1月29日(日)_JKでもマフィアのボスになれるかな?【くるるのひとりごと1】
ほっぺが硬い。冬だなーって思う。
よくほっぺをおもちに例えることがあるけれど、自分のほっぺはまさしくおもちだと思う。あったかいところではモチモチしてるし、こうして寒いとカチカチになる。なんか肌が突っ張っているような気がする。
なんで冬のさむーい日にはほっぺがカチカチになるのかわかんないけど、とにかく昔からそうなのだ。
私、桜間くるる。
高校一年生。趣味は朝の散歩だ。
今朝もおふとんのぬくもりに別れを告げてから散歩に出ていた。ちょっと名残惜しいけれど、マフラーやらコートやら手袋やらで身を固めておけば同じくらいぬくい。
保温妖怪ポカリンとしてご近所を歩き回っていく。
ほうっと息を吐く。白い。
というか、めちゃ白い。思ったよりも真っ白だった。
それがなんだか嬉しくて、朝日へ向けて歩きながら、私は白い息を研究する。
小刻みに息を吹いてみたり長く吐いてみたり。それから、素早く吹いてみようと思いついた。
北風と太陽の北風さんのように唇をすぼめて、勢いよく息を吹く。私の中のあったかい空気がつめたい世界に放たれる。
けれど白くはならなかった。
なんで?
私は確かめるように、朝日に向かって吸って吐いて吐いて吐いて……。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
つかれた。
荒げた息は白いのがちょっと皮肉っぽい。
「ふっふっふ……ふぅ……」
私は知ってしまった。
勢いよく吹くと吐息は見えなくなる。考えたこともなかったけれどこれは大発見かもしれない。
ゴキゲンな気分のまま、公園のそばを通りすぎる。
いつもワンコたちとたわむれている公園をあえてスルー。もふもふの毛玉たちは名残惜しいけど、今日は息の吐き方研究会の気分だった。
さっきは勢いよくだったので、今度はゆっくり吹いてみた。
古い映画で見たタバコの煙みたいに、吐息が白く立ち昇る。おもしろくて、何度も何度もゆっくりと吐いてみる。マフィアのボスになりきってみる。下っ端たちが裏切り者を始末し損ねた報告を聞きながら、ゆっくりと葉巻をふかしているのだ。灰は側近が受け止めてくれるのだろう。だんだんと煙が細くなり、下っ端たちの顔色は真っ青になっていく。最後に私はゆっくりと息を吐く。それが合図となり、下っ端たちは側近によって殺されてしまうのだ。
「ふん……つかえねえぜ……」
なんてね! タバコ吸ったことないからわかんないけど!
でも、冬はマフィアのボスになれる季節だ。
この真実を誰かに教えたい。誰かに。
私の頭にひとりの男の子の姿が浮かぶ。
「へへ……カイトくんならなんて言うかな」
ニヤけてしまった顔を両手で包むと、ほっぺが少しだけ柔らかくなっていた。
寒さで硬かったはずなのにどうしてだろう。
「ん~、ま、いっか!」
分からないことは分からないし。
ちょっぴりゴキゲンになっていた私は、やっぱり毛むくじゃらのワンコたちに会いたくなって通り過ぎた公園へと戻ることにした。
月曜日が待ち遠しかった。