仮想の夜空に(1)
21へ戻る待機者はセンターコロニーにある宿泊施設でワームホールが開くのを待っていたが、次のシップには乗れないと宣告された。
ただしその次の船へは、現在希望している人数が定員以下のため、全員乗れるとのことだった。
なぜ次のシップに乗ることができないのかその理由を気にとめる者などいなかった。
そのシップにはイライザの棺が入れられるため、全ての手はずは極秘裏に進められていた。
マッケンやミナトとともに、シイカの側近のハクヒもそのシップで21へ帰る。
特にやることもなく町中の噴水の縁に腰掛けたユウキは、王宮を見つめた。
王宮の周りを囲う壁の上に見えるドーム型の屋根は、コロニーのどこにいても目に入る。
(何もしていなくても21へ帰る日が近づいている。
やり残したことは……)
ユウキは立ち上がると王宮へ向けて念を飛ばした。
『リーシャ……リーシャ返事をして』
リーシャの波長を王宮に感じていたユウキは頻繁に呼びかけるが一向に返答がない。
何か事情があるのだろう、王族としてのつとめで手が離せないのだろうと、自分を納得させる理由を探した。
ネオ21の後始末の段取りをあらかた済ませてきたサンジェストとシュリはセンターコロニーへ戻った。
ジャッジビー国は当面アッシビー国が世話を焼くことになったが、君主制ではないジャッジビーの代表を早い段階で決める必要があった。
15の世界の発展に尽くしたベーカー博士を、初代の国王にすげることで各国は合意し、それをベーカーに伝えた。
渋っていたベーカーだったが、ある条件を了承してもらえるなら、なってもいいと返答をした。
条件とは、マッケンが15に戻った際に、ネオ21とグリーンゲート社をマッケンに渡すというもの。
ベーカーの娘であるシイカも、グリーンゲートを引き継いだ当初から、グリーンゲートは預かり物で、返すべき人が現れれば返すと言っていた。
センターコロニーに戻ったばかりのシュリに呼び出されたユウキとサトルは、アークエンジェル社の支社へ出向いた。
部屋にはレミとルイバディも来ていた。
「君たちに頼みがあってね。
1週間後に開かれるちょっとしたゲームに参加してほしい。
次のシップに乗れないことは承知していると思うが、その次のワームホールは1週間と待たずに開くだろう。
ゲームに参加するならそのシップにも乗れないから、21へ戻るのが先延ばしになってしまう。
嫌なら断ってもらって構わない」
唐突な申し出に少々戸惑いはしたが、それに参加するならまだ15にいられる。
先の身の振り方を、もうしばらくこの世界で考えたかったユウキにとっては願ってもない誘いだった。
シュリが言い終わるタイミングで、側仕えが部屋のモニターのスイッチを入れた。
「そろそろか……。
部外者には見せない会議なんだが、サンジェストから君たちにも見せるようにと言われてね。
参加している者たちは、見られていることは知らない」
映し出されたのは各国の軍関係者がモニター会議を行っている様子だった。
サンジェストが議長で、映像の下部には参加者の国名と名前が書かれていた。
フリカ国モーリン、サイファス、ジャッジビー国チャボウ、アッシビー国ガザ、ラシア国フランコ。
「集まっていただき感謝する。
昨日連絡をした通り、アッシビーとラシアの司令官に参加を依頼した。
フリカ国もモーリン司令官にサイファス部隊長と共に席についてもらうことを頼んだ。
茶の砦はもともと総司令官がいなかったそうだから、チャボウ部隊長だけの出席となった。
サイファスとチャボウのケンカ決着に、アッシビー、ラシアは関係ないが、私の一存でそうさせてもらった」
「ガザもフランコも一緒にオデッセイ作戦に参加した仲間だ。
サイファスとチャボウのケンカであっても作戦中に起きたことだしな」
モーリンが言った。
「誘ってもらえてうれしかったよ。
VRゲームに関しての興味も大いにあるが、21の政府がイライザの問題解決の全権を預けるほどのサンジェストの采配を見てみたかった。
邪魔はしないから見学させてくれ」
ガザが言った。
「期待してもらっているのに悪いが、今回のゲームは勝敗を決するというよりも、エキシビション的に行う予定だ。
だから正式な勝負とは少しニュアンスが違うし、ケンカの決着はつかない。
ゲーム施設の設備がまだ不十分だという理由もあるが、未経験者の戦士が多いから練習を兼ねたものにする。
武器や防具もフォース装備ではなく通常装備で、より実践に近い形での戦い方になる。
ゲーム自体はとても簡単な仕様だから手応えはないかもしれないが、一応部隊ごとの順位は決まる。
満足できないと思うが、半年後にゲーム施設が整えば、希望する戦いを行うことができるし、私が責任を持って取り仕切るから、今回はこの企画にのってほしい」
「まあ、試すという意味で参加する価値はある。
納得できなければ違う勝負の仕方を考えればいいだけだ」
モーリンが言った。
「理解してくれてありがとう。
提案があるのだが、新生国軍からも隊を参加させたい。
ラシアやアッシビーも良かったら参加しないか?
