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兆し

 サンジェストの登場に、あっけにとられたユウキだったが、すぐに席を立った。

「サン!」

 ユウキとサトルが叫んだ。


「やあ、みんな無事でよかった」

 サンジェストは片手を上げた。

 レミは立ち上がり胸に手をおくとサンジェストに一礼し、ユウキの前の席を譲った。

「サンジェスト様こちらへ」

「ありがとうレミ。今までご苦労だったね」

 そう言って、サンジェストは譲られた席に腰を下ろした。


「これだけ人がそろえば海賊ゲームができそうだ」

「サン、今から冒険者の村に行くのは無理だよ、みんな疲れている」

 シュリが真顔で言った。

「え?冗談だよ、シュリ」

 サンジェストの意外な答えにシュリは驚いた表情を見せた。

「冗談……そうか、サン」

 シュリはフッと笑った。

 サンジェストが冗談を言ったことにレミは目を見開き、バッチは少しのけぞった。

 冗談だろうと思われるようなことを、真顔で言うことはあっても、普通の冗談を口にする姿を、ここにいるサンジェストの知り合いは見たことがない。


(サンに一番似合わない言い方だ……。

 お父さんに会えて何か心境の変化があったのか?

 俺だって、サンが本気で冒険者の村に行こうとしていると思った。

 って、冒険者の村をここにも作ったのか?!

 ゲーマーでも規模が違うな……振り切ってる!)


「サンジェスト様までここにいるって。

 なんかそろい踏みだなあ……。

 あの、ちょっと質問が。

 ああ、おいらはルイバディ。21の元軍人です」

「なにかな、ルイバディ」

 シュリが言った。


「WHSの出口は選べないはずじゃなかったですか?

 敵対側のステーションに出てしまう恐れもあったわけですよね?

 えらい人たちをここに送るにはリスクが高すぎると思うんですが。

 なにか新しい技術でも?」

「その通り。

 GGから……GGはグリーンゲートのことね。

 GGから寝返ったドルトルのおかげで、新しい技術をたくさん享受できた。

 その中にWHSを指定して到着できるシステムがあってね。

 その技術のおかげで、センターコロニーのWHSへピンポイントで到着することができるようになった」

「なーるほど!」

 ルイバディが拳を手のひらにポンッと当てた。


「サン、パイロットスーツを着てるってことは、今まで試していたの?」

 シュリがサンジェストに聞いた。

「うん、夜になって風が出たから試しに行ってきた。

 戦うときはかなり不安定になるけど、移動に関しては問題ない。

 広範囲で作業を行うから、やはりホバーボードは必須だね」

 何の話をしているのかわからず、みんなきょとんとしている。

「ああ、すまない。これから21やゼロへ帰る君たちには関係のない話だ。

 サン、みんなの顔も見たし引き上げようか」


「シュリさん、何の話か教えてよ」

 サトルがそう言うと、回りのみんなもうなずいた。

「ワイトを簡単に人に戻す方法が見つかってね。

 その作業が始まったんだが……」

「ええ! 本当ですか! それはすごい!」

 ビスワが叫んだ。

「簡単にって……いったいどうやって?」

 モニークが言った。


「ワイトの種の開発者の1人が王府で捕まっていたんだが、その者が説得されて王府に寝返ったことで、ワイトを人に戻す手立てが見つかったんだ。

 ベーカー博士が尽力されてイライザよりも先に、ワイトを人に戻すための種を作ることができた。

 全種類ではないが、周辺のワイトへの実証実験は終わり、世界へ向けてこの結果を周知させる広報が近々、大々的に始まる。

 王府への賞賛が世界に広がれば、イライザとの争いの収束が見えてくる。

 サンが今、試しているのは、アークエンジェル社製のホバーボード。

 戦いで使うには不十分だが時速30キロまでは出せる。

 ゆっくり飛ばしても乗っている間は疲れ知らずだし、足場を気にする必要がない。

 ワイトを人に戻すための種を花の部分に打ち込んでいくだけの作業だが、広範囲の移動が必要になるからホバーボードを活用する予定だ。

 1回の充電で4,5時間は飛んでいられるし、予備のバッテリーも小型で持ち運べる。

 現状は、圧倒的に人がたらず苦慮しているけどね」

 そうシュリが説明した。


「もうそこまで進んでいたのですね。

 私に、手伝わせてください!」

「おいらも!」

 レミとルイバディが手を上げて言った。

 回りの者たちは顔を見合わせている。

「ありがとう、1人でも多い方が助かるよ」

 シュリが言った。

「早くつまらない問題を解決して、ミナトを向かえに行くんだ」

 サンジェストがぽつりと言った。

(サンはミナトさんを、向かえに行くんだ!)


