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 脱獄という思いも寄らぬ言葉を聞かされたユウキとサトルは、動揺して何を質問していいのかさえわからなかった。

「脱獄をさせると言っても、犯罪を犯すわけではないから安心して」

 フォローのつもりのシュリの言葉には説得力が無かった。

「犯罪にならないって……。だったら、どうどうと出してやればいいじゃないか」

 サトルがぶっきらぼうに言った。

「その……脱獄をさせることと、ミナトさんを助けることに何の関係があるんですか?」

「その人がいないと、ネオ21に行っても話が進まないんだ。

 我々の切り札になる」

 ユウキの問いにシュリが答えた。


「そうだ、これを渡しておかないとね。

 使える機能は少ないが、前に使っていた端末と同じようなものだ」

 シュリから2人に、21で使っていたものとほぼ同じ使用感で手首にはめるタイプの、端末が渡された。


「センターコロニー、ここにいる」

 テーブルに広げられた地図の上をサンジェストが指で差した。

 テーブルを囲んで場所を確認したところで、ユウキとサトルの不安は払拭されない。


 ラシア国の王宮はセンターコロニーの中にある。

 ラシア国にアッシビー、フリカの王族が身を寄せ、3つの王家を併せて王府と呼ばれているが、その住まいは分けられていた。

 王宮を使うのはラシア王家だけで、アッシビーとフリカには、王宮の敷地内に急ごしらえの邸宅を建て、そこに住まわせていた。

 当然その2国の貴族も集まった。

 軍に関しては、解放軍になった者が多かったため圧倒的にラシア国軍の人数が多かった。


「脱獄させる者は男性で、投獄されてから10年ほどたっている。名簿の名前の欄にはXとだけ書かれているそうだ」

「レミとルイバディにも話してあるって言ったけど、2人だって土地勘はないだろ?

