罪と罰(1)
マッケンの脱獄が成功すれば、すぐにネオ21へ乗り込む計画だと聞かされたフランコは、王府軍としての立ち回り方を考えた。
味方となっている青と黒の解放軍の砦と、どっちつかずのままの赤の砦へ使者と技術者をすぐに送った。
各砦に王府軍専用の衛星回線が繋がれ、モニター越しの会談をいつでも行えるようにするためだった。
21でのイライザの罪は、WHSの不法使用、シップの持ち出し、拉致など複数ある。
15での罪はワイトの種を作ったこと、この一点だけで極刑にできる。
細かい罪を挙げればきりが無いため、フランコはこの嫌疑を罪として認めさせることができれば良しとした。
ルイバーたちに関しては証拠をでっちあげてでも極刑にするつもりでいた。
フランコがモニターの前に座り、各砦の代表者も席に着いた。
青の砦ガザ、黒の砦モーリン、赤の砦ブルーノ。
「こうして解放軍の指揮官たちと顔を合わせる日がこようとは、感慨深いな。
王府軍最高司令官のフランコです。
まずは会合に参加してくれたことを感謝します。
使いの者から大まかな説明は受けていると思いますが、イライザとの直接対決の前に礼儀として貴公らに、直接話をする必要があると思いこのような形をとりました」
「解放軍の我々に王府軍の最高司令官が敬語とは。
殊勝なその態度1つで貴殿の器量が測れる。
直接対決か……。
いずれそういうことになるだろうと予想はしていたが、思ったよりも早かったな。
王府軍は部隊をださないそうだが、なぜかね」
解放軍統合司令本部、総司令官のガザが言った。
「私と側近のもの数名は出向きます。
イライザは21で罪状が確定している犯罪者です。
15では容疑者であってもまだ罪は確定していません。
21の政府が追っているわけですからそちらの邪魔はせず追随することにして、部隊を出すことは控えました。
その課程でワイトの種を作ったことが立証できれば、こちらの極刑対象にもできます。
ラシア国の王女であるリーシャに関しては、名目上は見届け役ということで同行します。
ネオ21へ侵入する日が決定すれば知らせますので、その前後に要人をネオ21には行かせないように願います。
それと決行日は王府軍や新生国の軍用機の往来を見過ごしてください。
こちらから伝えておきたいことは以上です」
ネオ21へ入るのは6月2日に予定されていたが、あえて日程は明かさなかった。
「そうか、わかった。
同行させてほしいのだが、可能か?」
ガザがそういうと、すかさず黒の砦の総司令官モーリンも口をひらいた。
「我々も同行する。拒否をされても見届けにいく!」
「同行していただくことは歓迎します。
リーシャ王女同様、あなたがたの同行する名目も見届け役ということにいたします。
相手がどう……」
そう言いかけたフランコの言葉を赤の砦総司令官ブルーノが遮った。
「私は傍観させてもらう。
イライザ様と王府軍、どちらが正しいか私にはわからない。
赤の解放軍は王府軍に下ったわけでもないしね」
太った赤の司令官は面倒くさそうにそう言った。
ガザとモーリンは、それぞれの国の国軍の指揮官だったが、ブルーノはただの金持ちで戦いにおいては素人だった。
「軍人でないものはわきまえていないだけでなく、状況の見極めもできん。
情けないことだ。ワイトになってしまったスリトアの王族が早く戻られることを心から望む。
そうすればまともな国軍も復活するだろう」
ガザは落ち着いた口調でブルーノを罵倒した。
「ふん、煽ればいいさ。別に腹はたたない。
優勢、優位、優秀なほうに私は与するんだ。
もしかしたらイライザ様が正しくて、王府軍壊滅なんてこともあり得るだろう?
