バトルボックス
◇
「今宵もグリーンゲートをご利用いただき誠にありがとうございます!
いつもなら寝ているジェームズが目をこすりながら突発の実況放送を行います!
10月1日開催の椅子取りゲームに向け日々訓練を行っている冒険者に、新バトルボックスが提供されました。 拍手!
その中の3PTで競うボックスの実況を行います!
27日午前0時開始です!詳細はグリーンゲートのサイトにてご確認ください!」
◇
ユウキの体は、青空へ飛び出したと思ったらすぐに落ちていった。
(レミが言った通りとんでもない場所に落とされた!)
見える景色は、視界の端まで普段と遜色なかった。
ただその視界の中に、アイコンやマークが並んでいる感じだった。
(落ち着け自分! 滑空は手を広げれば……)
手を思いきり横に広げると、ブワッっと空気のかたまりを全身で受け止めたように速度が落ち、制御できそうな速さになった。
(すごい……これって飛んでる? あ……いや落ちてるよね!)
「えと次は……。
PT音声 オン
PTモニター オン」
小さいモニターにみんなの上半身が映っているが、横を見れば4人が滑空している姿が普通にみえる。
「お、来た来た。ユウキ大丈夫か?」
「えと……落ちていってます、滝に」
ゲラゲラとみんなで笑っている。
「右旋回、草地に降りるよ」
「了解!」
レミの掛け声にみんなが答えた。
「手を横に広げるほど速度は落ちる。
右に回りたいなら右手を少し体によせれば体は右方向に曲がる。
徐々に速度が落ちて行くから真下に落ちないように!」
ユウキはレミの説明の通りに、速度をおとしながら体を傾かせた。
案外うまく行き転がりはしたが草地に降りることができた。
「よっしゃー! モブどこじゃい!」
バシュの鼻息が目に見えるほど吹き出している。
「マップ 広域。
ジャンプ オン」
みんなが口々にそう言った。
「ユウキ真似して!」
「は……はい!」
「ジャンプ オンしたから、強く蹴ればジャンプできて、滑空と合わせれば長距離を飛びながら移動できるよ! 調整は体で覚えてね!」
「わ……わかった、チャム」
(そう言われても、やってみないとわからないよ……)
「赤、オレンジとも確認できません。高台へいきましょう。
ユウキ、僕について来てね。
移動速度がまだ遅いからきついだろうけど、僕がまってあげるから!」
「うん!」
そこは赤茶色の岩肌の見える場所にところどころ林や草地があるような場所だった。
先頭のレミについて岩場の高台にジャンプしながら移動していると、マップ内に赤い点が大量に現れた。
「2時の方向、モブ多数。
ちょっと異常な数だな。
高地から観察必要。
距離およそ1K、ばらばらと走ってくる感じかな……でも数はものすごく多い」
アッガイはマップの点を見るだけで瞬時に状況を把握できる。
(今後は俺がこの役目をはたさなきゃいけない。 はぁ……不安しかない)
「ばらばらと走ってくる? なんだそれ!」
レミはそう言いながらも、ためらうことなく2時の方向に進んで行く。
「ウォォォ! 燃えるぜ!」
視界は通常で200M先まで見えるが鮮明にみえるのは100Mほどだ。
高台から赤点の方向を見ると、まだ200M圏内には達していなかった。
「レッドフォース防具を試すにはいい機会だね。
チャム、回復塔はいらない。
この高さから回復玉をふりまいてくれ。
生命ゲージが見えないメンバがいたら近づいてね!」
「チャムにおまかせ! みんなきばるのです!」
「武器装着 フェイスシールド オン 安全ロック解除」
「ユウキ、安全ロック解除したらボーガンはグーしたら矢が出るからね。
まあ仲間に当たってもダメージは入らないけど」
「はい!」
レッドフォースダガーは利き腕の右手の内側に装備の手甲に中から飛び出し、ハンドルはユウキの手にぴったりなじんだ。
ブレードは黄色の蛍光色で、表面に光を帯びていた。
左手首の上には、手甲から筒が飛び出し、それが展開してボーガンになった。
そしてボーガンにつながったハンドルのような物が手の中に握られた。
「まずは通り過ぎるモブは追わずに、来るモブだけ叩くんだ。
んじゃ迎えうちますか!」
バシュがそういうと、チャム以外は一斉にその岩場からジャンプし滑空した。
(俺もついていかなくちゃ……)
ユウキは必死すぎて涙が出て来そうだった。
(ついていくだけで精一杯だ)
地面に下りると向かって来たモブは細長い木のようなモブで顔がついている。
100Mほど近づいたとき、その枝の間から猿っぽいものが顔を出していた。
(さ……猿?)
