君への招待状
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
サトルは深呼吸をすると、最初にPW-21に来たきっかけから話し始めた。
少しウェーブのきいた栗色の髪をかき上げると、ワックスを塗っていないせいか学校にいるときよりは幼く見える。
「俺、14歳のとき死のうと思って失敗したんだ。
今の俺からは想像できないだろうけど、結構な弱虫だったんだぜ。
考え方も後ろ向きで……。
母子家庭だったからいじめられていても、忙しい母親には言えないだろ?
まあ、いじめられていたのは俺だけじゃなかったけど、俺は最悪の手段を選んじゃったわけよ。
今は失敗してほんと良かったって思ってる」
そう苦笑いするサトルに、ユウキはかける言葉がみつからなかった。
自分よりもずっと人付き合いがうまく活発で明るく見えたサトルが、そんな過去をかかえていたことがユウキにはショックだった。
(俺だけが不幸なわけじゃないって、当たり前にわかっていたけど。サトルもだったのか……)
「失敗して良かったよサトル。こうやって3人で遊べるしな!」
「うん、私もよかった……失敗して」
3人はなんとなくほほえんだ。
(不幸や不運を比べることはできない。そのダメージは人によって違うから。
俺が平気だからおまえも大丈夫って言うのはかなり乱暴な考え方だけど、そういう人の方が多い気がする)
サトルはその後、住んでいた兵庫から母親の実家がある東京へ移り、姓を変えて生活を始めた。
心療内科に通院しながらも高校に合格し、入学したてのある日の夜、ずっと見に行っていなかった『自殺したい若者よ集まれ』という会員制サイトを覗きに行った。
そこにはたくさんの人の書き込みが目で追いきれないほど流れていた。
「そのころは心の落ち着きを取り戻していたから、冷静にその人たちの文字を受け止めることができた。
かわいそうだな……と思いながらも自分には何もできないことはわかっていた。
そんなとき一瞬書き込みの流れが止まったんだ。
自分のPCがフリーズしたのかと思ったけどそうじゃなくて、そこに大きな赤い文字で「自殺したけど失敗した人この指とーまれ」って文字が点滅したんだ。
悪趣味だなと思ったけど「ノ」を俺は打ち込んでしまった。
一斉に「ノ」がダーッと流れて、しばらくして書き込みがなくなりはじめたころ、今度は赤い文字で「ありがとう」って表示された。
その後は普通に戻って、いろいろな書き込みがまた流れ始めたんだ。
そして数日後、招待状が届いた」
「招待状?」
ユウキがそうたずねると、サトルはパネルを操作して、招待状の文章をフレンドメールでユウキとハルに送った。
「何度も読んだから暗記しちゃったよ……」
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君への招待状
本気は見抜けない。
本気は止められない。
決意表明は自分を止めないため。
死ぬのは自分の力だけじゃない。
とめるには大きな刺激が必要だ。
やめるには死なない場所が必要だ。
飛び出さないか、死なない世界へ。
羽ばたかないか、新しい世界へ。
そこに死ぬ選択はないから。
そこで死ぬ必要はないから。
――ご褒美をあげたい僕から。
▲
「貼り付けられていたマップのURLは竹芝ふ頭の近くで、時間は深夜1時から1時10分までって書いてあった。その招待状を受け取った俺は、ためらうことなくすぐに返信した。
羽ばたきたい、新しい世界へ……って」
「普通ならいたずらだと思うよな……というか俺ならそう思う」
ユウキがそう言った。
「だよな、俺もどうせいたずらだろうと思ったよ。
でももしこの招待状が本物だったらって考えると正直わくわくする自分がいた。
それで指定された日に、その場所に行ってみると、大勢の若者が集まっていて、この間の巨大ルンバじゃなくて、飛行船のような形をしたもっと大きな機体が待っていた。
そのとき俺うれしくて涙がでたよ」
「それでここに来てゲームに参加することになったんだって」
と、ハルがユウキを見て言った。
「驚いたな、そうやって人を集めていたのか。
その誘いに大勢がのっかるのはもっと驚くけど。
サトルそれで……ここに来て何か変わった?
気持ちとか、考え方とか」
「ユウキも経験したからわかると思うけど、初日にして少し前の考えとか気持ちが思い出せないほど追い詰められただろ?