まだどちらにつくかは決められないけど、君たちを裏切ることもしないよ。
だって王府軍が勝ったら、ひどい目にあわされてしまうからね」
フランコが近くの部下に何か指示を出すと、赤の砦の回線が切断された。
「さて、話の続きですが……」
何事もなかったようにフランコは話し出し、それを見たガザがニヤっと笑い、モーリンはフッと鼻で笑った。
「相手がどう出るかわかりませんが、戦わずに話し合いで決着をつけることをアークエンジェル社のサンジェストが望んでいます。
サンジェストは21の政府軍からイライザの問題を収めるため全権を委任されています。
サンジェストを守る隊は新生国軍。中身は全て21の政府軍です。
まだ15へ来ている21の政府軍は人数が少ないため、規模は小さいですが先鋭部隊だそうです」
「わかった。決行日が決まったら教えてくれ。
必要な兵の人数や機体の数、どこまで応戦していいかなど……。
まあ、我々に伝えるべきことはフランコ司令官が心得ているか」
ガザが言った。
「作戦の詳細は前日でも直前でもかまわない。
いかようにも対処できるよう準備を整える。
貴殿らの邪魔はしない。
静かに話し合いを進めるため王宮を包囲するのであれば、ある程度の人数はいたほうがいいだろう。
この話し合いがアークエンジェルの独壇場では無く、王女や青と黒の解放軍も一緒だったとなれば、世論への印象も違う」
モーリンが言った。
「確かにおっしゃる通り、解放軍に同行してもらえればイライザの罪の信憑性も高くなります。
実は……決行日はほぼ決まっております。
事前にかたづけなければならない問題があって、それに不備がなければ6月2日にネオ21に入る予定です。
今後は頻繁に連絡を入れます。
良いご意見を伺うことができました。
お2人に感謝いたします」
◆
マッケンの救出作戦が成功し、後始末をするための王府軍が監獄塔に到着したころ、フランコの代理がガザ、モーリンと回線を繋いでいた。
「フランコ総司令官はヘリに向かったので代わりにご報告いたします。
ヘリはもうじきセンターコロニーから飛び立ちます。
ラシア国のソウザ港近くにあるコロニーで1度燃料を満タンにしてから、6月1日の夕刻に黒の砦に入りますので燃料補給をお願いします」
フランコは燃料のことを事前にモーリンに依頼していた。
「新生国からのヘリも黒の砦に入るので、そこで合流します。
センターコロニーから出発するヘリは2機、内1機は医療用で病人が乗っています。
戦力は20名ほどで、新生国からのヘリは2機、総勢50名ほどです。
補給後にすぐ飛び立ち、6月2日の正午頃にネオ21王宮の包囲を決行します。
作戦名はオデッセイ、終了の合図は、一斉通知いたします。
なにをもって作戦終了とするのか、現時点では説明できないとフランコ司令官が言っておりました。以上です」
「あいわかった。
燃料補給時、医療用ヘリには我らの兵士も数名入れよう。
最後尾で安全に運行させるためにな。
フランコ司令官から言われた通り、ヘリは2機準備した。
兵士は60名、茶の砦の兵を押さえるため王宮の外堀を固める。
見届け役の体裁を保つには、少し兵が多すぎるな」
笑いながらモーリンが言った。
「我らもヘリ2機、兵士は50名。
時間を見計らって南下する。
ネオ21の都市の近くでそちらのヘリを待つ。
合流後、都市での駐機は臨機応変にいこう。
王宮の中に下ろせるのはせいぜい2機までで、1カ所に駐機させるのは無理だ」
ガザが言った。
「了解しました。司令官たちのお話は、もれなくフランコに伝えます」
オデッセイ決行日。
ネオ21の都市近くで待機していた青の砦のヘリは、南東の方角から向かってくる4機のヘリを確認し離陸した。
距離を縮めながら合流して6機はネオ21の王宮を目指す。
予定通り正午近くには王宮上空を席巻し、王宮の兵士たちが臨戦態勢に入る中、2機のヘリを降ろした。
他のヘリは上空で待機している。
ハッチが開くと、黄色と赤色の光を放ったユウキとリーシャが外に出た。
ヘリの来襲でたじろいでいる兵士たちの目の前に、今度は光を放った人間が2人現れたため、戦意喪失どころではなくすでに逃げる体勢に入っていた。
「戦いにきたんじゃない。イライザ様に面会を!」
ユウキが叫んだ。
1人の兵士が、走って王宮に入ろうとしたそのとき、王宮正面のバルコニーの扉が開いた。
そこにいた誰もが注目する中、露台に出てきたのはイライザだった。
ウィッグはつけずプラチナブロンドの髪を揺らしながら現れたイライザだったが、顔はいつもの無表情のままのイライザだった。
イライザの後ろからは太った背の低い男がチョロチョロと顔を出していた。
「シュリさん! イライザ様です!」
ユウキは叫ぶと同時に背負っていたホバーボードを外し、すぐに飛び乗ると上昇してイライザの近くまで行った。
「イライザ様、話し合いに来ただけです、戦うつもりは」
「ユウキ!」
バルコニーの扉付近にいたミナトが叫んだ。
「ミ、ミナトさん……」
力が抜けたユウキは、体の光が消えていった。
駆けつけた兵士がバルコニーの手すりに乗ってソードを振り上げユウキを叩いた。
ホバーボードから落ちたユウキは下の茂みに落ちていった。
「ユウキ!」
リーシャが叫んでユウキのもとへ走った。
「大丈夫、ちょっと油断しただけだから。ありがとうリーシャ」
「イライザ、話がしたい。 兵を引いてくれ。我々も手出しはしない」
シュリが上を見上げながら言った。
イライザは片手を前に出して、ゆっくりと周りを見回した。
兵士たちは構えていた武器を収めた。
青と黒の砦のヘリからは、兵士がロープで降下し王宮の壁の出入り口や外側を囲んだ。
司令官を乗せたままのヘリは少し離れた場所でホバリングを続けた。
新生国のヘリから降り立った兵士の中には、椅子取りゲームでユウキたちと戦った、ベルベット、キンジャル、エイデンの姿があった。
その兵士たちは武器は構えず、壁内の壁に沿うように腕組みをして立ち並んだ。
王宮内に着陸したヘリからはフランコやサトルたちが降りてきた。
「あまり声を出したくない。 声を拾いなさい」
イライザの命令で王宮内のマイクが作動し、小さな声で話をしてもはっきりと聞こえる音量になった。
「連絡もなしに王宮に踏み込むとは。シュリ、あなたでなければ全員殺していました」
「どんな理由であれすぐに手を出してこない所を見ると、イライザ、少しは正気を取り戻したようだね」
そう言われたイライザは表情を変えず、そのことには答えなかった。
「要件を早く済ませてここから立ち去りなさい」
「ルイバー!」
シュリの後ろにいたフランコが大声を出した。
「隠れていないで前に出てこい!」
その呼びかけに、イライザの後ろに隠れていたルイバーが、おどおどしながら前に出てきた。
「こ、これはこれは、フランコ総司令官。何事ですかな?
