それぞれの思惑
翌日、ユウキの使用したレッドフォースダガーの不具合についての報告会がグリーンゲート社で行われた。
部屋の後方にあるモニター画面に、刈り上げた銀髪に切れ長のグレーの瞳でこちらを見据える人物が映し出された。
「アークエンジェル社代表代理のシュリ様がモニターされましたので、今より報告会を開催いたします。
グリーンゲートからは代表代理のペトロが出席いたします。
最初に当方のシステム統括部のドルトルより報告をさせていただきます」
司会がそう言いながら目で合図を送ると、小さくうなずいたドルトルが壇上のマイクの前に立った。
今回のPT戦で不具合が出たのはユウキ1人だった。
ドルトルは、今回の件でユウキに燃焼の痛みを与えてしまったのは、単にシステムの不具合だったと言った。
ユウキから流れ出たフォースの量が想定以上のエネルギー量、あるいは速度だったため、精神錯乱や脳の暴走であると誤認され燃焼の痛みを与えてしまった。
もともと脳波の異常などで参加者の暴走が起きた場合、出力異常を検知した時点で脳波が到達する体の部位に燃焼の痛みを与える仕様になっていた。
早急にインターフェース回路のフォースの容量判定部分を作り直すが、十分なテストを行う時間がないため、試作段階でも使用させる許可がほしいと、シュリに求めた。
「要はそのユウキという者をテスト要員にするということか?
人をなんだと思っている。簡単に許可が出せるはずがなかろう」
「ですが、あのようなフォースを出した者は過去に1人もおりません。
想定でのテストは行いますが最終的には当人に使ってもらって試す他ないかと……」
「シュリ、その件は私がドルトルと検討しておくから先に話をすすめよう。
続けてくれ、ドルトル」
グリーンゲートのペトロが会話に割って入った。
ドルトルは汗をぬぐいながら報告を続けた。
今まで確認されていたフォースは、なんらかの刺激で対象者の未稼働の脳が動いたことで出力された。
だがユウキのダガーが反応した際は、未稼働の脳の表面に電気信号が走った形跡が無かったことから、既にあるニューロンネットワーク上にインパルスが一斉に流れた結果、発生したフォースであると開発部は結論づけた。
他のPT戦でフォースが確認できた者が数名いたが、いずれも未稼働の脳がわずかに動きフォースが出力され、出力先の武器で問題は起こらなかった。
ユウキのフォースはまだ未確認だが種類も違うはずで、しかも想定外の数値だったために起きた問題だとドルトルは言った。
異常判定になってしまったためそのときの神経伝達物質とレセプターの動きのデータが取れなかった。
そのためデータ集積用の回路も早急に手直しをすると報告をした。
「レッドフォースの防具に関しては、何の反応もなく……というか、何かが伝わったデータが取れませんでした。
エネルギー伝達経路に不具合がないか回路の点検をしており、問題があればすぐに直し、チップの置き換えを行う予定です。
取り急ぎ、報告は以上となり資料やデータはすぐにお送りいたします」
「お粗末だな」
シュリが掃いて捨てるように言った。
「も……申し訳ありません」
大きな体のドルトルが身を縮こまらせ小声でそう言った。
「我々の計画のために大金をかけたゲームを仕込んだんだ。
データもまともに取れなかったのか。
本戦が始まる数日前でこの状況とは……残りの計画は大丈夫なんだろうな」
モニターの中のシュリは表情を変えずにきつい言葉をならべた。
「シュリよ、あまりうちのものをいじめないでくれ。 申し訳なかったな。
私からも謝るよ」
「ぺトロ氏にそう言われたら返す言葉はないが……」
「そのユウキという者の未稼働の脳が動けば、もっとすごいフォースが確認できると思います。
ですが未稼働の脳を動かすための刺激を探すにはまだ時間がかかります。
先行して、その者のフォースとうまく連動できるような新世代ダガーの改良を行おうかと思っております。
ご理解いただければの話ですが」
「わかった了承しよう」
「ありがとうございます。
それと販売予定であるチート対策用ソフトのテストの件ですが。
現在流行している3種類のチートチップを装着させた者をまぎれこませてテストを行ってきましたが、そのうちの2種類を当社のソフトで検知することができました。
チップを入れたものと調査員を同じPTにしておりましたので、データの収集もうまくいきました」
「まだあと1種類が検知できないのか。
仮に本戦までに検知出来なかったらどうなる」
「そうなればチート探索ソフトの販売は延期になります」
「それは了解した。 手は尽くしてくれ」
「承知いたしました」
「それとなシュリ。
レッドフォースはボス戦の戦利品だったが、解放して誰でも選択できるようにする。
本戦までにもっとテストをしなければならなくなったからね。
戦利品が出せなくなったからその代わりにポイントを支給する。
実は今、グリーンゲートの庭園に新しいブースを作っている。
今あるエッグのうち200機を少し改良して、屋外イベント場に今夜中に設置するつもりだ。
全部で500機あるから、今の場所でのバトルボックスも継続できる。
屋外はテスト稼働が終了すれば明日の午後には使えるようになるだろう。
そして本戦までには、もっとド派手ですばらしいステージにしておくよ」
両手を広げながらぺトロはうれしそうにそう言った。
「はあ、それは構いませんが、そこまでする目的がわかりません」
「目的か……。
自然の中でレッドフォース装備を使用させたいのさ。
本人のエネルギーばかりではなく、まわりの生命体のエネルギーを利用出来る者がいるかも知れないだろう?