あれで自分が初期化されたって感じかな」
「ハハ、確かにその通りだな。
不安でいっぱいなのに考えなきゃならないことが多くて、他のことに脳を使う余裕なんてなかった」
「脳って不思議だよね。
すごく忙しかったり、強い刺激とか衝撃があると悩みとか吹っ飛ばしちゃう。
逆に言えば、それがないとずっと悩んだままってことなのかな」
サトルがそう言うとハルがテーブルに身を乗り出した。
「例えばさ、好きな人とうまくいったり、キスしたりしたら、それでも悩みが飛びそう!」
「ま……まあ、それも刺激だよな」
仕方なさそうにユウキが答えた。
「そんな刺激、早くこないかなぁ。ワクワク」
ユウキとサトルは顔を見合わせて苦笑いした。
(ハルはもともと明るい子なんだろうな。
起きてしまったことは消せなくても、自分を初期化できるなら、それだけでもここに来る価値はあるのかもしれない)
「そういえば俺がハルに会いに行くきっかけになった画像……サトルが送った。
どうしてあのタイミングで送って来たの?」
ユウキはそれがずっと疑問だった。まともに話もしたことがない自分になぜ送ってきたのか。
「ユウキを誘いたかったから! ウフ」
「ウフ……って」
「ユウキが引いてるぞハル。
あの画像はハルから頼まれたから送っただけ。
別れの挨拶でもしたいから送りたかったのかと思ってたけど。
まさかユウキを連れていこうとしていたとは、大胆だよな」
「別にユウキと親しかったわけじゃないけど……。
ユウキってさ、いつも1人で、それでいて平気な顔してたでしょ?
強がってるのか、それとも本当に周りが気にならないのか、いつか聞いてみたかった。
そうやって観察してたら気になる存在になっちゃった」
「ブッ……おいおい、いきなり告るか?!」
サトルがあきれたように言った。
ユウキは返す言葉も無くただハルを見つめた。
(今までの俺の人生にない展開だ……告るとか告られるとか)
「安心して! 今は同じPTのモニークに夢中だから」
(お……おい。もてあそばれてるじゃないか……俺。
平常心、平常心……)
「そういえばさ、こっちきてから2人とも見た目の印象がかわったよね?
髪のせいかな?」
ハルは頬杖をついたまま、2人を交互に見ながら言った。
ユウキもサトル同様、ここにきてから整髪料はつかわず、刈り上げたボブの赤い髪を洗いっぱなしにしていた。
「ワックスつけてないしな。
てかハルが少しかわいくみえるのはモニークのせいか?」
サトルがからかった。
ハルは学校にいるときは長い髪を縛っていたが、今はおろしていてサトルとは逆に大人っぽく見える。
「もう、やだな!ばれちゃった? ウフフ」
「ウフフじゃねえ」
サトルとハルのやりとりを見ているだけでユウキは楽しかった。
今まで、人に興味がなかったのか、それともわざと無関心を装っていたのか、とにかくユウキは人をあまり見ることをしなかった。
こうやって2人の表情を見ていると、人をこばんできた自分が無駄なことをしてきたように思えた。
(相手が笑えば自分の気分もあがるし、表情をみれば気持ちを察することもできるのに、全て見ないようにしてきた俺はバカだったのか……)
「そういえば2人はどこのPTにいるの?俺はPT11」
「私はPT40! モニークがめっちゃ強いの!」
「はいはい……。サトルは?」
「俺は……実は上級組に組み込まれてる。おまえたちだから話すんだからな!」
「もしかして例の能力?」
ハルがすかさずそう言った。
「ど……どういうことだよサトル」
『料理が到着します。 配膳カウンターからお受け取りください。
セルフサービスとなっております』
テーブルの端のあたりからアナウンスが聞こえ、サトルが立ち上がった。
「まずは食おうぜ!そんで乾杯だ!」
「わーい! お腹すいたー」
(俺は混乱しているのに、この2人はお気楽というか……楽しそうだな。
まあ、ゆっくり聞けばいいか!)
運ばれてきた料理は、どう見ても未来都市の料理ではなかった。
「なぁ……この料理すごく普通なんだけど。もっとこう未来っぽい……」
不満そうにユウキがそう言いかけた。
「つべこべ言わない。俺はこの界隈しか店知らない!
そうだ今度ミナトさんに高級店に連れていってもらおうぜ!」
「高級店!賛成ー!」
(2人とも訳あり冒険者には見えないよな。
最悪を選んでしまうほど思い悩んでいた時期があったなんて。
元気いっぱいな学生にしか見えな……ああ……そうか。
きっかけがあれば、すぐに普通にもどれるんだ)
「よーし、冒険を楽しむぞ! 今日、再会できたことを祝して!」
サトルがジュースの入ったグラスを持った手を上に上げた。
「まってまって、私にもひとこと言わせて!」
ハルはグラスをもって席を立った。
「一緒にいてくれてありがとう!2人とも大好き!