随分と乱暴なことをなさっているが、王の許可は取られておいでか?」
「イライザ、そこにいるルイバーに騙されて、君は過ちを犯してしまった。
きっかけはどうあれ、やったのは君だから罪を償わなくちゃいけない。
21での罪もたくさんあるが、やはりワイトの種を作らせたことが一番重い」
そう話しながらシュリはとても悲しそうだった。
「私がやったという証拠があるの?」
「ワイトの種を作った研究者の1人は今王府軍の庇護下にある。
その者の証言を元に、21にある君の母親が住む家を捜索させてもらった。
君はワイト関連の資料やデータをグリーンゲートではなく母親の住む家に隠しておいたそうだね。
君のサインが書かれた数々の押収物は21の政府が所有し、15の王府軍にも写しを渡してある」
シイカがシュリに渡した資料は押収品の写しだった。
王府軍にはすでに同じ物が渡されている。
ネオ21で証拠の提示を求められた時のためにシュリはハクヒに持参させた。
シュリの話が終わるとすぐにフランコは側近に顔で合図を出した。
2人の側近はホバーボードに乗ると、イライザのそばにいるルイバーの脇を抱えて地上に降ろした。
「ちょっちょっと待ってください! 私は何も関係がないんだ!」
地面に転がされたルイバーはフランコの足にすがるようにしがみついたが、すぐにはがされ後ろ手に拘束された。
「ど、どういうつもりか! 私がなにを」
「うるさい!
みつかった資料の中には15で被験者に種を打ち込む映像もあった。
そこにニヤつきながら見学する貴様の姿もあったんだぞ!
それでもしらを切るつもりか!」
フランコの顔は紅潮し、ルイバーの襟元を掴むと1度拳を振り上げ、こらえながらそれを降ろした。
「え……。そ、それは、ねつ造だ!
だいたい貴様ごときが貴族の私にこんなことを……」
フランコに向かって悪態をつくルイバーを側近が足蹴にした。
「母の家に……」
イライザのつぶやきは小さな声だったがマイクに拾われ周りの者の耳にも届いた。
(イライザが……かわいそうに思える俺はおかしいんだろうか。
犯罪者なんだ、たくさんの人の命をうばって、みんなを苦しめた。
でも、やっぱり……かわいそうだ)
イライザは拳を握りしめた。
「私に罪を償えと?
死ねと言うなら死んでやってもいい。
じゃあ私の父を殺したラシア国王の罪はどうなる!
私にワイトの種を作らせたのは、父を殺したラシア国王だ!」
その言葉を聞いたリーシャは一瞬ビクッっと体を震わせると険しい表情でうつむいた。
ユウキはリーシャの手を握りしめた。
医療用ヘリのハッチが開き、中から両脇を抱えられたマッケンが出てきた。
「それがそもそも違うんだリーシャ! 君の父上は……」
そう言いかけたシュリの腕をサトルが叩いて親指で後ろの方を指さした。
マッケンの姿を確認したシュリは黙った。
「イライザ……」
マッケンのか細い声はマイクに拾われてはっきりと聞こえた。
声を聞いた瞬間イライザは固まってしまった。
脇をかかえられたマッケンの方へ、ゆっくりと怯えるようにイライザは視線を向ける。
「イライザ」
懸命に声を出して我が娘へ顔を向ける父の姿がそこにあった。




