胸が熱くなる
明日28日の午後から屋外ブースの新エッグが使用可能になり、レッドフォース装備は解放され誰でも選択できるようになると、新着の案内が来ていた。
ゼロタウンから戻ったユウキは、メッセージチャットでレミに連絡をいれた。
ユウキの代わりに運営が用意したメンバーが入って、ゲームは続けられていると、レミからのメッセージは受け取っていた。
チップの書き換えは明日の朝6時から開始。メンバーはそれを終えたあと、午後から新エッグでボス戦に望むとのことだ。
ユウキは28日は検査があり参加ができないため29日のボス戦に出る約束をした。
『29日のボス戦、まってるから万全の体調でくるんだよユウキ!』
メッセージなのに、レミのあおり口調が聞こえてくるようだった。
(レミに言われると、不思議とやる気が出るんだよね。
あと何回……ゲームできるかな。
飽きるまでやっていたい。
もし本戦までたどりつけなくても、ここでの出来事は今までの人生で一番の思い出になった。
来るきっかけをくれたハルとサトルには感謝しかない)
28日は朝からずっと検査で、ユウキはほとんど眠らされていたため何をされたのか不安だった。
チップの書き換えと、チップの交換が1つ、それと1つチップを追加され、ミナトから全部でチップは4つ入っていると聞かされた。
(チップ4つって……。頭のなかどうなってるんだよ)
PW-21の人間は普通でも5つは入れていると、ミナトは言った。
(便利でもこういうことは慣れないな。
体を切ったりするのはきれいな物に、なおらない傷をつけているようで、損をした気持ちになる)
「グリーンゲートから、今後はレッドフォース装備のみで戦うようにと指示が出ている。
その代わりと言ったらなんだが……おそらく君は運営サイドの『訳あり』の仲間入りだ」
(訳あり……俺が。 従わないという選択肢はないわけか……)
そして29日。
ユウキはいよいよ屋外ブースでのボス戦を初体験することになる。
グリーンゲートの庭園内に建てられたと聞いていたが、行ってみるとそこは、周りを取り囲む林や森が遠くに見えて、どこまでが庭なのか判別できないほど広大な敷地だった。
その中に作られたエッグブースは、幾本もの柱の上に楕円形の平らな屋根がのせられたような形の建物で、窓や扉、しきりも一切みあたらず、鳥や虫が簡単に侵入できてしまう。
その空間にエッグが設置され、自然の中でゲームができるような演出がされていた。
エッグにも改良が加えられ前面のシールドはなくなり、目元だけが隠れるようになっていた。
(外の風も匂いも全て感じることができる……とっても気持ちがいい。
こんな場所でゲームができるなんて最高だな)
ブース内には巨大パネルが設置され、今おこなわれているバトルボックスの戦闘が映し出されていた。
ボス戦のパネル前には人だかりができて、対策をたてる冒険者が真剣に戦いの様子を観戦している。
▼
ミナトはグリーンゲート社の代表室に呼ばれ、中に入るとアークエンジェル社のサンジェストとシュリが来ていた。
「ミナト、サンジェストとシュリを観戦ルームに案内して。
私も後で行きます」
「はい、承知しましたイライザ様」
部屋を出るとすぐにミナトが小さくため息をついた。
「私を指名しましたね」
「指名しなくてもイライザが呼んでくれたんだ」
シュリがにこやかにそう言った。
「今日はどういう風の吹き回しですか? サン」
「久しぶりだなミナト、いつもの気まぐれだよ」
「そうですか。 さあ着きました。
どうぞVIP専用観戦ルーム」
ミナトが扉をあけて、2人を促した。
サンジェストとシュリが通された部屋はいくつものモニターが並び、中央の大きなモニターには観戦したい戦闘をクローズアップすることができる。
バトルボックスの戦闘だけでなくエッグブースの会場の様子なども映し出されていた。
更に各所での冒険者の声も拾われている。
「これだよね、この感じ……思い出すなあ」
ブースの冒険者の様子をみながらサンジェストが言った。
「うちのモニターだとさ、バトルボックスの対戦しか見られないからなんか興ざめするんだよね。
エッグブースの盛り上がりとか冒険者の表情と声……いいよねこの臨場感」
「サン、もうじき例の子のバトルボックスが始まるよ」
シュリが促すように、1つの椅子の背もたれに手を置くと、サンジェストはそこに腰をかけた。
「ふーん、期待に応えてくれるといいけど」
▲
PTミーティングが始まり、開始まで10分を切った。
「さーて、ボス戦のタイムアップは20分だ。
今日は何のボスがでるかねー。ボスは3種類あるらしい。
うちらは昨日の1体の経験があるのみ。
火を吐く竜だった、しかも失敗!