「バシュ、心髄はあの木か、それとも猿か……」
レミが聞いた。
「ガトリングで猿たたくから見極めてくれ」
「んじゃソードで木をたたくか」
「ユウキ、仲間同士には攻撃ダメージは入らないから遠慮なくやりな!」
「はいぃ!」
地響きともに砂埃をあげながら顔をつけた木が走ってくる。
(砂埃とか……本物にしか見えない。この臨場感はまさに現実!)
爆音を上げながらどんどん走る木が近づいてくる。
(絶対踏みつぶされるでしょう! でも逃げられない!)
ユウキは、とにかくめちゃくちゃに撃って切るしかないと、震える足でふんばったが、涙で視界がくもる。
(涙まで出るのかよ……そこまでリアルじゃなくていいのに!)
先陣をきってレミが木をソードで叩いたが、まったくの無傷どころか叩かれた木が根を下ろし始めた。
バシュがガトリングで猿を狙うと猿はリンゴのような木の実を投げてきた。
木の実は当たると小さな爆発を起こすが、まったくダメージはない。
「この防具やっぱすげぇ。被弾はしてるがダメゼロってなんだよ!」
バシュがうれしそうにそう言った。
バシュのガトリングで、その木にいる猿が全て討伐されると、木にダメージが入り始めた。
猿が消えれば、その木はガトリング数発ほどで消えていく弱いモブだ。
PT音声でレミからのオーダーが入った。
「チャム、弱っちいモブだから回復はいらない。
数を倒したいからこっちきて参戦して。
みんな、木をワンパンして根を張らせてそれから猿やっつけてね。
じゃないと逃げちゃうから」
「了解!」
(この弱さなら練習できる!)
手のなかのハンドルをグーをするように握ると、火の線のような矢が連射された。
猿を排除したあとにレッドフォースダガーで木を叩くとすぐに細かな破片になって空中に散っていく。
(散っていくときは……電子データっぽいな)
簡単すぎて拍子抜けしたが、とにかくPTのために数を倒そうと必死に動いた。
(あ……マップ見なきゃ)
ユウキはマップを広域に切り替えて確認した。
「えと、9時の方向、赤い点の集合の中にオレンジの点が見えます。
距離は、端っこだから2K!
こちらに向かってきているモブはこの集団以外見当たりません」
「了解、ユウキ。
他のPTが2K先でモブたたいてるのか。
ユウキそんな感じてチェックしておいてね!」
「はい!」
たいした報告をしたわけではないが、それができたことがユウキは少しうれしかった。
結局、妨害PTは現れず、取り逃がした木はあったが、20分ほどで討伐を終えた。
「はあぁ、手ごたえないね。
何匹くらい倒せたかな。
そうだ、つまらないから相手チームを探そう!
別にこのボックス負けてもいいし!」
「おいレミ、悪い癖だぞ。 初心者のユウキもいるんだ。
ここは次のモブの集団を探してたたくべきだ。
勝ってポイントをがっぽりいただかないとな」
「バシュよ……かたいこというな」
そのときクオーションアラームがなった。
『突発イベント発生。
各PTから1名が選出され、3名総当たりの個人戦が3分後に開始されます。
試合時間は10分で当たり判定でジャッジ、あるいは消滅で勝敗が決まります。
1勝ごとに討伐数に+300されます。
1回戦:PT1対PT3
2回戦:PT2対PT3
3回戦」PT2対PT1
なお個人戦の間、ステータスは一律に修正されます』
(こ……個人戦!?)
