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決着の付け方


 解放軍や新生国軍の兵士たちは自国へ帰り、茶の砦の兵士たちがサンジェストの指揮のもと後始末にあたることになった。

 フランコとリーシャがラシア王宮へ帰るヘリに、ユウキたちも同乗しセンターコロニーへ向かった。

 ケガの経過が芳しくないイライザはネオ21から動かせなかった。

 ミナトもネオ21に残っていたが、サンジェストやシュリの前に顔を出すことはなかった。


 イライザの病室を誰かがノックし、世話係が少しドアを開けると部屋を警護する兵士が敬礼する姿が見えた。

 兵士の前には赤い軍服に身を包んだサンジェストが護衛をつけずに1人で立っていた。

 世話係は慌ててドアを開けると、胸に手を当てて頭を下げた。

「イライザは目を覚ましているか?」

「はい、起きていらっしゃいます」

「話は出来る状態なのか?」

 サンジェストの問いに世話係が答えようとしたそのとき、部屋の中からか細い声が聞こえた。


「その声は……サンジェスト?」

 サンジェストは世話係を押しのけて部屋に入った。

 足音とともに花の良い香りが部屋に漂う。

 頭の方を斜めに傾けたベッドに、力なく横たわるイライザの目や頭には包帯が巻かれ、顔や手には青黒いアザが見える。

 サンジェストは言葉が出なかった。


 世話係はサンジェストの後ろからイライザに声をかけた。

「イライザ様、医務官のところにいっているミナト様がそろそろ戻る頃ですので、私はこれで失礼いたします」

「わかったわ……ありがとう」

 世話係が出て行くと、サンジェストはベッドの脇の小さなテーブルに花束を置いた。

「いい香り……」

「さっき庭園で摘んできたんだ。こんな間近で話をするのは久しぶりだね」

「そうね、前がいつだったか……覚えていないわ」

 イライザには生気がなかった。 生きることをあきらめているように見えた。

 罪をかかえて生きるより自死を選んだイライザに、再び生きる力をもたせるには時間がかかる。

 命を使わなくても罪を償う方法があることを教え、納得させるのはミナトの務めだと思った。


「ミナトがずっとそばにいたんだね。

 これからも君から離れないだろうから、思い切り頼ればいい」

「一緒に……、罪を背負うって、そう言ってくれた」

 イライザの口元が少し笑った。


「私は……復讐を決意したそのときから、死ぬことを目指していたような気がする。

 ずっと死にたかったのかもしれない。

 死んだら父に会えるかも、なんて、どこかで思っていた。

 不思議よね……死んだら元には戻れないのに、飛び降りる直前まではやり直しが出来そうな気がした。

 本当は、戻ってこれないのに」

 サンジェストはゆっくりと歩いて窓を開けた。

 吹き込む風がサンジェストの金色の長い髪を揺らす。


「風が心地ちいい。実に良い日だ」

 ゆるやかに部屋に流れ込む風が部屋のよどみを流していく。

「ほんとうに……気持ちがいいわ」


 サンジェストはイライザを見た

「イライザ、自分をあきらめちゃだめだ。

 今度死にたくなったら、僕に声をかけてよ。

 VRゲームをしよう。

 楽しい仲間たちを集合させる。

 一緒に仮想へダイブしよう」

 窓際で満面の笑みでそう話すサンジェストの姿が、目の見えないイライザにも見えた気がした。

 ほほえんだイライザは、小さくうなずいた。

 ドアが開き、ミナトが部屋に入ってきた。

 一瞬驚いた様子のミナトだったが、サンジェストと目を合わせると、目をうるませて笑った。



 ワイトの種を作らせたイライザの罪が立証され、加担した貴族らは拘束され、刑が執行されるまで監獄塔に投獄された。

 自分たちが悪用してきた施設に自ら繋がれてしまう結果になった。

 ワイトになった人々を救う作業が各地で本格化し、救出の種の製造も急ピッチで進められている。

 事件が収束に向かう中、ラシア国へ非難していた王族と取り巻きの貴族たちは自国へ帰る算段をしていた。

 アッシビーとフリカ国の王族復権にともない、解散となる解放軍の兵士たちは、今度は国軍として国を守っていく。

 ラシア国から王府はなくなり、もとの国の姿に戻った。


 茶の砦の処分については、青と黒の砦の代表者から罪を問わないよう嘆願書が来ていた。