 誰か案内してくれる人はいないの?」


「内容を最後まで聞いてから質問するように。

 サンの話を遮らないでね」

 シュリが静かにサトルに言った。

「はいはい」


 サンジェストは、センターコロニーの地図を今見ていた地図の上に広げた。

「場所はここ、貴族街の中にあって監獄塔と呼ばれている。

 おかしな話じゃないか?貴族街に監獄があるなんて。

 ラシア国の実権は大富豪のルイバーという伯爵が握っている。

 取り巻きの貴族もいて、将来はルイバーが王に取って代わるとささやかれている。

 この監獄塔に投獄されている者たちなんだが、ラシア国の法で裁かれた者ではないそうだ。

 ルイバーの独断で閉じ込めているらしい。

 そんな身勝手を許している王もどうかと思うが。

 リーシャが戻って兄を王にすると言い出してから、貴族の動きが慌ただしくなった。

 好き勝手してきた貴族にとって、強い君主はお呼びではない。

 王が変わる前に国家転覆をもくろんでいるはずだ。

 まあ国の含みごとはさておき、情報が少なすぎてまだ計画が詰められない」


 監獄塔は、外に出したくない者や、長く苦しめることを目的とした投獄場所だった。

 待遇は様々で、ひどい扱いを受けた者の中には精神を病んでしまう者もいた。


「監獄塔から無事連れ出せたら、今のところ新生国のアークエンジェル社で匿う予定だが……。

 リーシャに会わないと筋書きさえ作れない。計画の詳細は後日改めて伝える」

 サンジェストがシュリに目で合図をして、シュリが手元の端末を操作した。

 小さな電子音が鳴りユウキとサトルは手首の端末を操作してモニターを出すと送られた画像を確認した。


「これが対象者の顔?でも投獄前の顔でしょ? 10年も前じゃ……今はどう変わっているか」

「今はその情報しかないが、リーシャから提供してもらえるものがあると思う。

 明日一緒にセンターコロニーに行ってもらうから、準備しておくように」

 シュリが言った。


 ドアのブザー音が鳴り、モニター越しに警備から来客の案内が入った。

「大丈夫だ中にいれてくれ」

 モニターを確認したシュリが言った。


 入室してきたのはシイカと侍女のハクヒだった。

「シ、シイカ様?! いらしていたんですね、15に」

 ユウキが声をあげた。


「ええ、いくつか仕事があったので。

 2人とも無事でなによりです。

 ハクヒ、お渡しして」


「はい、シイカ様。 シュリ様、ご依頼のあったデータです。

 印刷した物も入れておきました」

「ありがとう。わずらわせてしまって申し訳なかった。

 もしかして、これを届けるために15に?」

 ハクヒから封書を受け取りながらシュリがシイカに言った。

「いいえ、両親に会いに来たついででしたので、お気になさらず」

 シイカの両親ベーカー夫妻は、王府や新生国、ドヴェ島に家を持っていて、現在はドヴェ島に住んでいる。


「助かったよ。ご両親はお元気だったか?」

「はい、すこぶる元気でした。

 両親の安否が確認できましたので、ワームホールが開いたら21へ戻ります」


「忙しいね。あちらでも仕事が多いから仕方なしか」

 シュリの言葉に笑顔で答えたシイカは、ユウキとサトルの方を向いた。

「あなたがたが大変な目に遭ってしまったことは、椅子取りゲームに招待した私に責任があります。

 サンジェスト様の希望でここにいるのだとしても、あなた方が21へ戻りたいなら私が連れて帰ります」


「私は無理強いをした覚えはない」

 そう言いながらサンジェストは腕を組んでそっぽを向いた。

「じゃあ、2人が帰りたいといったら連れ帰りますね。

 2人ともよく考えておいてね。

 シュリ、いつ王府へ立つの?」

「明日中には出発する予定だ」


「そう、ならあなたがたが返事をする猶予は今日中ね。

 監獄の作戦が成功すれば数日後にはネオ21に飛び立ってしまうでしょうし」

 サンジェストはコホンと咳払いをした。


「ベーカー様たちは21へ戻らないの?」

 シュリは話題を変えようと、シイカに話をふった。

「両親はここに骨をうずめるそうです。ワームホールが開くうちは私が会いに来ます。

 あの、イライザ様のこと……私が口を挟む立場にないことは承知しておりますが。

 罪があるのはわかります、ですができれば温情ある判断をお願いいたします。

 ことのいきさつを知った両親もたいそう驚いて、どういった裁きが下るのか、イライザ様の身を案じておりました」


「私たちは21の政府からグリーンゲートの問題の全権を委任されてきた。

 こちらに送られた21政府軍の兵士は、現在は新生国軍となっているが、問題解決のためにその者たちを使って良いと言われている。

 政府がでると15の世界の国や政府との関わりがでる。

 企業人同士で解決させようという安易な判断なのだろうが、まあ、その方がことを荒立てず形式にもとらわれずに、我々の感覚で処理できる利点がある。

 イライザとは知らない仲じゃないし。

 そういえばシュリの初恋はイライザだったらしい」


「なっ! サン、余計なことを!」


「シイカの言う通り犯した罪はつぐなう必要がある。

 だが元凶はイライザではない。

 やった者も悪いが、仕向けた者、嘘をささやいた者も罪は重い。

 案ずるな、シイカも納得できるような落とし所を探し出すから」

 サンジェストはそう言ってシイカにほほえんだ。


「それを聞いて安心しました」

 シイカは静かに席を立った。


「ハクヒ、みなさまに協力して、ことを見届けてから戻ってきなさい」


「心得ました、シイカ様」

 ハクヒはシイカに一礼し、シイカは部屋を出て行こうとして足を止めた。

 振り向いてユウキとサトルの顔を見た。

「いい、先ほども言いましたが猶予は今日中です。

 帰りたくなったらハクヒに伝えてくださいね」

 そう言ってシイカは部屋を出て行った。


 シイカから渡された封書の中身を確認したシュリは、サンジェストと目を合わせてうなずくと、それをそのままハクヒに渡した。

「大切な証拠品だ。これを預かってほしい。

 それと今からは私について回ってくれ、ハクヒ」

「承知しました。シュリ様」


「さて、どの部屋に投獄されているかもわからないし、やはりリーシャ頼みになりそうだ。

 リーシャに、ことの真相を伝えるのは心労だが……」

 シュリがつぶやいた。


 翌日一行は、ヘリでセンターコロニーに入り、アークエンジェルの施設の庭に止めた。

 リーシャとはその施設で待ち合わせをしている。

 宿泊用の部屋で荷ほどきをしていると、すぐにリーシャの波長を感じ、近くに来ていることがわかった。

 距離が近くなるだけで、すぐに相手の存在が確認できてしまうほど、ユウキとリーシャの波長は合っていた。

(リーシャ、どこ?)

 そう呼びかけながらユウキは部屋を飛び出した。

 体は自然と波長の強い方へ進んで行く。

(すぐ近くに……)

 宿泊用の部屋が並ぶフロアの途中で2人はお互いの姿を確認した。

 ユウキはリーシャに会えたことがうれしかった。

 その感情がなんであるかは、あえて探ろうとしなかったが。

 この距離感と2人だけの特異なつながり方が大切だった。


「リーシャ!」

「ユウキ!」

 近づいた2人は、ほほえみあった。

「サンに呼ばれたの?」

「ええ、今から話をするの。

 もういかなきゃ、あなたの顔を見に来ただけ。

 夜はユウキたちと一緒に話をするって聞いてるからそのとき会える」


「そうか……わかった。じゃあまた夜に!」

 リーシャは笑顔で去っていった。

(なんだろう、このうれしい感じ。いつもリーシャと……一緒にいたい)