ユウキは今日が初戦だ。まあ各自思った通りにぶちかまそう!
回復塔はチャム、そこだけは動かない!」
「チャムにおまかせ! みんなきばるのです!」
レミのかけ声で気合いが入り、楽しみと緊張でユウキは武者震いした。
「さあ、いっくよぉ!」
「おおー!」
『出発まで5分前となりました。 状態確認に入ります』
「それでは、よい冒険を」
管理者がそう言うと、すかさずレミが叫んだ。
「さあ、みんなでダイブだ!」
その瞬間ディスプレイは切られ真っ暗になった。
『仮想領域展開します…………』
電子的な声の案内が終わると同時に、椅子がガタンと揺れ少し後方に傾いた。
そしてあの光が飛び交うウォータースライダーの中へ!
暗いウォータースライダーの中の景色は夜空から蛍光色の流星群の中へ。
そして今回落とされた場所は……。
(良かった、最初から草の上に転がった。でも豪雨に雷!)
「視界が悪いね……なんだこの激しい雨は」
レミがそう言いながら周りを見渡した。
「おっと、真下が真っ赤だよ! みんな逃げて!」
アッガイの叫びに一斉にみんな身をひるがえし、ジャンプしてその場所から距離をとった。
マップのモブを現すはずの赤い点が、点ではなく大きな丸になってる。
(どんだけおっきいのが飛び出してくるんだよ……)
ボコッボコっと地面が割れ、地響きと共に山のような岩の塊がいくつも出てきた。
ごつごつした岩は、それぞれが動き出し組みたてられていき、岩の怪物になった。
「ゴーレムか……ったく堅そうだな!
組みあがるまでは無敵状態なはずだから組みあがってターゲットゲージが出てから叩くよ!
チャム、こいつの動き読んでから塔たててね! ちょっとぶつかっても塔は壊れるはずだから」
「了解、ボス!」
ゴーレムが組みあがり、ターゲットゲージが出た。
「GO!」
レミの掛け声で一斉に攻撃を始めたが、レミのソードもボーガンの矢もダメージがほとんど入らない。
かろうじてガトリングだけが少し削れる程度で、このままだとタイムアップになってしまう。
モブのサイズが大きいため、動きは緩慢だが手を振り回しただけでも逃げるために攻撃ができない。
「アッガイ、ボーガンに火と氷くっつけて両方ためしてね。
バシュ、ダメ入ったら部位教えて!」
「了解!」
「足があまり動いてないから、回復塔建てます! まず2機」
「ボーガン氷、ダメ少し入ります!」
「了解、じゃソードも氷くっつけますか」
ダガー2本のユウキは近距離攻撃しかできない。
他の人へ注意がむいているすきに、ゴーレムの足元にもぐりこんだ。
こんな大胆なことが出来る自分に驚きながらも、体はとまらなかった。
「ユウキ、無茶するな!」
バシュが叫んだ。
「僕がタゲとるからねー! ユウキ!」
「アッガイたたき落とされるなよ。 チャム近くに来てくれ。
アッガイに回復玉が必要になるかも」
「縁起でも無いこといわないで、バシュ!」
「ガハハ」
岩の接合部分の隙間にダガーを刺せばダメージが入るかもしれないと思い、ジャンプしてその勢いのままレッドフォースダガーを差し込んだ。
だが大したダメージは入らず、ゴーレムに振り落とされ、飛んださきの岩にぶつかってユウキは倒れ込んだ。
「ユウキ、立ちな! やられるよ!」
レミが叫んだがユウキは痛みでなかなか起き上がれなかった。
「おっと、アッガイより先にユウキがたたき落とされたか、チャム頼んだぞ!」
バシュが叫んだ。
「アイアイサー!」
ユウキの生命ゲージは40%まで落ちていた。
回復塔は効いているが、1回のチャージで1割ほどの回復で、インターバルがある。
チャムが近づき回復玉を振りまいた。
一挙に8割まで回復はしたが骨が折れたような激痛で立ち上がることができない。
(暗いし雨だしこのフェイスシールドがじゃまあぁ!)
