万事休す(2)
本日は1話のみ、13時の予約投稿です。
ワイトが出現した場所は丘陵地帯の終わりぎわで、地表の緑も減り立木もほとんどなかった。
そのまま西北に進めていれば、礫砂漠に突入できたが、ワイトに足止めされ、さらに後方には茶の砦からの追ってが迫っていた。
「シュウさん、ワイト用に俺が作った防刃繊維の袋があるから、ちょっと重いけどそれに入って!
ツルで打たれれば打撃痛はあるけど、絶対破れないから。
ことがおちつくまでバギーの中で隠れていてね」
「わかりました!みなさんお気を付けて!」
運転手の2名も合わせ、8名で100体はいるであろうワイトに対峙する。
「追っ手にはここで追いつかれるが仕方ない。
ありったけのフォースを出していくぜ!」
バルが言った。
「俺がワイトになったら、いつか人に戻してくれよ!」
「ビスワさん、安心してください。ワイトになんかさせません!」
ユウキはそう叫ぶと同時に、真っ先にワイトの群れに突っ込んでいった。
「お、おい君! できるだけ照明が当たるところで戦えよ!」
メルケンはそう言って、ユウキの後を追った。
ユウキには、ワイトのツルの動きがもどかしいほどゆっくりと見えた。
暗闇にいるワイトの個体表面が、ぼんやりと黄色く発光し、照明がなくても昼間と遜色なく見極められる。
タン、タン、タン……と、ツルを断ち、花に剣を差し込む。
わずか3打でワイトを休止させる。
片足で地面を蹴ってツルをかわしながら空中で身をよじり、ツルを切って花を突く。
ユウキが進むたびに休止したワイトが並んでいった。
「す、すごい……」
ユウキを追いかけたメルケンはあっけにとられ、立ち止まってしまった。
「照明なんか関係ないじゃないか……」
暗闇のなかを進むユウキは、躊躇もなく確実にワイトを仕留めていく。
「ぼやっとするなメルケン! ワイトになっちまうぞ!」
伸びてきたツルを、メルケンの眼前でバルが切り落とした。
「あ、ああ、ごめんなさい。
彼がすごすぎて……。
って、僕も負けていられません!
ウォォォ!」
メルケンは叫び声をあげながらワイトに向かっていった。
(木よ、草よ、大地よ……。
俺に力をかしてくれ。
仲間を守りたいんだ。
今だけでもいい、俺の命が減ってもいいから……)
ユウキの思いに答えるように、草や木が揺れ、小さな小石や砂がユウキの周りを舞った。
そして武器や防具が発光しはじめる。
自然のフォースを取り込んだユウキの体は黄色い光で包まれた。
剣を振るたび細い光の残像が、剣の軌跡を暗闇に残していく。
椅子取りゲームでリーシャと戦ったときと同様に、感情は薄れ、脳は戦うことだけに反応していた。
そのとき、流れるようにワイトを倒しているユウキの横を、大きな火炎が走った。
火炎の先にいたワイトは、もがくようにツルを振り回し、燃え朽ちていく。
それを見て、一瞬で感情が戻ったユウキは、火炎を放った方角へ視線を向けた。
ヒョウが描かれている焦げ茶色の車両から、立て続けに火炎が放たれた。
「や、やめろーー!」
踏み出したかと思うと、あっという間に数メートル離れた車両まで近づいたユウキは、ジャンプして車両のバンパーを2本のソードを重ねて叩いた。
車両は叩かれたところから真っ二つになり、乗っていた兵士たちは慌てて飛び降りた。
「すんげえな、おまえ! 感動しちまった!」
茶の兵士の1人がそう叫んだが、それを無視してユウキはふたたびワイトに向かった。
「俺たちが目に入ってないんすかね。やっちまいましょうよ!
