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2月5日(日)_ダンゴムシでも丸まってばかりではいられない【くるるのひとりごと2】

 右手がうるさくて目が覚めた。

 寝ぼけ頭で思い出すと、確か昨日の私は、なんか、スマホを持っていて、布団をかぶって、眠くなってきて。

 そうだ。

 カイトくんとおでかけしたあと、LINEを返そうとして答えを考えていたら寝落ちしてしまったんだった。


「うう~……」


 私はスマホのアラームを止めて、起き上がろうとする。

 するんだけれど。


「ぬ~……」


 おもりでも入っているみたいにお布団が重い。

 うそ。

 たんに気が重いだけだ。

 カイトくんになんて言えば。なんて言えば良かったんだろう……。

 こうしていつもの朝のお散歩タイムとサヨナラして布団にくるまっていると、昔のことを想いだす。

 あれは小学生のころ。

 私はダンゴムシになりたかったのだ。

 将来の夢を作文で書いてきてねって宿題があったから、そう書いた。寒くて布団にくるまっているときに考えたから、たぶんぬくぬくして過ごしたいと思っていた、とかそんなところだとは思う。テキトーな子どもだよね、まったく。……それは今もか。

 授業で音読したら、男の子にからかわれてバカにされたのを今でも覚えている。仲の良かった女の子からも距離を置かれた。

 異物を見る目だった。

 もう、子ども心にすごいコワかったんだから。みんなそろって、きゅーって目を細めててさ。なんでそんな風に見られるのか当時の私は分からなくて、だからコワかったし、すっごく寂しかった。仲良しだと思ってたのにどうして、って。

 どうしてなんだろ。考えても分からなかった私は、お母さんに訊いたのだ。すると、こう返ってきた。


『みんな知らないモノは怖いのね。きっと、くるるにはくるるの《《辞書》》があるのよ。それはステキなこと。けれど、他の子にはちょっとだけ理解してもらえなかったのかしらね』


 私にとっての当たり前は、誰かにとっての当たり前じゃない。

 普通じゃないことは怖いこと。

 そんなことを、お母さんは言葉を尽くして丁寧に教えてくれた。

 驚いたなあ。

 目からうろこってやつだ。ボロボロ剥がれまくりだった。

 納得はしやすかった。たしかにそれまでも、友だちと話が噛み合わないなーって思うことは何度かあったから。あんまり気にしてこなかっただけで。

 作文でダンゴムシになりたいって書いたことが決め手になっただけで、きっと、ずっと前からそうだったんだ。

 自分の《《辞書》》で話していたら、誰にも理解されないのかも。

 それもそうだよね。だって私にも、私の《《辞書》》は分からないんだもん。

 なんでダンゴムシと書いたのかーって訊かれても、正しくは答えられない。なんとなくは分かるけどね、もちろん。

 だから私は《《辞書》》を封印したんだ。

 中学に入学してもそれは変わらなくって。できるだけ変なことを言わないように、変な言葉を使わないようにって考えていたら。

 私は何も言えない子になっちゃった。

 自分でもばかだなあって思うけど、中学の三年間で誰と何を話したのかなんて覚えてないなあ。

 何を言ったら奇異の目で見られて、何を言ったら受け入れてもらえるのか、私は分からなくなっていたんだと思う。

 高校は地元から少し離れたところを選んだ。

 そして入学初日。今でも憶えてる……。私はやらかした。

 班のなかで自己紹介をするってなったんだけど、私は私の《《辞書》》の言葉で話しちゃったんだ。

 高校入学初日で緊張していたこともあるし、なにが普通か分からなくなっていた時期だったこともあって、私の自己紹介はめちゃくちゃだったと思う。たしか『最近は夕暮れをジャムにしたら美味しそう』みたいなことを言ったんだっけ。

 周りがポカンとして、そこでようやく、しまった! って思ったよね。その時だった。


 もしかして、とカイトくんが私の不可解な自己紹介を解読してくれた。

 

 一発でカンペキになんでも分かってくれたわけじゃない。カイトくんはエスパーじゃないからね。

 けれど、質問に例え話を交えて、少しずつ、少しずつ私の思っていることを解き明かしてくれたんだ。

 私も知らない私が見えていくようで。すっごく嬉しくて、すっごくワクワクしたのを覚えている。

 班の人たちも、カイトくんの《《解読》》で意味が分かったからか、おもしろいねとか、楽しそうとか笑ってくれて、優しく受け入れてくれた。

 あれから私はカイトくんに懐いている。さすがにね、私もその自覚くらいはありますよ。だって私の《《辞書》》を読み解いてくれた人なんだもん。

 自分の言葉で話せるのが嬉しくって、たくさん話しかけちゃう。

 彼に甘えちゃってるなあってことは分かっている。 

 ちょっぴり罪悪感。ちょっぴりね。

 でもやめることはできない。

 どうしてなんだろう。

 彼を思うと胸の奥が苦しい、気がする。

 なんだか締め付けられるような。

 この、感覚は────


 キュ~……


 お腹が鳴った。

 私ってさあ、こういうところ、あるよね。ちょっとでもマジメなことを考えていた自分がばからしいよ。


 なんだっけ、昨日の私。

 置いてけぼりにされるかもしれない、だっけ?

 目が覚めたよ。

 置いてけぼりにされるなら、追いついちゃえばいいんだよね。

 待つだけじゃなくて自分から進めばいいんだよ。昨日みたいに。デー…おでかけに誘ってよかったなって思うもん。だって楽しかった。

 カイトくんがバイトに行っちゃったら、寂しい?

 ばかだね、私。


 LINEを開いて彼にメッセージを送る。それからぬくぬくのお布団を取っ払って、部屋の冷たい空気の中で大きく伸びをした。


「ん~! ご飯食べたらお散歩だ~! 待ってろ、太陽!」

 

 彼に送った内容はこうだ。


[くるる:昨日はごめんね! それとありがと!]9:20

[くるる:楽しかったよ!]9:21

[くるる:バイト、私も探す!]9:21

読んでいただきありがとうございます!

第1章の折り返しになります!


続きが気になるという方はブクマを、少しでも面白いと感じた方は評価していただけると嬉しいです。

毎日更新で12万字までは確定で連載していきますので、ぜひ追っかけてあげてください!


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