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2月1日(水)_私がゾンビになったらさ

 放課後。

 解人かいとはくるるに連れられて、学校近くのファッションビルの一階──化粧品売り場にいた。店員さんは二人の距離感からなにかを察してか、離れて見守っていた。

 居心地が悪いというのが解人の素直な感想だったが、くるるはあまり気にしていない様子でリップを眺めている。


「ねえねえ、ゾンビに似合うメイクって何だと思う?」

「…………特殊メイク?」


 解人はたっぷりと間を空けてから答えた。

 その答えが不服だったようで、隣りのくるるは首を左右にぶんぶんと振る。髪の毛がカイトの制服をリズミカルに叩いた。


「そうじゃなくってさー。ゾンビって顔色悪いじゃん」

「顔色悪いっていうか……そりゃまあ死んでるしね。設定にもよるだろうけど」

「じゃあ、カイトくんが死んだとして」

「カジュアルに殺されたなあ。あんまり葬式で悲しんでくれなさそう」

「悲しむよ、たぶん。でもね、そうやって泣いてる私の前で、カイトくんがゾンビになっちゃうわけ。流した涙も返ってくるくらいびっくりしちゃうと思う」

「流れるように尊厳も奪われてしまった」

「考えてみて、それからず~っと過ごしてたらゼッタイ顔は腐っちゃうじゃん? だから、どんなメイクなら素材を活かせるかなって思って」

「隠すんじゃなくて活かすあたりに現代っぽさを感じるよ」

「だってね、もしも私がゾンビになったとしたら、可愛いゾンビがいいなって、思うし」

「ゾンビでも可愛くありたいと思う乙女心すげ~……」


 くるるはいまのやり取りだけで満足したのか、ファッションビルをあとにすることに。ゾンビの話をするためにここまで来たのか、ここに来たからゾンビのことを考えたのか。どちらにせよ解人には理解の出来ない思考回路だった。

 ビルを出てすぐ、くるるがコンビニへと吸い込まれていく。解人は幼子を見守る親のようについていった。


「雪見だいふく……いや、今日はパピコっていう手も……」

「寒いのにアイスとは。コタツがあれば最高だね」


 くるるは様々な氷菓の詰まった冷えひえのアイスケースを覗いて得意気に言う。


「これはゾンビになった時の予行練習だからね~。可愛くあるためには必要なことなんだよ、うん」

「えー……と。アイスは冷たいから腐らない、みたいなこと考えてるかもしれないけど、たぶん食べ物を消化できないから中が傷むのを早めるだけじゃないかな」

「じゃ、じゃあ、アイス全部食べて空っぽにしてからこの冷凍庫に入ればもしくは!」

「炎上系迷惑バイトのゾンビだ……じゃなくて、結局アイス食べてるんだから内側から腐るってば」

「そ、そんな! じゃあゾンビになったらアイスを食べれないじゃん……!」

「ゾンビになってもエンジョイする気が満々だね、桜間さんは」

「人間のうちにアイス食べとくかー」

「うーん、ポジティブ」


 二人は、同じ棒付きアイスを買ってコンビニを出る。

 包装をはがし、駅舎までの短い道をゆっくりと歩きながら、アイスにかじりついた。


「ゾンビになったらさー、人間だった時のこと忘れちゃうっていうじゃん」

「自我がなくなる、みたいなね」

「そしたらさ、忘れちゃうのかな。今日のことも」

「かもね」


 口の中が冷たい。

 指先が冷たい。

 顔も冷たい。

 死んでしまったら、こんな感じなのだろうかと解人はふと思う。


「そっかー。あなたを噛みたくはないわ! 私が人であるうちにコロシテ! みたいなやつねー」

「愛情と尊厳のテーマがしっかり描かれるタイプの作品であるやつね」

「私がゾンビになったらさ、カイトくんを噛む」

「おかしいじゃん? 友だちの安寧を願う流れだったでしょ? なんでそうなるん??」

「だってそっちの方が楽しいじゃん」

「すげ~~ワガママじゃんか」


 くるるが、アイスをガリリと噛んで。


「ゾンビくらい一緒になってよね」

「……噛むなら痛くないところにしてくれよ」


 すっかり夜になった空の下、二人はどちらからともなく吹きだした。

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