「サン、ネオ21に行くんですか?」

「そうだよユウキ。ミナトがね、抜け出せなくなっている。

 彼は大事なゲーム仲間だからね。

 僕が助けなきゃ」

「あの俺も……俺も手伝わせてください!」

「なっ! 何を言い出すんだユウキ!」

 ビスワは席を立ち大声で言った。

「せっかくネオ21から脱出できたのに。

 ゼロに帰るのがまた延びちゃうだろう!」

「そうだけど……。

 心配してくれてありがとう、ビスワ。

 俺はワイトの件も手伝いたいけど、ミナトさんやチャム……ネオ21から抜け出せない仲間を助けに行きたい。

 ずっと迷っていたんだ、俺なんかがあがいても助けられない、首をつっこむべきじゃないって」


(本当は……助けたい人の中にリーシャもいる。

 それにここに残るレミやルイバディ……15で知り合った人たち。

 その人たちの力になりたい)

「ゼロには帰るよ。必ずビスワに会いにいくから」

 ユウキの言葉に、力が抜けたように椅子にストンと腰を落としたビスワは、それ以上返す言葉が見つからなかった。


「俺も行くよ、ユウキ」

 サトルがユウキを見ながらそう言った。

「ミナトさんを助けるなら、俺を外さないでくれ、サン」

「もちろんだ。一緒に行こう。

 海賊衣装はないが、おそろいのパイロットスーツで」


(いや、そこはどうでもいいんだけど……)

 ユウキとサトルが苦笑いし、レミは笑いをこらえていた。

 ラバスとモニークは下を向いたまま黙っている。

「帰ることが当たり前なんだ。気にすることはない」

 ラバスたちの様子を見たシュリが言った。


「イライザの件が落ち着くころにはエッグブースもできあがっているだろう」

 サンジェストが言った。

「ええ? 冒険者の村だけじゃなくてエッグブースも作っているんですか?!」

 サトルが声高に叫んだ。

「うん、でも15のエッグブースは私の父親が……アークエンジェル社が運営するから研究に使われることになる。

 冒険者の村は私の遊び場だから、いつでも好きな時に仮想にダイブできるよ」

「サン、そろそろ引き上げよう。みんなを休ませないと」

 シュリにうながされてサンジェストはシュリと部屋を出ていった。

 メンバーたちも用意された部屋へと引き上げていく。

 なかなか立ち上がらないラバスとモニークのそばにユウキとサトルが腰掛けた。


「ごめんね、ユウキ、サトル。

 僕はもうこれ以上ここにいたくないんだ。

 今度こそ心が壊れてしまう……」

 目をうるませながらラバスが言った。

「気にするな! そうだラバス、ゼロへ帰ったら頼みがある」

「頼み?」

「ああ、俺やユウキの家族に無事でいることを伝えてほしい。

 じきに帰るってこともな。

 ハルはもうゼロに帰っていると思うから、ハルを訪ねて一緒に話にいってくれ。

 大事な仕事だ、しっかりやってくれよ!」

「サトル……。

 うん! わかった!

 その仕事きちんとやりとげるよ!」

「ああ、そのためには、無事にゼロに帰らないとな!」

「ありがとう、サトル!」

 ラバスが涙を袖でぬぐった。


「椅子取りゲームのとき、僕が訳ありなのは気づいていたよね。

 あのときはシイカさまの私兵見習いだった。

 21へ戻ったら、そこをやめてマクベス様に頼んで軍に入る。

 軍人としてここへ戻ってくるよ。

 君への招待状って知っているかな?