車もこんなにされちまったし」
「アホかお前。ワイトのさばき方を見てみろよ。
俺らが束になってもかなわねえよ。
だいいち……あの輝き。
なんか神々しいじゃねえか。
ついていきたくなっちまうよ」
「ええー! 任務どうするんすか?」
「冗談だよ。
まあ、あれだ……他の車両も続々と来てるから。
後ろに引っ込むぞ!」
車を潰された兵士たちは後方から押し寄せる車両に向けて走り出した。
車両やバイクが続々と集結し、追っ手の兵士はあっという間に数十名ほどになった。
到着した兵士たちは火炎放射は行わず、ワイトと対峙するユウキたちを見物していた。
舞うように次々とワイトを仕留めて行くユウキの姿に、小さいが歓声まであがっていた。
全てのワイトを休止させると、ユウキ以外のメンバー7名は、疲れ切ってバギーの近くで腰を下ろした。
茶の兵の中から、1人の兵士が近寄ってきた。
近づいてくる兵に対し、ユウキは仲間の前に立つと身構えた。
「おっと、落ち着け。
剣は抜かない。
少し話をしないか。
俺はバクシス、この追っかけ部隊の隊長だ。
お前、名前は?」
相手が剣に手をかけていないことを確認したユウキは、ソードを収めながら答えた。
「ユウキだ」
「そうか。ユウキ、見ての通り、お前さんたちよりこっちの手札の方が圧倒的に多い。
無益な争いはやめて一緒に砦に行かないか?
部隊の兵士が傷を負うことも避けたいし……。
お前さんたち、この方角ならアッシビーに逃げ込むつもりだろう?
たやすい旅じゃない、というか無理だ」
茶の兵の車両が数台ゆっくりと移動を始め、ユウキたちとバギーを取り囲み、車のライトが向けられた。
「断る。 俺1人で全員相手にしてもいい。
俺たちをこのまま行かせてくれ。
あなたたちは、兵というより金で雇われている傭兵に近いと聞いた。
忠誠心ではなく、損得勘定で動いているなら、俺たちを見逃したところで、心は痛まないだろう。
だったら……」
「そうもいかなくてね。
イライザ様がこの上なくご立腹で……って、まあこっちの話はどうでもいい。
ここで逃がせば、国はもっと強硬な連中を準備して仕向けてくる。
ヘリかなんかでコロニーに連絡が行けば、警備が厳重になって、燃料補給に立ち寄ることもままならない。
襲撃されなくても、アッシビーにたどり着く前に死んでしまうよ」
(確かにここを逃げおおせても、次々に追っ手は放たれる。
爆発や火付けのことだけじゃなく、ヘリで逃亡した者たちのことがわかれば、イライザはメンツのためにも、今以上にやっきになって追ってくる。
それに、燃料の補給ができなければ、活路はなくなる)
「少し、相談させてくれないか」
ユウキが座り込む仲間を見ながらそう言った。
「いいだろう」
バクシスは、自分たちの車両へ向かって歩き出した。
「俺は……この機を逃したら次はないと思っている」
バルが言った。
「ユウキ、お前もイライザの演説を聴いただろう?
ジャッジビー国は消滅して、グリーン国に取って代わる。
そんで王府と戦争を始めるんだぞ」
「グリーン国?王府と戦うって……なんのこと?」
マルコムが動揺した表情でバルに聞いた。
「あ、ああ、マルコムたちは、バギーを盗みに行っていて聞いていなかったのか。
詳しい話はあとでするが……とにかく、この国は王府と戦争を始めるつもりだ。
始まったら王府へ行くなんて無理だ!」
「あの……よろしいでしょうか?」
シュウが遠慮がちに手を上げた。
ワイト用の袋から出たシュウは、いつの間にかバギーによりかかり、座っているメンバーの中に混じっていた。
「どうぞシュウさん」
ビスワが言った。
「多数決にしませんか? 恨みっこなしで」
みんなフッと笑って、立ち上がった。
「決まりだな」
ビスワはそう言うと手を上げた。
「俺は、アッシビーへいく」
誰1人、ためらうことなく笑顔で手をあげた。
「バクシス!」
ユウキが大声で叫んだ。
バクシスは腕組みをしたままこちらを見据えている。
「俺たちは、アッシビーへ向かう!
あなたの心遣いは感謝するが、俺たちは誰の命令でもなく、自らの意思でこの道を進む!