弱い自分を自覚はしているが、ユウキは何かのせいにしたかった。
なんとか体制を立て直したが、ゴーレムの腕がこちらに向かってきていた。
「もっと早く!高く!強く!」
ユウキは自分をふるいたたせるように叫んだ。
腕を飛び越すようにジャンプして、ゴーレムの腕に乗ると、岩のつなぎ目にダガーを突き刺した。
ダガーは、はじかれることなくグサッと少し柔らかい場所にささった。
「少し柔らかい部分にささりました!」
ゴーレムはのけぞり、ユウキを振り払おうと腕をふりあげた。
ユウキのダガーが刺さっている場所へレミがソードを差し込んだ。
ボコッと岩が外れるようにそこの部分の岩が崩れて下におちた。
「おお、岩が落ちたよ!」
うれしそうにレミが叫んだ。
(でも柔らかい部分の目印などない、どこを狙えば……)
「クッ……方法がわからなければ、数うちゃあたりますよね!」
「それ正解! ユウキ!」
ユウキはイメージをした。早く走る、そして早く打ち付ける!
(体よ、ついてこい!)
ジャンプしては刺す、逃げてまたジャンプして刺す……を繰り返した。
「早く!高く!強く!」
その時、ダガーのブレードが少し輝きだした。
(あ……なんだろうこの感覚……俺、今ダガーと通じ合ってる……?)
「ウォォォ!」
次の一撃をうちこむとダガーはもろに岩の部分に当たってしまったが、はじかれることはなく強い光を放ち始め、刃先が岩に食い込んでいった。
(あれ、堅いところだったのに、岩が崩れていく……)
「お……おい、すげえな……」
バシュのガトリングが止まった。
「ハハ……やってくれるね。 崩れた場所へ撃ち込め!」
レミがそう言った瞬間、その声を理解したかのように、ゴーレムは形を組みかえ巨大な丸い岩になってその場でぐるぐると回転しはじめ、地面がえぐれだした。
飛ばされたユウキは、背面に一回転して着地した。
(おお! だいぶ体の制御ができるようになってきた!)
「ま、まじか……回り始めちゃったよ」
バシュはたじろぎ、他のメンバーもゴーレムから距離をとった。
転がり出したその岩にダガーやソードを差し込む隙はない。
ボーガンやガトリングで削っていてもこのままではタイムアップになる。
「レミたん、あと5分ないよ!」
「わかってる、アッガイ。レミたんって言うな!
回転は遅いし手足が出てない分、攻撃はしやすい。
とりあえず時間までたたくしかない!」
(あきらめるな! こんなもの、こんなもの……)
ユウキは高くジャンプし、このまま消えてもいいと、回転するゴーレムに突っ込んだ。
(ただの電子データだ!)
案の定はじかれ、体は上方へ飛ばされたが、空中で回転し滑空しながら1度地面に足を着くと、すぐにジャンプをして、再び回転するゴーレムに刃を立てた。
それを繰り返していると、電子データのはずなのに回転するゴーレムの中に熱を帯びた部分があることを感じ始めた。
「熱を見せろ!」
思わず口をついて出た言葉だったが、ダガーの先から小さな稲妻のような光が、岩のある部分に向けて走った。
その光は一瞬出ては消え、そしてまた出現し、岩の一部分を指し示す。
(そこかー!)
「俺の方がもっと熱いんだよ!」
ユウキはそう叫んで、ダガーから出た光が指し示す場所めがけて空中から体をひねりながら両手のダガーを重ねるようにして突き刺した。
ゴーレムは刺したと同時に一瞬で砕け散り、小さな破片がバラバラとこぼれながら消えていった。
それと同時に豪雨がやみ、一瞬で青空に変わった。
「うおぉぉぉ! ユウキよくやった!」
バシュが叫んで空にむけてガトリングを撃った。
「アハ……こりゃすごいね。ユウキがうちのPTでよかったよ。よくやった!」
「ユウキたんすごーい! ほてれまうやろ!」
「ユウキがんばりましたね! チャムがほめてあげます、えらいえらい!」
(みんなが……みんなが喜んでる。
仮想なのに……胸が熱くなる。
これはきっと本物の俺が感じている達成感と、喜びなんだ)
バトルボックス(ボス戦)
PT11 ゴーレム討伐成功しました。
『終了まで5秒前、4、3、2、1……』
仮想域からエッグ内の本体に意識が戻ると、歓声と拍手が聞こえた。
倒れていたエッグが元の位置に戻され、目の前のシールドがはずれると、テーブルを取り囲むたくさんの冒険者がユウキの目に入った。
みんな口々に「おめでとう」と言って拍手をしていた。