 ユウキがサトル、レミ、ルイバディと食堂で夕食をとっていると、一斉に電子音がなりメッセージが届いた。

 一同は顔を見合わせて小さくうなずくと席を立った。

 呼び出されたのはアークエンジェルの小会議室。

 そこにはリーシャも来ていた。

 ユウキが小さく手を上げてほほえんだが、リーシャの表情はすぐれなかった。


「では監獄塔へ侵入する作戦について説明する。

 リーシャからの情報で対象者が最上階の屋根裏部屋にいることがわかった。

 塔は5階まであり、4階までは各階に8つずつ牢獄がある。

 塔のてっぺんの三角形の屋根裏が5階部分でそこは部屋が1つだけだ。

 各階に警備兵がいて屋根裏部屋へ通ずる通路にはフォースAランクの双子の兵がいる。


 リーシャが、同行する兵士を数名準備してくれているから、その兵士たちとともに見回りの警備兵として軍用の車両2台で貴族街へ入る。

 警備兵ならフル武装していても怪しまれない。

 ユウキとサトルは監獄塔の近くで車から降りて、ホバーボードで塔の屋根へ降りる。

 ホバーボードは20メートルまで上昇できるように改良してあるものを渡すから、時間があるときに練習をしたほうがいいだろう。

 レミとルィバデイは同行した兵士らと、1階から警備兵を倒しながら最上階を目指す」

 シュリが説明した。


「それにしても、リーシャが監獄塔の情報を簡単に手に入れたから驚いたよ」

 シュリが言った。

「はい、王府軍最高司令官のフランコに事情を話して、監獄塔の情報をもらったのですが、こんなにスムーズに情報を得られるとは思ってもみませんでした。

 彼は元ラシア国軍で忠義に厚いので信頼できます。

 部下も貸してくれることになりました。

 監獄塔の情報をなぜ持っていたのかを聞いたのですが、なんでもフィリップ様からの依頼がきっかけで調べることになったと言っていました」

 そう言ってリーシャがサンジェストを見た。


「実は父が熱くなっていてね」

 サンジェストはフッと笑った。

「王の権力を我が物にして、リーシャにも嫌がらせをしていた貴族たちがいるだろう?

 リーダー格はルイバー」

 サンジェストの言葉にリーシャはウンウンとうなずいた。


「そのルイバーたちが新生国へケチをつけてきたのさ。

 突然建国反対を訴え、全ての開発の中止と土地の返還を求めてきたそうだ。

 21の技術や知識を15の全ての国に無償で提供する対価として、各国からの許可を得て正式に譲り受けた土地なのにだ。

 それに関しては協定の書面もある。

 ルイバーのその行為は、新生国の立役者として、建国のための事業が楽しくて仕方がなかった父のやる気に水を差した。

 私の父は自分の行動を止められることをひどく嫌う。

 頭にきた父がその貴族を調べさせたところ、妙なことを発見した。

 GGの創設者だったイライザの父親が作ったはずの施設が、すべてルイバーのものになっていたんだ。

 ルイバーは、そこで作られた物を国に売り莫大な富を築いていた。

 父は、人の商売のことなど興味はないが、行方不明になったイライザの父親のことが気になると言った。

 父が気になると言ったら、それは執着が始まる合図。

 人を使い、徹底的にルイバーの周辺を調査し、元側近やメイドまで買収して情報を集めた。

 結果、イライザの父が監獄塔に投獄されているらしいという情報をつかんで、最高司令官のフランコに直談判した。

 お前たちは罪を犯していない人間が投獄されていても見ぬふりをするのかって、激高したらしい。

 父の話を適当にあしらうのではなく、きちんと情報集めを続けていたのだとすれば、殊勝な心がけだ。

 ルイバーの悲劇は私の父を怒らせたことだな」


「そうでしたか。それでフランコ司令官が調べていたのですね」


「ちょっと待ってください。

 もしかして脱獄させる人って……イライザの父親?!」

 ユウキの問いに、少し間があってからシュリが答えた。

「そうだ、イライザの父マッケン氏を救出する」


「ここにきてイライザの父親とか……どういうことだよ。

 さっぱりわからない。

 俺たちの仕事は、黙ってその人を脱獄させればいいだけかもしれないが、少しくらいいきさつを教えてくれてもいいんじゃないか?」

 怒ったサトルが机を叩いた。


「サトル、話さなかったのはたまたまだよ。

 私を信じてくれているのだろう?

 いきさつは時間があるときにシュリが話してくれるよ。

 長い話だからね」

 サンジェストの一言で熱くなったサトルの頭は一気に冷めて、それ以上何も言い返さなかった。


(サンのこういうところは、天然なのかそれとも……。

 いずれにしても、話の流れを止めたり、その場の空気を一変させてしまう能力は秀逸だね)


「あの……私も参加させてください」

 リーシャが言った。


「ダメだ。失敗した場合ことの収集がつかなくなる。

 王家を潰す口実にされる恐れもある」

 シュリが即答した。


「それでもマッケン様のことは王にも責任があります。

 私が父の代わりに……」

 サンジェストやシュリに懇願するリーシャの言葉をユウキが遮った。

「大丈夫だよリーシャ。俺たちを信じて。頼っていいんだ」

 ユウキの言葉にみんながうなずき、リーシャはそれ以上何も言わなかった。


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