かかってくるなら、相手になる!」
ユウキのそのセリフを聞いたバクシスはフーと音を立ててため息をついた。
「やれやれ。心遣いはあんたらじゃなくて、うちの部下のためだったんだがなあ。
あんな化け物を相手にしたんじゃ、こっちの損失がでかすぎる。
かといって、引き下がるわけにはいかない。
んじゃあ、いつもの卑怯な手を使うしかない」
バクシスはぶつぶつとぼやいたあと、部下に指示を出した。
「そうか、残念だ、ユウキ!」
バクシスが1台の車両の助手席に乗り込むと、その車両とともに数台の車両が移動を始めユウキたちから離れた。
「金をもらっている分、俺たちも仕事をしなきゃならない。
一緒に戻ってくれれば、誰も傷つかずに……」
バクシスはそう言いながら、スッと手をあげ、その手を後方から前に振り下ろした。
「済んだんだがなあ!」
ダンッ!っという音とともに、ユウキたちのバギーには鎖のついたモリが打ち込まれた。
驚いたメンバーはとっさにバギーから離れた。
バギーは通電され、エンジン部分が爆発し、ボンネットが吹き飛んだ。
立て続けに大きな爆発音が鳴り、2台のバギーは炎と黒い煙をあげて炎上した。
移動手段を奪われたメンバーは言葉を失った。
「クッ……。こっちの車両を壊されたなら、あっちの車両を奪うまでだ!」
ユウキがつぶやき、メンバーは小さくうなずいた。
「悪いねえ、手段を選んでる暇もないんでね。
とっとと同乗してもらおうか。
ここから先は、無駄な抵抗だよ」
助手席の上に立ち、腕を組んで笑みを浮かべながらバクシスはそう言った。
「メルケンさん、ついてきて」
「う、うん、わかった!」
ユウキは大きく息を吸うと、強く踏み込んだ。
車のライトの中で、ユウキの姿が見え隠れする。
メルケンは必死にユウキを追った。
他のメンバーも一斉に車両を奪いにかかった。
そのとき、かすかだがヘリのローター音が聞こえた。
1台の車両に近づいたユウキの姿は一瞬消え、次の姿が見えた時には、後方から運転手をミネ打ちし、車両の外に転がした。
すかさずメルケンが車両を奪い、高速後退すると、燃えているバギーの後ろ側にまわって待機した。
シュウはメルケンの車を追って、すぐに車両に乗り込んだ。
「あほんだら! 車を後ろにさげろ! もっていかれるぞ!
束になってあのバケモンの道をふさげ!」
バクシスの叫び声に、大勢の兵士たちが慌ててユウキに襲いかかった。
仲間たちは、剣の打ち合いではひけをとらなかったが、敵は容赦なく防刃されていない足や腕を切りつけてくる。
負傷した者は傷の痛みではなく、自分の血を見たことでの心のダメージで、ひるんでしまう。
「お、おい、切られてるんだぞ!俺たちも切っていいだろう!」
たまらず、ペッツが叫んだ。
「俺も……どうしていいか分らない!」
ミネ打ちを提案したビスワも、どう答えていいのかわからなくなっていた。
ヘリの音は徐々に大きくなり、確実にこちらに近づいている。
(ヘリが来たら逃げられない。敵兵も増えてしまう。
クソッ……どうすれば)
兵士を次々と倒しても、ミネうちのためしばらくすれば復活してくる。
(ダメだ、立ち上がれないように、痛みが長引く部分を狙わないと……ってどこだよ!)
とりあえず足のすねを叩いたり、ヘルメットを飛ばしてフォースを使えなくすることくらいしか思いつかなかった。
負傷した仲間が、メルケンの乗った車両の方へ後退していく。
あと1台の車両がどうしても奪えない。
そのとき、空からサーチライトの光が差し込んだ。
ヘリはすぐ近くまできていた。
「おい、ヘリがあんな近くまで来てるぞ!」
バルは戦いの手を止め、少し後退すると、ヘリの行方を目で追った。
「チヌークそっくりだな……」
ペッツがつぶやいた。
ソードを握りしめ口を強くむすぶと、ユウキはヘリを見つめた。
ヘリは地上10メートルほどのところでホバリングしている。
「30以上は乗っていそうだ……。
もう、逃げ切れない」
マルコムはそう言って袖で涙をぬぐった。
敵の兵も手をとめて、ヘリの動向を見つめている。
ヘリの後方ハッチからロープを伝って兵が続々と降下してくる。
「万事休すか……」
ビスワがつぶやいた。