 あれを書いたのは僕なんだ」

「ええ!モニークが?そ、そうだったの?!」

 ラバスが目を見開いて言った。

「そう……だったんだ。 俺全部覚えているよ」

 サトルはそう言うと、大きく息を吸った。


「君への招待状


 本気は見抜けない。

 本気は止められない。

 決意表明は自分を止めないため。

 死ぬのは自分の力だけじゃない。

 とめるには大きな刺激が必要だ。

 やめるには死なない場所が必要だ。

 飛び出さないか、死なない世界へ。

 羽ばたかないか、新しい世界へ。

 そこに死ぬ選択はないから。

 そこで死ぬ必要はないから。


 ――ご褒美をあげたい僕から」


 言い終えたサトルはモニークを見た。

「モニーク、ありがとう。

 君のおかげで今、生きてることが実感できてる。

 ゼロにいたら……まだ腐っていたかもしれない」


「うん、モニーク僕もお礼を言いたい。ありがとう。

 ここへ来たことで、生きたいって気持ちが強くなった。

 もう2度と間違えは起こさないって、自信を持って言える。

 君のおかげだ」

 ラバスが言った。

「そう言ってもらえると、うれしいよ。

 君たちに会えて本当によかった」

 モニークの目はうるんでいた。


 数日後、ラバスとモニークは他のメンバーとともに新生国からセンターコロニーへ向け、ヘリで飛び立った。

「また会えるかな……」

 遠ざかるヘリを見ながらユウキが言った。

「そうだな、ラバスにはゼロで会えるだろうけど、モニークは……。

 いや、きっとまた会える!」

「言い切るね、サトル」

「ああ、予感がするんだよ!」

 2人は顔を見合わせて笑った。


(煩雑だった15の世界の問題が、21の人たちの力で整理されていく。

 ワイトもイライザも敵と呼ぶには少し違う。

 ワイトの問題は時間と手間はかかっても、じきに決着がつく。

 世界中の世論を味方につけることができれば、戦争なんかしなくてもイライザの罪を問うことが出来そうな気がする。

 やれば出来るんだ。相手を壊さなくても)

 ユウキはこれから好転するであろう未来の兆しを感じた。


 ワイトを人に戻す種は『救出の種』と呼ばれた。

 翌日、ユウキたちはワイト救出部隊に同行し、救出の種の打ち込み作業に参加した。


 VRゲームのホバーボードのようにはうまく乗りこなせないが、ワイトを探す作業にホバーボードは不可欠だった。

 救出の種を打ち込む小型のボーガンは手首に装着し、手の中にまわされたレバーを握るだけで発射される。

 休止したワイトはその場に根を張り灰色になって動かなくなるが、救出の種を打ち込まれたワイトは倒れたような状態で枯れ始める。

 その後、枯れた部分から人の体の一部が見え始める。

 見え始めるというより、ワイトが消滅していく課程で埋もれていた人が現れると言った感じだ。

 10名ずつのPTを組み、種を打ち込んだあとは運搬班が来るまで5名が待機し、残り5名は次のワイトを探しに行く。

 休止しているワイトには、種を打ち込んでも反応がないため、打ち込んだ状態のまま様子を見ることになっている。

 効果を見るため休止ワイトの近くには、観察用のカメラが設置された。

 運搬班を待つ時間があるせいで、作業は思うようにはかどらなかったが、シュリ曰く人に戻せていることのアピールが出来れば良いとのことだった。

 全てのワイトを人に戻すまでには相応の時間がかかり、その作業はワイトの種をばらまいた張本人にやらせるとシュリは言っていた。


(確かに、何年もかけて広がってしまったワイトを根絶するのは難しい。

 張本人って、イライザだよな。

 生かして責任を取らせる、そういう罰の与え方もありだ)


 その日、救出の種でワイトを人に戻している王府軍の情報が、世界をかけめぐった。

 王府では作業を終えて帰ってくる兵士たちに温かい声援や拍手が贈られた。

 赤の砦はグリーン国へ与する方向で協定を結んでいたが、王府軍の活躍とともに、滞在している王府軍の工作員からワイトの種をまいたのがイライザだったとの情報を得て、グリーン国に手のひらを返した。

 グリーン国は孤立する形になったが、茶の砦の兵たちはもらった金の分は働くと、あくまでも味方であることの姿勢を貫いていた。

 コロニーからネオ21に出稼ぎに来ている人々も、すぐに立ち去るわけではなく、様子を見ていた。


 その日の作業を終えて兵士の待機施設へ戻ると、サンジェストの使いの者が待っていた。

 その者に案内されユウキとサトルはシュリの執務室へ向かった。


「ネオ21に乗り込む前に大事な仕事がある。

 レミとルイバディには話してあるんだが。

 ユウキ、サトル、君たち2人にも協力を願いたい。

 フォースも強いし、何より信頼のおける仲間だからね」

 シュリが言った。

 シュリの机に座っているサンジェストは、机上に広げた地図に目を落としている。

「大事な仕事って?」

 サトルが聞いた。


 顔を上げてユウキとサトルを見たサンジェストは立ち上がると机に両手をついた。

「何をさせても私を信じられるか?」

 サンジェストの問いにユウキは目をしばたかせたあとサトルの方を見た。

 サトルは小さく肩をすくめた。

「と、唐突ですね。

 もちろん信じられますが……って、改まって言われるとなんだか怖いな」

「信じてるに決まってるだろ。もったいぶらずに教えてよ、サン」


「裏切るわけではないが、リーシャも巻き込むことになる。

 全てのことが片付けばリーシャもわかってくれるはずだ」

 シュリのその言葉で2人の不安は一層強くなった。

「ちょっと、脅かさないでよ。いったい何をさせるつもり?」

 サトルは少しいらだち気味に言った。


「人を1人、脱獄させる」

 腕を組んだサンジェストがさらりと言った。


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