私は緑があふれる世界を取り戻したいのだ」
「言っている意味がわかりません……」
モニターの中のシュリはあきらかにいらだっていた。
「未稼働の脳域を動かせる刺激を見つけることができれば人類の進化は恐ろしく進む。
しかもそこに別の生命体のエネルギーまで利用できるとなれば、PW-21でほとんど失われてしまった自然を復活させるという考えもでてくる。
と、ここまでは私の希望……目的だ。
君を納得させる目的だが。
本人のフォースと、取り込んだ他の生命体のフォースを完璧に出力できる仮想武器が成功すれば、それだけでも業界で一歩先を行くことになるし市場も広がる。
そして現在注力している、脳波を直接武器に伝える、現物の未来武器の開発にも応用できる。
まあ外界のエネルギーを取り込める者が出るかはわからないが。
可能性があるなら試してみる価値はあるだろう?」
「市場が広がり、現物の武器の開発にも応用できる……か。
外界のエネルギーを取り込める者……確かに試してみたいですね。
仮にそんな者が現れたとして、現物の未来武器の開発の幅が広がるのであればサンジェスト様も喜ばれるでしょう。
PW-15を見据えるとそこは重要です。
いつもながらペトロ氏と話すと、ぶつけたかった物を持ち帰らねばならないような、妙ないら立ちを覚えますが……お考えはさすがというほかない。
わかりました。今回の報告書と先の計画についてはデータを送ってください」
◇
気が付くと、ユウキはベッドに寝かされていて、拘束はされていなかった。
そばにミナトともう1人女性が立っていた。
「気が付いたね、ユウキ。ニーナ少し席をはずしてくれないか」
「わかったわ」
ユウキをみて心配そうにはにかむミナトがいた。
「気分は悪くないか? 頭の痛みは?」
家族でも友達でもなく、出会ったばかりのはずのミナトだが、本当に心配してくれているのがユウキに伝わった。
(やっぱりミナトさんのことを俺は前から知っている……でもそれがいつだったのか思い出せない)
「大丈夫です。
手が……手が焼け焦げたように痛くて、ミルズに刺されたことよりそれが耐えられなかった」
そう言いながら自分の手を見るが当然、傷なんかついていない。
(あんなに痛かったのに……)
「そうか……ちょっとしたシステムの不具合だそうだ。すまなかったね」
「いえ……。 あのミナトさん……前にどこかで」
ピンッという電子音とともにミナトの横のモニターが開き、女性の声がした。
「2人が来ましたが入れてよろしいですか?」
「ああ、通してくれ」
自動ドアが開くと、ユウキをみつけた春香が走ってきて抱き着いた。
そしてそのうしろには大野悟が立っていた。
「あ……あぁ……」
ユウキはただ息を吐くように声をだして涙をこぼした。
春香も一緒に泣いて、悟は腕を組んでそのようすをほほえみながら見ていた。
感情のかたまりが小さな声と涙になって外に流れでて行く。
みっともない自分をさらけ出してしまったような恥ずかしさがあった。
でも抱きしめてくれる春香に今は甘えていたかった。
ユウキは気付いていなかった、こんなにも自分が張りつめていたことに。
ミナトが、ユウキと春香の頭に手をおいてほほえんでいる。
「アンコ、起きなさい。頼みたいことがある」
ミナトが唐突にそう言うと、出窓のスペースに置かれた鉢植えやフォトフレームのそばにあった球体が浮遊しはじめた。
浮いた後、すぐにミナトの後方へ飛んできた。
「アンコ起きました。 ミナトおはよう」
と、電子的な音声が流れた。
「プッ……アンコって。もうちょっと未来っぽい名前なかったんですか?」
春香のその一言で、ユウキの泣き顔は笑顔に変わった。
「まあそう言うな、結構気に入ってるんだぞこの名前。
ユウキ、体調が大丈夫そうなら、3人で町へ行くといい。
警護……というか見張りのアンコが付いて行くけどね。
買い物をしたい時は身分証を出せば支払いはすべて終わる。
わからないことはこの子に聞くといい」
アンコがミナトの頭上を右に左に飛び回っている。
「おお! 行っていいの!? ユウキ、ハル行こうよ!」
悟はうれしそうにそういった。
「うん……いいけど。 ユウキの体調が大丈夫なら」
春香が心配そうにユウキを見た。
「大丈夫。 行きたい……行こう!」
「よっしゃー!」
はしゃぐ3人をミナトはほほえみながら見ていた。
(ミナトさん……いつどこで会ったのか聞きそびれてしまったけど、次の機会に絶対聞いてみよう)
大野悟はサトルのままで、春香は表示名をハルにしたからそう呼んでと言われた。
3人はアンコと一緒に部屋をでた。