フリカとジャッジビーの了解を得られればだが。
了承できなければ遠慮なく言ってほしい」
「おお、もし可能であればアッシビーも是非参加したい。
置いて行かれるような気がしてならなかったんだ」
ガザが言った。
「参加してもいいならラシアも是非お願いしたい」
フランコが言った。
「面倒くさいな。みんなでやればいいじゃないか。
予行練習みたいなものなんだろう?」
チャボウが言った。
「フッ……ありがとうチャボウ。 異議なしとみてよさそうだね」
モニター越しにみんなうなずいた。
「では、5カ国から1部隊ずつ選出で1週間後にゲーム対決だ。
ゲームチップの装着や検査があるから、2日前までに参加者を新生国へ送ってほしい。
そのことも含め、詳細は今日中に連絡する。
ゲームの内容だが……ゲーム開催日、その場で理解してほしい。
なぜこういう企画にしたのか、その答えはゲームの中にある。
以上だ。私の提案にのってもらえたこと、感謝する」
シュリはモニターを切るとユウキたちの方へ顔を向けた。
「そういうことだ。
もし参加してもらえるなら、君たちは新生国の部隊で参加することになる」
ユウキは参加したかったがサトルの考えが読めずシュリに返答できずにいた。
だが当のサトルは、ためらいなく答えた。
「俺は参加してもいいよ。久々だなあ、ゲームするの」
サトルに遠慮して答えをためらった自分がおかしかった。
「俺も参加します!」
シュリがニッと笑った。
「そうこなくてはな。ありがとう」
ゲーム参加までの流れは案内が来たが、詳細は当日発表とのことだった。
――1週間後
アークエンジェル社屋のエッグブース近くの待機部屋に、ゲームチップの埋め込みを終わった各国の兵士たちが一堂に会した。
初心者にはステータスの振り方の指導も行われ、理解できていないまでもゲームをする準備だけは整った。
開始1時間前に、部屋のモニターにゲーム情報が公開された。
ゲーム情報
開催地 新生国内(アークエンジェル社)
開催日 6月16日
ゲームの名称 未公開(ゲーム開始時に発表)
参加国 ラシア(白組)フリカ(黒組)アッシビー(青組)ジャッジビー(茶組)新生国(赤組)
シンボルマーク ラシア(クロスした剣)フリカ(ハチ)アッシビー(ワシ)ジャッジビー(ヒョウ)新生国(太陽)
参加人数 1部隊20名まで
ゲーム時間 40分
優勝賞品 優勝した組全員に最新鋭のフォース装備一式
《装備品》
【武器】
1 ソード (片手用、両手装着可)
攻撃力250 氷魔法付与可 持久力+10%
2 ボーガン (片腕用、両腕装着可)
攻撃力150 炎魔法付与可 持久力+20%
チャージ10秒
※武器は組み合わせ可能
【防具一式】
1 装備名:若葉の装備(初心者向け)
防御力300回避率40%ダメージ減少40% 隠れステータスなし
【終了判定】
・討伐完了かゲーム時間が40分になった時点で討伐エリア閉鎖
【その他】
・装備品の色は組ごとに分けられております。
・配布品:ホバーボード(飛行上限10M)全員へ配布
・回復塔 設置済み(破壊不可)
・死亡回数 無制限(死亡時、復活までのインターバルは30秒)
エッグブースに隣接する施設の中に作られた、急ごしらえの観戦ルームではフリカ国モーリン、アッシビー国ガザ、ラシア国フランコらが席についてモニターを見つめていた。
観戦ルームの中には16台のモニターが並び、ゲーム内の映像がさまざまな角度から映し出される。
人や場面のクローズアップも行われ、ゲーム開始や終了時のエッグブース内の様子を見ることもできた。
サンジェストとシュリは運営ブースの中にいた。
赤組の部隊長はレミで部隊にはサトル、ルイバディの他、ベルベット、キンジャル、エイデンもいる。
他は21の政府から送られた国軍のメンバーで、15へ来て新生国軍になった者たちだった。
エッグブースに入るためエントリーゲートまで来たユウキはうれしくて仕方なかった。
数カ月前にはゲームに一喜一憂していた自分がいた。
あの高揚感と感動がまた味わえるのかと思ったら涙ぐみそうだった。
各国の未経験者たちが緊張した面持ちでうろつく姿をみると、始めてゲームに参加したときの自分を想いだし、思わず笑みがこぼれてしまう。
「余裕だなユウキ」
ユウキの表情を見たサトルが肘でこずいた。
「最初の頃の俺を見てるみたいで、なんか懐かしくなった。
あのときはレミのPTに拾われて、いろいろ教えてもらった。
ほんと助けてもらったんだ。感謝してる」
「おお、ちゃんと覚えてたんだね、えらいえらい」
レミがユウキの肩をポンポンとたたいた。
エントリーゲートでレミが申請を行いメンバー全員に参加許可の通知が届く。
待機場に入ると21同様、黄色い5つのエッグと1つの管理者の椅子に囲まれた、白い丸テーブルが並んでいた。
1組20名なので4テーブル使用することになる。
告げられた番号の待機テーブルには、すでに管理者が立って待っている。
ユウキのテーブルのメンバーは、サトル、レミ、ルイバディとエイデンだった。
