいつを認められるようになっていった。
そして、小学6年生の試合はあいつのピッチングでほぼ0点で守り切り、俺の打撃で打点が入るを繰り返し、次々と大会を勝ち上がり、地区大会では優勝をかっさらう等の快挙を成し遂げ、地元のローカル新聞に記事まで載った。
きっと、あいつと俺は一緒の中学、高校へ行って最後に甲子園に出場するんだ、なんてことを当然のように考えていた。
でも、あいつは中学に入って部活を決める時に、
「俺、サッカー部に決めたんだ。先輩に誘われたんだ」
と、よくわからないことを言い始めた。俺の耳がマジで腐ったのかと思って、何度も聞き返した。お前の投球は地区大会で優勝できるほどの才能があるんだぞ。ほとんどの子供が成し遂げることができないんだぞ。その才能をドブに捨てんの? 馬鹿じゃね?
そういうわけで、あいつは野球部には入らなかった。
あいつの投球の無い野球部は本当に弱かった。打撃で俺が頑張っても、それ以上に打たれて負けるのだ。先輩や監督に言われてピッチャーも俺が兼任するようになったが、速さはあったがあいつほどの打たせて取る絶妙のコントロールはなく、勝ち上がるのもやっとだった。
それに、俺一人で野球をするものではない、と気づいた。俺の才能やあいつの才能が俺の小さい野球の全てだったことに気が付き、チームの育成にも一生懸命になった。
中学2年の秋ころ、上級生の女子生徒が俺の側を通り過ぎた時にけらけらと笑いながら
「ちょろいちょろい、男なんて胸を見せればすぐに行ける。ほら、小学生のエースの子なんて特にちょろかったよ。サッカー部がさ、人少ないからって有望そうな子を探して色仕掛けしたら簡単に引っかかったよ」
と言っているのを聞いた。
俺の中から黒い煙が湧き上がるのを感じた。絶対に女は信じない。
俺はその日、髪を剃り上げた。
野球部に力を入れている高校に俺は入り、練習に明け暮れていた。
俺はチームメンバーの練習の進度を見ながら、頃合いを見てフリーバッティングを始めた。
フリーバッティングが俺の打席の順番になり、打席に立つ。
グラウンドを見わたして、今日はどこに打ち込もうかと考えた。
すると、日本人らしかぬピンク色の髪の女を見つけた。ああいうのが男を惑わすんだ、と俺は舌打ちし、投げ込まれた球をソイツに向けてフルスイングした。もちろん、ソイツの顔面に当てるほどのコントロール力はまだ俺にはないし、本当に当てたら大変なことになるからしない。ちゃんとフェンスの前で落ちてぶつけないように調整した。
その女ははしゃぐ様に携帯電話で動画を撮影していた。
その行為が余計に腹が立った。
制服姿ではないそいつは、きっと他校の奴だろう。
そこで俺はふと嫌な予感がした。
こいつはハニートラップ要員だ。俺たちのチームを骨抜きにするために使わされたやつだ。もちろん練習風景の動画は俺たちとの試合対策に使われるに違いない。
甲子園には出れなかったが地区大会を勝ち上がった俺たちのチームから引き抜きを考え始めたり、対策を練ろうとしているやつらが、最近出始めていた。
この女もきっと、中学生の時にエースだったあいつを奪い取ったように、主要メンバーを引き抜こうとして近づいてきているに違いない。もしかしたらスキャンダルを作り上げようとしている差金かもしれない。
ちょっと近づいた他の連中が既に鼻の下を伸ばしていた。
馬鹿め、騙されるな。こいつらはそういう色気で俺たちを操ろうとしているんだ。
ちょっと可愛いからってなんだ。だいたい、俺の妹レベルを軽く下回るやつばっかりで、目の前のピンクやろうはまあ同じくらいか。
「何撮ってんだ」
俺の言葉に、なんか思ったのと違う、というような苦笑いのピンク髪の女が困ったように
「え、あのー」
と言った。そういう、色気を出して誤魔化そうとか、言語道断だ。そんなんで野球人生が消えたやつが何万人いると思ってんだ。
俺の大切な仲間を惑わすんじゃねぇよ。
「そういうの、やめてくれ。だから女は嫌いなんだ。部外者は出て行け」
俺はピンク髪の女を追い返した。
後輩の部員が
「あんな厳しくしていいんですか? 結構可愛い子なのに」
と俺につぶやいた。
「騙されるな。こんな泥だらけや汗臭くなっている時に見ず知らずの女が笑顔で近寄ってくるだなんて、何か理由がある時だけだ。これからって時期に部外者がたくさん来ているじゃないか。これもその一環だ。鼻伸ばしてカラオケに連れて行かれてたら、タバコ咥えさせられて写真撮られて脅されるぞ」
「マジっすか!?」
「上手い話、金や、遊びに、女は特に気をつけろ」
鉄也、すまなかったな。守れなくて。
今度こそ俺がチームの危機を、俺がチームを守る!
ーーー
私はこめかみに血管が浮き出ている英智の顔を見て急いでその場から退散した。この顔はかなり本気で怒っている時の顔だ。なぜだ、この美少女を無下にするなんて。
女が嫌い?
まさか、英智、お前いつのまにかハッテンな何かに発展したのか。お父さん、マジで心配。
男はエロ本や女の猥談で語り合うものじゃないのか?
大丈夫か、息子。
妻に要相談した方が……
この格好では無理か……
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