カプセルカーに乗るため、アンコの案内で、今いるグリーンゲート社の屋上にある出発ロビーへ向かった。
21の世界には5つの国があり、全てを統括する国はセントラル国と呼ばれた。
世界全ての行政制度、運営に関する政策などはセントラルで練られ、国毎の役割が決定される。
宇宙以外の時空に関する研究や運営を行う施設や企業はセントラル国に集中している。
その中でも国の中枢となる公の機関や関連施設、企業などの特区がある都市はメインパレットと呼ばれていた。
メインパレットは特区と1~30までの街区に分かれていて、グリーンゲート社は特区内にあり社屋や職員の住まいが全て同じエリアにある。
特区の住居施設には何もかもそろっているが、他の施設や社屋内にはカフェや軽食の店しかない。
特区は主に国に関わる機関や企業、他の街区は企業の種類や商業施設の形態などにより付番されていて、街区ごとにカプセルポイントと呼ばれる駅がある。
ただし特区の企業は独自にカプセルカー乗り場を持っている。
カプセルポイントのビルとその周辺には飲食店や商店はあるが、複合商業施設や人気のレストランなどは10~12街区と場所がきまっている。
カプセルポイントで用事を済ませる人も多いが、デートや遊びに行くときはまずブランチポイントへ行き、そこから目的の街区へ移動する。
遊園地なども10~12街区にあるためもっとも混む路線だ。
3人は複合商業施設や遊園地のある12街区へ行くことにした。
アンコ情報によると、12街区にはワールドゼロから来た人たちのゼロタウンがあるとのことだ。
グリーンゲート社の屋上フロアには展望エリアとカプセルカー乗り場、待合ラウンジなどの案内板があり、カプセルカー乗り場へ向かった。
チケットを購入する必要はなく、ホームへ入って来たカプセルに乗り込むだけだ。
1つのカプセルで20人ほどが乗れる。
片側の側面にだけ椅子があり、会話は厳禁でみんな手元のモニターを見つめている。
(なんかスマホ見てるのと変わらないな……)
揺れは少ないから普通に立っていられた。
全面が透明のカプセルカーからは外の景色がよく見える。
(施設の形がほとんど同じだ。
それに明かりがあまりない……なんでだ)
見たことのないようなド派手なネオン街を期待していただけにユウキは少しがっかりした。
道ぞいに店はなく、全て建物の中にある。
商業施設の中は活気にあふれていそうだが、外からは反射する外壁のパネルで何も見えない。
だがゼロタウンに入ってその風景は一遍した。
そこにはもとの自分たちの世界があった。
オープンカフェの外に並べられた椅子、漏れる店内の明かり、そこで談笑する人達。
屋台もあって、犬を連れている人もいる。
(うわぁ、テンションあがる!)
「なんか普通!」
思わずそんな言葉がもれた。
「うん、これがいいね!」
ハルも嬉しそうだった。
「だろ? やっぱこれだよ!」
(え?……サトルここを知っていたの?)
「東京エリアもあるんだ、そこへ行って……」
「ちょっとまってサトル。 ここへ……来たことがあるの?」
ユウキはサトルの服をつかんだ。
「あ……サトル、ユウキはまだ知らないんだよ。ちゃんと話さないと」
「なに……ハル、どういうこと?」
「んとね、サトルは去年も参加してるんだよね……椅子取りゲーム」
「えええ!」
サトルは頭をかきながら、少しため息をついた。
そしてチラッとアンコを見て、指でさしたあと何かを言いかけてやめた。
「まあいいや、飯でも食いながら全部話してやるよ!
知り合いの店があるから、とりあえずそこへ行こう」
うながされるまま、案内された店に入ると、店のカウンターにはお酒をのんで、すでにできあがってる感じの大人たちが楽しそうに騒いでいた。
店の奥の方にテーブルも見えたが、どこも人でうまっている。
カウンターの中の人はサトルが入ってくるなり、顎で左の方へ行くように合図をした。
サトルは黙って左隅にある細い階段を上り2階へあがった。
ユウキは2階へ上がって驚いた。
2階は完璧に未来の部屋で、グリーンゲートの施設のような無機質な感じの造りだった。
「さっきの場所の方が食べ物がおいしくなりそう」
「プッ……」
そう言うハルのセリフにユウキは吹き出した。
「この辺りの店はみんなこんな感じだよ。
ワールドゼロエリアは1階の店舗をオープンにしていいことになっているんだ。
2階はみんな未来型。
この町の雰囲気を味わいに来るPW-21の人も多いよ」
そう言いながらサトルは慣れた手つきでテーブル横のパネルから何かを注文していた。
「さて、アンコがいるから話しづらいけど、ミナトさんなら聞かれてもいいかな。
どこから話そうか……」