 砦同士の諍いはVRゲームで決着をつけるから、解放軍でないものが口出しをしないでくれとの申し出もあった。

 しきり役がアークエンジェル社ということもあり、各国はなりゆきを見守ることで合意した。


 ラシア国の王宮では謁見の間で王と子息、政府の重鎮や貴族たちが一同に介していた。

 王府政府に変わってから一度もなかった、ラシア国王への謁見だった。

 そこで王が予想外の発言をする。


「私は退任する。王位はリーシャに譲りたい」


 そこにいた者たちは一瞬驚いた表情を見せたが、互いに顔を見合わせると小さくうなずき合っていた。

 みなリーシャが適任であると思っていたからだった。

 ルイバーたちに逆らえず14歳のリーシャを国の代表として送り出すことを止められなかった自責と、今回のめざましい活躍の両方を考えてのことだった。


 焦ったリーシャは前に進み出た。

「王になるべきはお兄さまです!どうかお考え直しを!

 お兄さま何か言ってください!」

 リーシャの言葉に兄は何も言わずうつむいた。

 14歳で21の世界に送られたとき、リーシャは断る術など知らず、守ってくれるはずの王は何もしてくれなかった。

 今度は15の世界で王になれと言われ、リーシャがそれを望んでいないことを誰もわかっていない。

「また……私はまた……」

 リーシャは走ってその場を後にした。


 監獄塔に収監されている貴族たちに極刑を求める声が多く、近々刑が執行されるとネオ21に残っているサンジェストの耳に入った。

 サンジェストは命を取ることが罪を償うことにはならないと、財産を没収したのち平民にした方が罰を与えることになるとラシア国王に進言した。

 結果、捕らえられた貴族たちは監獄塔から無一文で放り出され、監獄塔は解体された。



 数日後、イライザは帰らぬ人となった。

 丸1日部屋から出てこなかったミナトがシュリの執務室に現れた。

「サンもここにいるって聞いたんでね」

 目を腫らしてはいるものの以前と変わらぬ笑顔でミナトが言った。

「やあ、ミナト」

 ミナトの姿を見たサンジェストはごく自然に声をかけ、チラッと目を向けたシュリは書き物を続けていた。

「ワームホールが開いたそうだ。

 48時間以内の出発になる。

 マッケン様は21へ戻るそうだが、君も行くのか?」

 シュリはそう言うと手を止めてミナトの方へ顔を向けた。

「そのつもりだ。21へ帰るって、イライザと約束をしたのでね」

 ミナトはイライザの言葉を思い出していた。


 ――「ねえミナト。いつか一緒に21に行きたい。それが叶ったら、私はここへは2度と戻らない」


「そうか。イライザの棺はマッケン様と、じきにここを離れる。

 同行するなら君も急いだ方が良い」

 シュリが言った。

「ああ、ここを立つ前に、君たちに挨拶がしたかった」

 そう言ってミナトははにかんだ。

「挨拶なんて……。またすぐに会えるさ」

 サンジェストが窓の外を眺めながら言った。


「黙って15の世界に立ったその日からずっと、君たちに会うのが怖かった。

 私は情けない人間だ。

 いろいろと迷惑をかけてすまなかった。

 イライザのこと……21へ連れて行く許可を取り付けてくれて、ありがとう」


 イライザの棺を21へ送ることは、全ての国の政府から反対されていた。

 この世界で決着をつけるためにも、罪人として15で灰にすべきだとの意見がほとんどだった。

 サンジェストはモニター会議で各国の政府代表者を説得した。

 交換条件として、アークエンジェル社が各国に無償でエッグブースを作ることで合意した。

 VRゲームは次世代の公が認める賭け事になる。

 ゼロで行われている競馬や競艇と同じように、政府の財源確保にかかせないツールになる。

 開催施設を無償で提供してもらえるなら、起きてしまった事件のすでに命を失った罪人の体には、正直どの国も大して興味があるわけではなかった。


「ミナト、また海賊ゲームをしよう」

 サンジェストが言った。

 驚いたミナトは大きく目を見開き、その目からは涙がこぼれた。

「ああ……必ず」

 ミナトは袖で涙をぬぐい部屋を出て行った。

 窓の外を眺めたままのサンジェストを見つめるシュリはフッと笑った。


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