はい、次はユウキだよ!」
仕方なくユウキもグラスを持って席を立った。
「ここに来たことが良かったかまだわからないけど。
なくした物が見つかったような……嬉しさがあって
でも不安も疑問もたくさんあって……」
「おい、長いぞ!」
「あ……ごめん。とにかくありがとう!何があっても2人だけは信じる!」
「よーし!カンパーイ!」
その後、食事をしながら、ハルが言ったサトルの能力のことをユウキが聞いた。
それとなぜあのルンバが2人だけを迎えに来たのかを。
「んー、アンコの向こうにミナトさんがいるのがわかるから、なんとなく話しづらいなぁ。
まいっか、ミナトさん話ちゃうけど怒らないでね!」
サトルはそう言ってアンコに手を振った。
「あれは俺を迎えに来たルンバだよ。
最初から上級組に組み込まれていたから本戦までには時間があった。
それまでにテストしないといけないことがあって呼ばれたんだ」
「テストって……まて、さっぱりわからない」
「だろうな、まあしばらく黙って話を聞いてくれ」
「迎えが来る予定日の少し前にハルが未遂事件を起こした。
ゼロからも21に連絡を取れる手段があって……ま、その話はおいといて。
ミナトさんにハルのことを話して了解をもらってから、ハルに一緒にいかないかって声をかけた。
そしたら二つ返事で行くって言うから、連れて行くことにしたんだ。
でもまさかハルがお前を誘うとは……」
「キャハハ、うけるー」
「ったく……うけるーじゃないよ。ヒヤヒヤだったんだからな。
まあ結果ユウキも加わって3人で楽しめる状況になれたから、ハルを誘ったことは正解だった。
それでだ……ルンバがなぜ俺を迎えに来たか。
前回のゲームで俺は本戦まで残ったんだけど、そこで……暴走した。
ソード2本で敵組の15人を潰しちまった……開始20分で。
ゲームは中断して、結局俺はチート扱いされて外され、ゲームは仕切り直しになった。
話はそこで終わらなくて、なぜか俺はゼロには送還されずにいろいろと検査をされた。
それでわかったことが、未稼働だった脳に新しい領域ができた反応があって、想定外の出力が武器に反映されてしまったと説明された。
さっぱり意味はわからなかったけど……。
それでそういった出力異常を止めるために、今は想定外のエネルギーを検知すると武器を握った手なんかに燃焼の痛みを与えることになったらしい」
(それって俺のダガーで起きた反応のことか? じゃあ熱くなったのは出力異常があったってこと?)
「脳波の検査や武器のテストで、今後もグリーンゲートに協力するなら、ゼロと21を行き来させてやると言われて、俺はすぐに了承した。
今までも武器のテストのために呼ばれれば、迎えの機体に乗って21に来ていたんだ。
結果、今あるフォース武器は俺の出力に耐えられる物に仕上がった。
あ、フォースってわかるよね?武器情報と一緒に知識は流し込みされてるはずだから」
(サトルの出力に耐えうるものになったって……。
じゃあ俺の出力には耐えられなかったってこと?
それとも本当にただの不具合なのか)
「それで……学校を時々1週間とか休んでいたのか?」
「その通り! まあ過去が過去だけに、先生は何も言わなかったよ。
今回、上級組に入れられたのはテスト対象者だから。
フォースを微量に出す人は結構いるんだ。
その量によってランク分けされていて、俺はAらしい。
脳にできた新しい領域も一番大きいらしいから、そのせいで量が多いのかな?
詳しいことはわからない。
自殺未遂者のことを訳あり冒険者って言うけど別の訳ありの人もまぎれている。
俺もそのうちの1人だ」
ユウキは自分に起こったことが一体なんだったのかを考えていた。
(俺もフォースを出せていたなら、ちょっとレアな存在になれたようで、うれしいんだけど。
やっぱ不具合だったんだろうか……)
「今度は本戦で勝ちたいなあ。
最後まで残れれば、トークンをゼロのお金に換金して、結構な金持ちになって帰れるらしい」
サトルのその話にハルがくいついた。
「おおぉ! もし私が残れなかったら分けてね!」
「あのなあ……ハル。
最初から他力本願でどうする。おまえも頑張れ!」
「じゃあモニークに頼もうっと。
私を本戦に連れてって!って」
「はいはい、そうしたらいいよ。
あ、そういえば、俺がチートの疑いをかけられたことで、フォースとチートを見分けるために、グリーンゲートはチートを検知するソフトも作ったらしい。
ついでにそれを商品化するらしいから抜かりがなくて関心するよ」
階段を誰かが上がってくる足音がした。
「よおサトル。 久しぶりだな」
筋骨隆々のおおがらな男性が席に座ってきた。
「マコトさん! 久しぶり、会いたかった! 半年くらい来てなかったからね。
あ、ここの店主で俺の恩人のマコトさん。
同じゼロ民で、こっちでの叔父さんみたいなもんかな」
サトルはそう言ってうれしそうにマコトを紹介した。
「おいおい、兄貴にしておいてくれよ。
いらっしゃい、サトルの……友達と彼女?」
「ちがうってば! 2人とも友達!」
赤くなったサトルの顔をみて、ユウキとハルは大笑いした。
サトルは21へ来た当初、なれない環境でのとまどいとストレスから、ひどく落ち込むことがあった。
楽しんでいたつもりでも、実は本人が気づかないうちに心も体も疲弊していた。
その頃はまだ気が弱かったせいもあり、誰に相談することもできず、食事を取ったあとここでよく長い時間下を向いていた。
そんな姿を見たマコトは、サトルを励ましずっと支えてきた。
「俺が今みたいな、積極的で大胆な性格になれたのは、マコトさんのおかげ」
「そうか? 俺は何もしてないぜ!」
マコトはサトルの頭をかるくこずいた。