「へえぇーおもしろくなってきた。
ステータスが一律になるならユウキにも勝機は十分あるね。
だが誰が選ばれるか」
「俺を選んでくれー!」
バシュが手を合わせた。
「そう言う人はたいがい選ばれないよね。ククッ」
アッガイがそう言って笑った。
「穴あけるぞアッガイ」
(どうか選ばれるな……)
◇
「はーい、ジェームズです! バトルボックスPT戦が開始されてから20分ほどが経ちましたが、手慣らしの猿木か3PTとも終了いたしました。
PT1、約900体 PT5、約750体 PT11、約650体とやはり訓練日数が多い順位になりましたね。
なおこの実況はバトルボックス内には流されませんので、相手チームの成績を知ることはありません。
ここで、突発イベントが出ました! 個人戦が開始されます!
ステータスが一律になるのでプレイヤースキルの見せどころとなるでしょう!
それではいってみよう!」
◇
頭上から光の筒が下りてきて、ユウキは一瞬で別の場所に移動された。
(俺……選ばれたってことか? まじか……逃げ出したい!)
何もない大きなフロアに立ち、正面には背の高い男が立っていた。
対戦相手のデータが視界上部に表示された。
(PT1 ミルズ!?)
相手はPT11をぬけてPT1へ移ったミルズだった。
「PT11ねぇ。俺のあとがまか。
獲得ポイントゼロじゃん……ザコが」
2本のソードを肩にのせ、薄ら笑いをうかべながらミルズがそう言った。
(緊張して顔が熱い……違う、恥ずかしさと怒りだ。
悔しいけど……怖いし逃げ出したい)
そのときレミが言った言葉が頭をよぎった。
(ユウキにも勝機は十分ある……レミはそう言った。
そうだ、冷静にできることをしよう。
相手はソード2本。 俺には遠距離のボウガンがある。
ミルズは最初から俺を煽ってきていた……個人戦はきっと心理戦でもあるんだ。
煽られて熱くなればミスをする可能性が高くなる。
ならば……静かに煽り返せ!)
「ユウキさぁ、どうせすぐ消えちゃうんだからあんまり抵抗しないでね。
面倒くさいから!」
「ミルズ、おまえ強がってるのか?
俺はこれが初戦でポイントもまだゼロだ。
その俺に負けたら、おまえ相当かっこわるいよな。
弱い犬ほどよく吠えるって言うし、本当は弱いんだろ?」
(あわゎ……生まれて初めてこんなセリフはいた。よく言った俺!)
「な……なんだとこのクソ野郎!
痛みは生体と一緒なんだ、おもいっきり痛めつけてやる!」
『開始5秒前、4、3、2、1……』
ミルズが大声をだしながら突進してきた。
シールドがあっても矢がぶつかっている間、視界は悪くなると判断して、ユウキはボーガンをミルズの顔面に目掛けて連射した。
ミルズは一瞬ひるんだがそれでも突っ込んできてユウキの左肩を刺した。
血がでているわけではないが激痛が走り、焦って後ろに転がった。
ミルズはすかさずもう片方のソードでユウキの右足を刺した。
「グゥァァァ!」
「どうだ、痛いだろう! お前ごときクソザコが、なめたくちききやがって」
肩や足をさされただけなのに、そのとき初めて死ぬかもしれないと思った。
涙がこぼれ、それでも抗おうと体に力をいれた瞬間、レッドフォースダガーのハンドルが熱くなった。
持っていられなくなるほどの熱さで、他の痛みを感じなくなった。
「ふざけるなぁぁぁ!」
ユウキのその言葉は、ミルズではなく熱くなったダガーに対してだった。
手のひらが熱くて痛くて頭にきてダガーをミルズの腰のあたりに刺した。
『クリティカルヒット キャパシティを超えました ミルズ消滅します』
(え……)
一撃でミルズを倒したことに驚きはしたが、手から離れないダガーは、ますます熱くなり手を焼かれる痛みにユウキはのたうちまわった。
すぐに仲間のいる元の場所に返されたが、ダガーを持った手の手首を反対の手で握りながら叫んだ。
「痛い痛い、いたいー!」
声をあげながら草むらで暴れるユウキをみてレミが叫んだ。
「管理者なんとかしろ! グリーンゲート! 早くユウキを回収しろ!」
レミの叫びが終わるとほぼ同時にユウキの体は回収された。
◇
「えー……。 みなさま、緊急のご報告がございまして。
バトルボックスPT戦にてシステムの不具合があり、急遽中止となりました。
大変申し訳ありませんが、この放送もここまでとさせていただきます!
本日はおつきあいまことにありがとうございました!
◇