「このテーブルの管理をさせていただきます。よろしくお願いします」
管理者が挨拶をした。
「よろしく!」
メンバーは、挨拶をしながら手の端末をはずして管理者に渡す。
新生国の参加者は全員VRゲーム経験者だけに指図されずとも手順は心得ている。
「お預かりします。充電とメンテナンスもやっておきます。それでは席におかけください」
テーブル上部には大型のモニターが吊り下げられ管理者はその正面に座っていた。
エッグに座ると前面にシールドがおりてエッグごと蓋をされる。
上半分が半透明なためもう周りは見えない。
ゆっくりとエッグが後ろに傾き、すっぽりとはまり込むような状態になった。
手の形の電光表示がある場所へ手を置くようメッセージが流れ、手を置くと両腕に金属の輪がまわり固定される。
頭をささえるように頭部に接している部分が、小さな振動とともに左右に揺れそれが止まると、頭を囲い込むような圧迫感がして固定が完了する。
エッグ前面の視界に入るすべての部分がディスプレイ化したが、この状態ではまだパソコンのモニターと変わらない。
そこに管理者やPTメンバーの顏、そして個人の能力値などが表示された。
「ご搭乗ありがとうございます。
出発まであと20分です。
これよりサンジェスト様から説明がございます」
モニターのメイン画面にサンジェストが映し出され、メンバーが映ったモニターはそれを囲うように端に配置された。
「諸君、まずはゲームへの参加を感謝する。
未公開になっていたゲームの名称は『全ての魂に安息を』。
ワイトの問題が起きてから、早すぎる死を迎えた人たちが大勢いた。
その魂が安らかに眠れるように祈りを込めてこのゲームを企画した。
簡単なゲームだが諸君らの思いの丈をここにぶつけ、これからは救出の種をつかった人名救助に助力してもらいたい。
今日が区切りだ。
うらみつらみは捨て、全ての国が協力し合い、15の世界を早く立ち直らせてほしい。
以上、見当を祈る」
雑談に興じながらモニターを眺めていた観戦ルームの司令官たちは、サンジェストの話のあとしばし黙り込んだ。
エッグに入っている兵士たちの中には涙を流す者も多くいた。
(そうだ、区切りがついたんだ。サンに言われて始めて実感できた。
ワイトが湧いた最初のころから戦い続けてきた兵士たちは、ほんとうに救われたんだ。
永遠に続くんじゃないかと思われたこの戦いに区切りができて、あとは救出に尽力すればいい。
今日もよくやったと言われるより、今日で区切りがついたと言われる方がどんなにうれしいか。
この世界を多少垣間見ただけの俺なんかにはわからない、こみ上げるものがきっとある。
救出することも命がけになるから、それもまた戦いで、まだ何年も続いていくだろう。
それでも解決できる答えは出ている。絶望は消えたんだ)
「おいら感動して涙がでた」
ルイバディが鼻をすすりながらそう言った。
「そうだね、胸が熱くなった」
エイデンが言った。
「ゲームの内容の説明はなかったね。名前からも内容が想像できない。
椅子取りゲームみたいに単純な名前ならわかりやすいけど」
部隊音声で誰かが言った。
「終了判定に討伐の文字が出ているからモブがいるんじゃないかな?
初心者ばかりだから対人戦はないと見ているけど。
まああれだ。勝敗は考えないでほしい。
今回花をもたせるのは15の世界の兵士だ。
我々は場を盛り上げることと、サポートに徹する。
その辺だけはわかっていてね!」
レミが言った。
「了解!」
一斉に大きな声が飛び、部隊音声は割れるほどだった。
(やっぱレミはかっこいい!)
久々にいさぎの良いレミのセリフを聞いたユウキはうれしかった。
『出発まであと10分となりました』
アナウンスが流れた。
「これよりゲーム仕様についての補足説明をさせていただきます。
対象モブは1体。
全員でそのモブを攻撃し、与えたダメージの数で順位が決まります。
ダメージ量ではありませんので手数が多いほうが優位となります。
仕掛けがいくつかありますので、方法を探りながら討伐を目指してください。
なお、参加する全ての組へ向けた全体音声が使用できるのは各部隊長だけとなります。
それでは、入場準備にはいりますのでミーティングをどうぞ」
管理者が画面から消えた。
「じゃあ手短に。
討伐方法が不明だから全員それを探すことに集中!
わかったら部隊音声で教えてね。全体音声で他の組へ流すから。
ゲーム初心者には一般音声での指導もお願い」
「了解!」
(始めてダイブしたときは、本当に死んでしまうんじゃないかと何度も思った。
それほどリアルで、体の痛みも結構あった。
今は……戦いにも痛みに対してもなんの恐れもない。
むしろ早くゲームがしたい。
何が待っているかわからない空間に、仲間と一緒にダイブしたい。
こんなに熱くなれることは他に知らないし、これからも見つからないだろう。
俺にとってこれが最後のダイブになるのかもしれない。
思い切り楽しんでやる!)




